「はやぶさ2」と共に深宇宙へ送り出された3機の小型宇宙機たち

2014年12月6日 20:19

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記事提供元:sorae.jp

「はやぶさ2」と共に深宇宙へ送り出された3機の小型宇宙機たち(Image credit: 九州工業大学、多摩美術大学、JAXA)

「はやぶさ2」と共に深宇宙へ送り出された3機の小型宇宙機たち(Image credit: 九州工業大学、多摩美術大学、JAXA)[写真拡大]

 12月3日に小惑星探査機「はやぶさ2」を宇宙に送り出したH-IIAロケット26号機には、「はやぶさ2」のほかに、「しんえん2」、ARTSAT2-DESPATCH、PROCYONという、3機の「小型副ペイロード」が一緒に搭載されていた。

 これはH-IIAロケットで衛星を打ち上げる際、ロケットに余力がある場合に、小型の衛星を一緒に搭載して打ち上げるというもので、2009年の「いぶき」の打ち上げを皮切りに、これまで5回行われ、24機の小型衛星が打ち上げられている。今回の3機は「はやぶさ2」と共に、太陽を回る軌道に投入されることから「小型副『衛星』」ではなく、「小型副ペイロード」と呼ばれている。ペイロードとは「積荷」などといった意味だ。

「はやぶさ2」とこれら3機の宇宙機はH-IIAロケットに搭載され、12月3日13時22分04秒に打ち上げられた。打ち上げから1時間47分21秒後、まず「はやぶさ2」が分離後され、そしてその約7分後に、まず「しんえん2」が分離された。

「しんえん2」は九州工業大学が開発した宇宙機で、縦・横・高さがそれぞれ50cmほど、質量は18kgほどで、14面体をしている。開発の目的は大きく3つあり、1つ目は熱溶着が可能な炭素繊維強化熱可塑性樹脂(熱可塑性CFRP)を使って宇宙機が造られていることで、まず造ることができるか、そして宇宙で実際に使うことができるかの実証が行われる。2つ目は、アマチュア無線で使われる周波数を使って地球と深宇宙との遠距離通信を行うこと。そして3つ目はNASAとテキサス大学が作った放射線センサーで宇宙放射線を観測することだ。

 ロケットからの分離後、衛星との通信に成功しており、12月4日現在、月よりも遠い地球から約53万km離れたところを飛びつつ、まだ通信ができている状態とのことだ。いずれは電波が届かなくなる、通信ができなくなるが、約1年後に地球に近付く軌道にあり、また宇宙機は太陽電池を持っているため、地球接近時にふたたび通信できるようになる可能性もあるという。

 責任者の九州工業大学・大学院教授の奥山圭一さんは記者会見で、「しんえん2」が九州工業大学や鹿児島大学、また九州内の民間企業の力で開発されたと述べつつ、「実は私の研究室の50%は留学生で、国際色が豊か。九州にこだわらず、世界中の人たちと連携して作った探査機です。小さな探査機ですが、これをきっかけに、例えば留学生たちが将来、自分の国に帰ったときに、彼らは必ず宇宙開発のリーダーになってくれると思います。今回のことを良い想い出にして、それぞれの国でがんばってくれたらと思います。九州を飛びだして、世界の中で仲良くやっていって欲しいです」と語った。

「しんえん2」の分離から約4分後には、ARTSAT2-DESPATCH(アートサット・ツー・デスパッチ)が分離された。ARTSAT2-DESPATCHは多摩美術大学が開発した宇宙機で、縦・横・高さがそれぞれ50cmほど、質量は32kgほど。茶色いソフトクリームが載ったような独特の外見を持つ。彫刻作品を深宇宙に送り出すことが目的のひとつだ。またこの部分は3Dプリンターで造られおり、3Dプリンターによって造形物の宇宙機への搭載の実証と、一般の宇宙機への応用も期待されている。

 また宇宙生成詩の創作として、機体の各種センサーから得られたデータから、搭載プログラムが自動的に生成したテレメトリーを送信するミッションも持つ。そして世界中のアマチュア無線家が協力し、深宇宙からの微弱な電波を共同で受信する実験というミッションも持っている。

 打ち上げ後、18時50分に宇宙機からの電波の受信に成功し、12月5日時点でもまだ通信ができている状態とのことだ。通信が可能な距離は100万kmほどと見られており、また電池は1週間程度で切れるとのことだ。

 開発を手がけた東京大学・大学院の沢田恭平さんは「機体の中には、MEMSメモリーというメモリーの中にマイクロ加工によって設計図やメンバーの写真を刻んでおり、何千年も残るかと思います。3Dプリンターの部分は宇宙放射線などで朽ち果ててしまっても、そうした儚いところが良いのではと思っています」と語った。

 ARTSAT2-DESPATCHの分離からさらに約4分後には、PROCYON(プロキオン)が分離された。PROCYONは東京大学とJAXAが開発した宇宙機で、約60cmの立方体の形をしており、質量は約65kg。小型のイオンエンジンや深宇宙用の通信装置、カメラなども搭載しており、小柄ながら立派な小惑星探査機である。1年後に地球スイングバイを行い、「はやぶさ2」とは違う小惑星への航行、探査が計画されている。地球スイングバイ後の評価と、イオンエンジンの実際に宇宙で出せる性能などから、目的地の小惑星が決定される見通しだ。

 打ち上げ後、20時51分に探査機からの電波の受信に成功し、現在も順調に運用が続けられている。

 JAXAでは、来年打ち上げる予定のX線天文衛星ASTRO-Hでも4機の小型衛星を相乗りさせる予定だ。また、今年4月からは有償での相乗り衛星の募集も開始しており、ASTRO-Hに相乗りする4機のうち1機が有償のものになるとのことだ。

■JAXA | 超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」の飛行状況について
http://www.jaxa.jp/press/2014/12/20141204_procyon_j.html

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