【小倉正男の経済羅針盤】アベノミクスは「賃上げ」をもたらすことができるか

2013年2月9日 17:47

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

 コンビニ大手のローソンが、グループ社員3300人を対象に新年度年収3%引き上げを決めた。安倍晋三総理は、「こういう動きが相次いでくれることを期待している」と発言――。

 ローソンの年収アップは、20歳代後半から40歳代の子育て世代の社員の労働意欲を引き出すのが狙いで、賞与を増額する。

 ローソンは、これを内部留保の取り崩しで賄うとしている。厳密には賃上げ、いまや「死語」だがベースアップではなく、ボーナスによる年収アップということになる。

 安倍総理は、経済諮問会議などで、「業績が改善している企業は、報酬の引き上げを通じて所得の増加につながるように協力をお願いしていく」と表明してきた。

 経済団体など経営サイドは春闘を控えており、一様にいわゆる賃上げにはNOという反応だ。しかし、アベノミクスは、あえて従業員の所得増加を呼びかけているわけである。

 ローソンの新浪剛史社長は、政府の産業競争力会議のメンバー、アベノミクスに賛同して年収アップを決断したとしている。確かに、国民の所得が上がらなければ、つまり懐が豊かにならないとデフレに向き合うことはできない。

 実体景気の回復は依然として底ばい状態。「隗より始めよ」、というローソン新浪社長の動きだが、景気の大底を叩いて、はたして上に離れる先駆けになれるか。

■「金融恐慌期」に降って沸いた「ナゴヤ景気=トヨタ景気」勃発

 10年前の2000年代前半のことだが、大手銀行など金融大再編成期、もっといえば「金融恐慌期」にあった。全国的に景気のドン底期、小泉純一郎内閣の時代である。

 しかしこの時期、トヨタ自動車のクルマがアメリカで売れまくり、現地生産だけでは足りず輸出も絶好調。名古屋港などは積み出し用のトヨタの新車で埋まっていた。

 トヨタは、断トツの日本一収益企業となったが、賃上げは頑として行わなかった。ただし、年を追ってボーナス増は促進した。

 「国内で稼いだわけではなく、アメリカで稼いだもの」。それがトヨタの賃上げゼロ回答の理由だった。 トヨタグループ基幹各社などの幹部社員は、「ウチとしては本当は賃上げしたいが、トヨタ本体が賃上げしないのだから、グループ企業が勝手に賃上げすることはできない」、と本音を漏らしたものであった。

 ところで、である――。だが、それでも降って沸いたように「ナゴヤ景気=トヨタ景気」が勃発した。

■「儲けた人」がおカネを使わないと景気はよくならない

 単純な話、「ナゴヤ景気=トヨタ景気」が勃発したのは、結果、トヨタグループがおカネを使ったからだ。

 身近なメディアに関連することでいえば、トヨタグループからTV、新聞、雑誌に広告が出るようになった。さらにこちらのほうがはるかにゴツいが、新本社ビルほかの事務オフィス、工場、研究棟、社員会館といった厚生施設などの新増設も相次いだ。

 賃上げこそなかったが、結果は大判振る舞いになった。

 トヨタ自動車を筆頭にトヨタグループは、利益を利益剰余金(トヨタ自動車=12兆円)、すなわち内部留保として膨大に貯めこんだ。しかし、それでも利益は残る。むざむざ税金に持っていかれるならと支出を増やした。ボーナスや新本社ビル、工場など新増設や広告増などで地域景気を中心に大きく貢献した。

 やはり、サプライサイドの企業が儲からないと、景気が持ち上がらない。賃上げまでいかなくてもボーナス増でも景気には、ひとつの大きなファクターになる。 俗にいえば、「儲けた人」がおカネを使かってくれないと景気は持ち上がらない。

 大恐慌に対するF・D・ルーズベルト大統領のニューディール政策は、立場によって毀誉褒貶が激しいが、企業サイドに賃上げを呼びかけたことは知られている事実だ。

 大統領の賃上げ呼びかけの政策は、評価や見方が大きく分かれている。

 連邦制が壁となり、政府の賃上げ呼びかけは浸透しなかった。あるいは、逆に政府の企業経営・賃金=市場経済への介入は、混乱を助長し経済の回復を阻害した、と。 いずれにせよ、結果として賃上げの要請は成功しなかった。

 やはり、企業収益が根本的に改善しなければ、景気は本質的にはよくならない。

 所得が上がらないから景気がよくならない、景気がよくないから所得が上がらない――。無間地獄のデフレ経済がまだまだ続く。「デフレ脱却」のアベノミクスの最終的な成否は、企業収益の本質的な回復を待たなければならない。(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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