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【小倉正男の経済羅針盤】原油価格低落とニッポンの行方
■原油価格は40ドル台割れ目前に低落
原油価格が下げ止らない。NY原油先物価格が、1バーレル=44ドル台に売り込まれて5年9ヶ月ぶりの安値更新となった。40ドル台割れがいまや目前である。
ロシア、イランなどが原油安の直撃を受けている。ロシア、イランなどはいずれも石油採掘原価・損益分岐点が割高で、いまの原油価格では採算が合わないとされている。大幅な赤字操業に陥っているとみられる。
それどころか、アメリカのシェールオイル開発企業に倒産が出るなど大揺れとなっている。シェールオイルも採掘原価が割高であり、原油価格低落で資金が廻らなくなっている。
シェールオイルは急成長・急拡大の咎めか、早くも「バブル崩壊」がささやかれ始めている。原油価格が下げ止まらなければ、アメリカの債券・株式など金融市場の混乱が避けられない――。ここでも原油価格低落の影響は小さいものではない。
■サウジの「ロシア潰し」「シェールオイル潰し」
サウジが、「原油の減産をしない」と表明したことから、原油価格低落に拍車がかかった。
歯止めがかからなくなりついには半値を割り込み、いまや高値の「100ドル台」から60%の値下げとなっている。
サウジとしては自国が減産しても、ロシア、シェールオイルが減産しなければシェアを下げることになる。減産はまったくやる気もないし、できないという立場だ。 それどころか、最近ではロシアやシェールオイルが減産しても、サウジは減産しないと表明している。
サウジアラビア、クウェートなどの「金持ち国」はそれでも耐えられる。サウジなどの石油採掘原価は、ロシアやシェールオイルに比べてきわめて低い。すでに供給過剰なのだからそれを認めて、安い原油価格を受け入れるという立場である。
原油価格の極端な低落は、サウジの「ロシア潰し」、あるいは「シェールオイル潰し」にあるとすれば、すでに功を奏しているといえそうだ。しかし、サウジとしては、これら競合国の過剰な供給力が潰れるのを見届けるまでは手は緩めない、というところか。
■1987年からの「不動産・株式バブル」は円高で進行した
私などは、原油価格低落で懸念すべきはデフレ、と読んでしまうわけである。
ところが、日本のエコノミスト筋の一部には、原油価格低迷と金融の質量超緩和で、「(日本に)バブルが来る。株式・不動産は買い」とテレビでたびたび推奨する向きがある。
「前回のバブル(1987年勃発の不動産・株式バブル)発生と状況が似ている」というのである。
だが、違うものがある。エコノミスト筋は触れていないのだが、為替である。 1987~1991年の「不動産・株式バブル」では、85年のプラザ合意で1ドル=240円から1ドル=120円になった。円の価値は2倍になり、ドルの価値は半分になった。要するに2倍の「円高」になった。
この「円高」で、最大の輸入品である石油(値下がりもしていたが)などをさらに低廉に買えたわけだから、貿易収支は大幅黒字になった。
貿易で稼いだおカネが国内に溢れ、これが銀行に溜まった。何故なら「円高」だからということで設備投資は手控えられたためだ。「円高」で不況が来る――、と金融緩和が実行された。カネ余りになりそれらが不動産・株式に流れていったわけである。
■それ以前のバブルは「大正バブル」のみ
日本経済では、それ以前のバブルといえば「大正バブル」(1915~1919年)しかない。
第一次世界大戦(当時は欧州大戦と呼ばれた)勃発で、日本から軍需品、食料品が欧州諸国に輸出された。
大戦でイギリスなどの手が廻らないアジア市場には、日本の綿紡績品などが輸出され、貿易収支がはじめて大幅黒字に転換した。東洋紡、鐘紡などが大会社になり、大阪は「東洋のマンチェスター」と呼ばれた。
大戦で船舶不足となり、日本の船舶が貴重となり、しかも船賃=運賃が大暴騰となった。貿易外収支も大幅に黒字になった。国内には造船ブームが起こり、三井物産が岡山・玉野に巨大造船工場(三井造船)をつくった。50%~70%配当などという会社が続出する騒ぎで、降って沸いたようなとんでもない好景気だった。
この時も、為替は基本的に「旧平価」で1ドル=2円という実力を大きく超える円高だったのではないか。日露戦争の戦費調達で外債を発行しており、この利払いや返済には実力以上の円高が必要だった。それに石油などの海外資材購入にも円高は必要だった。
日本に「3度目のバブル」が勃発するという説は、楽しみなことながら、いまのところはそうですかと聞き流すしかないだろう。先々何が起こるかわからない。だがむしろいまは、デフレの再燃に注意したほうがよさそうに思えるが、どうだろうか。(経済ジャーナリスト。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』(PHP研究所)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)
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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。
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