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【インタビュー】映画『イヴ・サンローラン』J・レスペール監督 「苦悩する天才」の姿を描く
9月6日から、いよいよ公開となる『イヴ・サンローラン』。本国フランスでは、公開後すぐに初登場No.1となった、話題作。映画は、天才が手にした成功と苦悩を、リアリティにこだわった美しい映像と繊細な描写で綴っており、公私ともにサンローランのパートナーだったピエール・ベルジェ氏の全面協力により、イヴ・サンローラン財団が保有するアーカイブを贅沢に用いた、財団初の公認作品となっている。今回、来日したジャリル・レスペール監督(以下、JL)に話を聞いた。
サンローランは想像以上に謎めいていて面白い人物だった
―そもそも「イヴ・サンローラン」というデザイナーを、映画の題材にしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
JL:まず、最初の理由として、(映画を撮るなら)広がりがあって、エネルギーが感じられるような、それでいてピュアにフランス的な素材の物語を撮りたいと思っていました。ですから、探していた題材は、典型的なフランスのものでありながら、国際的な広がりのあるようなもの、そう考えたときに“ファッション”に行きつきました。
そこで、“ファッション”と決めて、その中で「誰が私の心に響くだろうか」と考えた時に、「イヴ・サンローラン」にたどり着きました。最初は、あまり彼について詳しく知らなかったのですが、いろんな資料を読んで行くうちに、思ったよりもずっと謎めいた、面白い人物だということがわかってきました。それから、「イヴ・サンローラン」の映画を撮りたいというのが、自分の心をとらえて離さないものの一つになりました。
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia
―なるほど。では、誰かの紹介などではなく、監督が見つけられたのですね。
JL:そうです。
―そして、実際に「イヴ・サンローラン」を撮られたわけですが…。あまりにも偉大なデザイナーを撮ることは、非常に大きなチャレンジだったと思います。映画が完成してみて、如何ですか?
JL:私は、映画を撮って完成品を見ると、大体自分が好きで誇りに思える部分と、あまり好きでない部分があるのですが、この映画に関しては、それがありません。映画としてフランスでもとても好評で成功していますし、それから俳優のピエール・ニネが、とにかく素晴らしい演技をみせてくれています。映画を見た人は、みんな彼の演技を褒め、この映画が観客に受け入れられて本当に嬉しいです。
―この映画の素晴らしさはいくつもありますが、やはりショーの描写や緊張感、衣装の素晴らしさは圧巻です。聞くところによると、衣装はYSL財団のアーカイブを借りているということでしたが、撮影にあたり、大変だった点などありますか。
JL: YSL財団には、保管部門というのがありまして、そこは美術館のように保存管理をしているのですけれども、そこの協力が不可欠でした。そこに、ピエール・ベルジェ氏のほかに、ドミニク・ド・ロッシュという、30-40年もサンローラン氏のアシスタントをしていた女性の方がいるのですが、彼らの協力のもとに、まずどれが重要なピースかというのを選びました。そして、それを実際のセットに持ってきて撮影するときには、とにかく痛めないように、作品を破壊しないようにというのが、一番気を付けた点です。というのも、ご存知のように、もう素材(生地)自体がない、どれもこれもユニークな世界に一つの作品でしたので。
パートナー・ベルジェ氏の全面的な理解
―その辺りの緊張感もあってでしょうか。ファッションショーの緊迫した空気はとてもよくでていると思います。また、衣装以外にも、とてもよくできていると思ったのが、全体的な“リアリティ”です。例えば、実際にイヴ・サンローランが別荘として使用していたマジョレル庭園(モロッコ)での撮影や、アパルトマンの雰囲気もかなり近いですし、相当リアリティにはこだわられたのでしょうか。
JL:アパルトマンは、実際に住んでいた所ではないのですが、部屋を再現するにしても、彼らが飾っていた作品などを忠実に再現しました。スタジオに関しては、クリスチャン・ディオールのクリエーションスタジオ(仕事場)での撮影ができましたので、スタジオも実際にその場所に行きました。いわゆる舞台背景的なものに関しては、とにかく正確をきしたかったのです。その中でも、特に洋服の作品に関しては、デッサンにしろ、ドレスにしろ(ファッションピース)にしろ、これはもう本物を使いたい、というのを決めていました。
―そうなると、やはりベルジェ氏による協力が大変大きいですね。
JL:ベルジェ氏の協力がなければ、不可能でした。マルソー通りで‘62年のファッションショーをそのまま再現しているのですが、あのシーンなんかもベルジェ氏の協力がなければできなかったと思います。
―そうなってくると、ベルジェ氏の貢献度は並大抵ではありませんが、一方で、今回の映画の中で、ベルジェ氏は、必ずしも好人物として描かれているわけではありません。勿論、イヴ・サンローランの唯一無二のパートナーとして描かれていますが、その素晴らしさよりも、むしろ嫌な部分が赤裸々に描かれています。その辺りについて、反発はなかったのでしょうか。
JL:それは、なかったです。ベルジェ氏には、撮影前に台本を送り、読んでもらいました。勿論、読んで全てに賛成という訳ではなかったのですが、彼はこの映画がフィクションであることを理解してくれていました。
具体的に何を言われたかはもう思い出せませんが、「いや、自分はこの時はこうは言っていない」みたいな小さいコメントはありました。でも、私も大筋は事実を踏まえながら脚本を書きましたし、そもそもこの映画は誰それをジャッジするための映画ではないので、それはベルジェ氏もわかってくれました。
それに、全てのフィクションでそうですが、欠点のある人物の方が愛されます。ベルジェ氏はインテリジェントなので、そういう面も理解してくれたと思います。
(C)WY productions - SND - Cinefrance 1888 - Herodiade - Umedia
―映画の中の他の見どころに、当時の華やかな交友関係があります。現在でもファッション業界をリードする大物も登場していますが、その辺りはヒアリングなど、綿密な調査をされたのでしょうか?
