深部異形成を非侵襲に捉える円偏光散乱(CiPLS)イメージング ―子宮頸がん前駆病変の非侵襲診断に向けて―(北里大学)
配信日時: 2026-02-27 14:20:04



北里大学理学部の西沢望教授、医療衛生学部の松本俊英講師、自治医科大学分子病態治療研究センターの口丸高弘教授らの研究グループは、正常上皮下方の腫瘍細胞(異形成)を円偏光の散乱現象を用いた光学的手法、円偏光散乱法(CiPLS法)により検出できることを実証しました。この成果は子宮頸がんの前がん病変である子宮頸部異形成の分布や深さを非侵襲、無染色に計測できる可能性を示唆する結果です。この研究成果は、2026年2月6日付でJournal of Biomedical Opticsに掲載され、掲載号のカバーピクチャに採用されました。
■研究成果のポイント
独自の円偏光散乱法(CiPLS法)に基づく円偏光イメージングにより正常上皮の下に隠れた腫瘍細胞の“深さ”を光学的に計測できることを実証した。
子宮頸がんの前駆病変である子宮頸部異形成では異型細胞が上皮組織の深部に形成される。その異型細胞の深さ方向の分布を計測可能な技術である。
非侵襲、無染色、低負担な子宮頸がんの早期診断技術、経過観察技術として期待される。
■研究の背景
子宮頸がんは、前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を経て進行する。特に軽度異形成(CIN1)、中程度異形成(CIN2)では、異型細胞が上皮表層に露出せず、上皮深部に存在する。CINの進行度は細胞形態そのものよりも、異型細胞が上皮内のどの深さまで広がっているかによって評価される。現状の初期診断方法である細胞診では、正診度が十分でなく部位の特定が難しいという課題がある。そのため、異型細胞の深さ情報を非侵襲的、即時的に画像診断できる新しい手法が求められている。
一方で、円偏光を生体組織のような混濁物質に照射すると、内部の微粒子により散乱され偏光状態が崩れる偏光解消が生じる。このとき、偏光解消の度合いは照射した散乱粒子の大きさに応じて偏光解消の度合いが変化し、散乱光の円偏光度(Degree of Circular Polarization; DOCP)に差が生じる。西沢らの研究グループはこの手法を円偏光散乱(Circularly Polarized Light Scattering; CiPLS)法と名付け、研究を進めている。CiPLS法を生体組織に適用すると、赤から近赤外の波長を持つ円偏光の照射に対して細胞核の肥大化を検出することができる。腫瘍細胞(異型細胞)の細胞核は正常組織のそれに対して2倍程度に肥大化するため、腫瘍組織を光学的に識別することができる。また、この範囲の波長の光は生体組織中を深さ2mm程度まで侵入し表面から放出されるため、その領域内の異型細胞の割合に応じて散乱光のDOCPが変化する。CiPLS法のこれらの特性から、子宮頸部の表面に露出していない異形成、異型細胞の分布、すなわち深さを計測できる可能性がある。
■研究内容と成果
本研究では、健常組織/がん組織/健常組織からなる人工的な三層構造試料を作製し、上層の健常組織の厚さやがん層の厚みを変化させて測定を行った。
617 nmおよび850 nmの2波長の円偏光を試料に照射し、波長板を介した偏光カメラを用いて散乱光のDOCP分布を可視化した。その結果、がん層の深さが増すにつれて、617 nmではDOCPが減少し、850 nmでは逆に増加するという波長依存の明確な変化が観測された。さらに、両波長のDOCP差(ΔDOCP)を用いることで、表面反射などの影響を除去することで非露出のがん層の深さに対して単調に変化する指標が得られた。一方、がん層の厚みはDOCPに与える影響が比較的小さく、CiPLS法は主に“深さ”に高い感度を持つことが示された。
これらの結果から、CiPLS法に基づく円偏光イメージングは、光の侵入深さ内(数mm)に存在する未露出のがん病変の深さ評価が可能であることが実証された。CIN1〜CIN2における子宮頸部扁平上皮の厚さ(約0.3〜0.7 mm)は本手法の検出範囲内にあり、子宮頸部前がん病変の非侵襲・非染色診断への応用可能性が高いことが示された。
■今後の展開
本研究は人工試料を用いた基礎的検討であり、今後は実際の子宮頸部組織を用いた検証、病理学的特性との相関解析、ならびに軟式内視鏡、コルポスコープへの実装に向けた装置改良が課題として挙げらる。
■論文情報
掲載誌: Journal of Biomedical Optics
論文名: Circularly polarized light scattering imaging of a cancerous layer creeping under a healthy layer for the diagnosis of early-stage cervical cancer
著 者: Nozomi Nishizawa, Mahiro Ishikawa, Mike Raj Maskey, Asato Esumi , Toshihide Matsumoto, Takahiro Kuchimaru
DOI:https:// doi.org/10.1117/1.JBO.31.2.027002
※本研究はJSPS科研費 19H04441, 22H03921, 23K25175, 25K03438、生体医歯工学共同研究、上原記念生命科学財団研究助成、北里大学主題研究(2022-2025)の助成を受けて実施されました。
■用語解説
※1 子宮頸部上皮内腫瘍(Cervical intraepithelial neoplasia; CIN):
子宮頸がんの前がん病変。子宮頸部の扁平上皮は上皮とその下にある間質が基底膜で隔てられた構造になっており、主にヒトパピローマウイルス(HPV)への感染により発生した異型細胞は基底膜の上皮側に発生する。上皮内の異型細胞の割合が1/3以下の状態を軽度異形成(CIN1)、2/3以下を中程度異形成(CIN2)、それ以上を高度異形成・上皮内がん(CIN3)とよぶ。表層まで達すると浸潤方向が基底膜方向に進み、浸潤がんへと進行する。軽度・中程度異形成は免疫により自然治癒することが多いが、高リスク型HPVの持続的もしくは断続的感染により10年単位の長時間を掛けて上皮内がん、浸潤がんへと進行するため定期的な経過観察が必要である。
※2 細胞診:
子宮頸部の細胞をブラシなどで採取し、異形成の有無を顕微鏡で調べる方法。HPV検査と組み合わせて行われることが多い。
※3 円偏光:
光の電場の振動方向が同一面内に揃っている光を直線偏光といい、振動方向が回転しながら伝搬する光を円偏光という。進行方向に対する回転方向から右回り円偏光と左回り円偏光がある。直線偏光と円偏光が混在した光は楕円偏光と呼ばれる。
※4 円偏光度(Degree of Circular Polarization; DOCP):
光の成分のうち、右回り円偏光と左回り円偏光の割合を示す指標。完全な右回り円偏光の円偏光度は+1、左回り円偏光は-1となり、その中間の楕円偏光はその間の値をとる。
※5 コルポスコープ:
子宮頸部や膣の観察を行う拡大鏡、顕微鏡。子宮頸がんおよび前がん病変の検診などに用いられる。細胞診、HPV検査、生検を経てより詳しい病理検査の必要がある場合に用いられることが多い。
■問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学 理学部 物理学科
教授 西沢 望
e-mail:nishizawa.nozomi@kitasato-u.ac.jp
≪取材に関すること≫
学校法人北里研究所 広報室
〒108-8641東京都港区白金5-9-1
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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