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京都の代表的な企業5社のM&Aの目的と戦略
好調な業績を背景に資金力がついたというのはM&Aを成功させるための十分条件だが、決して必要条件とは言えない。M&Aの目的そして戦略こそ、成功の必要条件である[写真拡大]
■M&Aの動きが活発化している京都5社
京都の電子関連の代表的な企業と言えば、まず思い浮かぶのが京セラ<6971>、日本電産<6594>、村田製作所<6981>、ローム<6963>、オムロン<6645>の5社だろう。FA・制御機器が主力のオムロン以外の4社は、電子部品セクターで日本を代表するメーカーである。業績も好調で、今年3月期決算は京セラの営業減益以外は増収増益が揃い、最終利益は30.6~80.1%の2ケタ増益。4~6月期決算も減益のオムロンを除けば2ケタ増益が揃っていた。この「京都5社」の最近の特徴は、M&Aの動きが活発化していることである。
大きな石の間に入れる「詰め物」を買収する日本電産
M&Aを巧みに駆使した経営といえば、まずイメージされるのが日本電産。今年も5月にイタリアのモトールテクニカを買収し、7月にはインドネシアのガラスレンズ加工会社、ナガタオプトインドネシアを子会社の日本電産サンキョーを通じて買収することで合意している。
日本電産の永守重信会長兼社長は7月22日の4~6月期決算説明会で、M&Aを城の石垣にたとえて、こう言っている。
「大きな石を積み上げるだけでなく、間に小さな石を詰める『詰め物』が大事。詰め物を買わずに大きな石を載せると収益はなかなかあがらない。500億円の会社を買って、次に50億円の詰め物を買うと、1000億円の価値が出る。詰め物を忘れずに買うことがM&Aで連戦連勝するための秘訣だ」
日本電産は昨年、ホンダエレシス(現・日本電産エレシス)を約500億円で買収した。この大型M&A「大きな石」で衝突防止システムなど先進運転支援システム(ADAS)の事業基盤を確立し、世界の自動車メーカーからADAS分野で注目される存在になった。
しかし、車載カメラ用レンズの技術は温度変化に弱いプラスチックレンズが主体で、精度に難点があった。それを補った「詰め物」が7月に買収に合意したナガタオプトインドネシアである。その売上高は日本円換算で5億円程度の小型M&Aだが、温度変化に強いガラスレンズの技術を持っているので、衝突防止などADAS用の車載用カメラで高い精度を実現できるメドが立った。技術的にみてそんな大きな意義がある。
5月に買収したモトールテクニカも売上高15億円程度の「詰め物」だが、発電機、産業用モーターの設計・製造だけでなく修理やメンテナンスまで幅広く行っていることが重要。日本電産はヨーロッパで発電機、産業用モーターの製造・販売を手がけているが、このM&Aで設置サービス、修理、メンテナンスなども自前で行えるようになり、トータルなアフターサービスを提供して顧客満足度の向上、採算の改善が望めると見込んでいる。
これが「大きな石」大型M&Aと「詰め物」小型M&Aを組み合わせる、日本電産流のハイブリッドなM&A戦略である。永守会長兼社長は「年内に5~6社の詰め物を買った後、大きな石を買う」と話している。
■京セラの国内TOBの狙いは「半導体生産への進出」
7月30日、京セラは神奈川県秦野市に本社があるパワー半導体メーカーの日本インターに対する株式公開買い付け(TOB)実施を発表した。筆頭株主の産業革新機構、横浜銀行の保有全株を買い付け、発行済株式数の61.02%にあたる。買付総額は106億円以上になる見通し。
日本インターは、自動車や産業機器向けダイオード(パワー半導体の一種)に強みがあり、回路のスイッチングを高速で行う「ショットキーバリアダイオード」では世界シェアの7%を占める。債務超過に陥っていた昨年、事業再生スキームを終えている。
M&Aの目的は「事業の多角化」だ。京セラは半導体を保護するセラミック製部品「半導体パッケージ」で世界のトップシェアを占め、半導体基板、半導体製造装置用部品の製造も手がけているが、半導体そのものの生産にはほとんどタッチしていなかった。今回のTOBで日本インターを子会社化することで、半導体生産事業への参入を果たす。
国内の半導体産業は一般には「80年代のピークから衰退した」と思われているが、分野を絞れば日本メーカーがその強みを発揮して世界で高いシェアを取れる余地がある。その一つが、電装化が進む自動車や産業機器に使われる「パワー半導体」で、まだまだ大きな成長力を秘めている。「ショットキーバリアダイオード」で世界第4位のシェアを有する日本インターをM&Aで獲得することで、京セラは最初から高いポジションで半導体生産に進出できる。
京セラ流の生産管理、技術力、海外販売網などの経営資源を取り入れ、半導体パッケージの販路とも組み合わせて、世界市場でさらなるシェアの拡大を目指す。
■オムロン、ローム、村田製作所のM&A戦略の目的は?
オムロンは2015年3月期からの3年間、M&Aに600億円の投資枠を設けている。その目的は、従来の自社開発にM&Aを加えることで主力の制御機器事業の技術力をより向上させ、その売上高を伸ばすこと。制御機器事業の「最強化」は、長期経営ビジョンの基本戦略である。7月30日にはアメリカのモーション制御機器メーカー、デルタ・タウ・データ・システムズ(DT)の株式を100%取得してグループ会社化する契約を締結したと発表した。買収金額は約100億円。DTは半導体製造装置やスマホの工作機械、ロボットなどを高速で動かすモーションコントローラーでは世界最高水準の技術を持っており、これを自社の技術に取り込む。
ロームのM&Aの目的は自社技術の強みを伸ばすという色彩が濃い。7月22日、アイルランドのパワーベーションを約87億円で買収し、完全子会社化した。電源IC(電源の電圧を一定に保つ製品)について、ロームはアナログ方式では高い世界シェアを有しているが、大電流への対応や遠隔制御が可能なデジタル方式の技術が欠けていた。パワーベーションはそのデジタル電源制御ICの技術で成長したベンチャーである。M&Aで同社を獲得したことで、ロームは自動車や産業機器だけでなくデータセンターや基地局で必要とされる技術も手に入れることができ、電源の分野で世界シェアのさらなる拡大を狙うことができる。
村田製作所は昨年、アメリカのペレグリン・セミコンダクターを過去最大規模の約490億円で買収した。その目的はスマホ向け電子部品での外部調達の内製化だった。村田製作所はスマホ用の積層セラミックコンデンサー、表面波フィルターでは世界トップシェアを有しているが、スマホのアンテナまわりの部品、表面波フィルターをモジュール化してスマホメーカーに納入する際、高周波スイッチはペレグリンから調達していた。M&Aにより内製化できればコストダウンで収益性が向上するだけでなく、技術の幅が広がるメリットもある。
このようにM&Aやアライアンスの手法を駆使して、既存製品の部品からその周辺の部品に向かって領域を拡大していくというやり方は、村田製作所独自の「にじみ出し戦略」と呼ばれている。
このように京都の電子関連の優良企業5社は、それぞれ分野は異なるが、日本電産は「大型M&Aと小型M&Aの併用」、京セラは「半導体生産への進出」、オムロンは「制御機器事業の最強化」、ロームは「電源でのデジタル技術の取り込み」、村田製作所は「周辺部品へのにじみ出し戦略」と、M&Aに関して明確な目的、戦略を持っている。好調な業績を背景に資金力がついたというのはM&Aを成功させるための十分条件だが、決して必要条件とは言えない。M&Aの目的そして戦略こそ、成功の必要条件である。(編集担当:寺尾淳)
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