JL:いえ。実際の人に会いにいって、それをもとにして脚本を書くというやりかたではなかったです。それに、カール・ラガーフェルド氏なんかはとても忙しくて会うことはできませんでした。いずれにせよ、もし仮に会って取材していたとしても、その人たちの目を通している段階で、もう現実には(その人の主観的)解釈が生まれてしまうので、私のやり方は、伝記などを読んで、それぞれから要素を持ってきて書くという方法をとりました。ですから、現実をそのまま再現しようとはしなかったです。やはりフィクションであり、そこでは“物語を選んで語る”ということを心がけました。
普通の人たちのように生きられない天才たちの苦悩を描く
―さて、本映画は非常に高い評価を受けていますが、監督ご自身は、この映画のどこが評価されている点だと思いますか。
JL:まず、「イヴ・サンローラン」という人物自体が、フランス人にとってはすごくアイコニックな、とても惹きつけられる魅力的な存在である、ということが成功の要素だと思います。
あと、もう一つは、やはりフランスも今、不安の時代といいますか、人々が色々不安に思っている時代だと思うのですが、“夢の為に戦う人”の映画というのは、これをみて、フランス人が、この不安に満ちたフランスという国にあっても、何かを成功できる、人生で何がしかを成し遂げることができる、超越した存在になることができる、ということを知ってもらえるからではないでしょうか。
―今回、監督が映画に込めたテーマ、あるいはメッセージなどありますか?
JL:何か具体的なメッセージがあるというわけではないです。というのも、私が映画を作る時に何かを伝えよう、あるいは、このメッセージを伝えたい、と思って映画をつくるタイプではなく、自分自身が感動した、琴線にふれたストーリーを語りたいと思って作っているからです。
では、今回この映画では何かというと、それは先程もでましたが“夢にむかって戦う人”または“自分の能力を超越できるように生きている人々”というのを描きたかったのです。とくに“天才の苦悩”、イヴ・サンローランやランボー、ジミー・ヘンドリックス、ヴァン・ゴッホなどのような天才たちの生き方を語りたかったのです。
彼らは、苦しみながらも、生き残るために、“これをやらなければ自分は生きられないと思う絶対的な必然につき動かされてクリエーションを行う天才たち”だと思うのです。ですが、あまりにも感受性が強すぎて、普通の人のようには生きられない人々が、生き残るために“もうこれがなければ生きられないがゆえに自分を表現する”という姿を描きたいと思いました。
―華やかで美しいシーンとは対極的に描かれる切ない苦悩も、監督の想いを知った上で映画を見ると、また少し違う感じ方をするかもしれません。今日は、有難うございました。
(インタビュー・文:Naoyo Madison/編集:アパレルウェブ)
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『イヴ・サンローラン』
9/6(土)より角川シネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネマライズ他全国ロードショー
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◆監督:ジャリル・レスペール
◆出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ 、シャルロット・ル・ボン、ローラ・スメット、ニコライ・キンスキー
◆配給:KADOKAWA
◆上映時間:1時間46分
◆公式サイト:http://ysl-movie.jp/
◆2014年 ベルリン国際映画祭 パノラマ部門 オープニング作品
【ストーリー】
1957年、パリ。21歳の新進デザイナー、イヴ・サンローランは、クリスチャン・ディオールの死後、後継者として指名され一躍世界の注目を集める。その若き天才は、初めてのコレクションを大成功させ、衝撃的なデビューを飾る。その才能に惹かれた26歳のピエール・ベルジェは、ディナーの席でイヴに出会い、たちまち恋に落ちる。ベルジェはイヴをデザイナーとして独立させ、イヴ・サンローラン社を設立。そしてその関係は、二人の運命を大きく変えたばかりでなく、世界のファッションの歴史を変えることになる。しかしその一方で、表現者ゆえの孤独とプレッシャーに苦しみ、イヴは薬物やアルコールに依存するようになっていく・・・。
※この記事はアパレルウェブより提供を受けて配信しています。
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