海から川へ― ゴカイの“滝登り”〜河川淡水域に進出した新種 「カワスナゴカイ」 を発見〜
配信日時: 2026-02-25 11:20:05
【本研究のポイント】
・佐渡島(新潟県佐渡市)の河川淡水域に生息する新種のゴカイを発見した。
・ゴカイの仲間は一般的に海に生息するため、淡水域から見つかるのは非常に珍しい。
・本種は海洋生物がどのように淡水環境へと進出するのかを解明するための重要な手がかりとなる。
【研究概要】
名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所の下岡 敏士 博士前期課程学生と自見 直人 講師は、長野大学、龍谷大学、新潟大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)との共同研究で新種のゴカイを佐渡島の河川淡水域で発見し、「カワスナゴカイ」と命名しました。
ゴカイの仲間においては淡水に進出したグループは限られており、特に今回発見されたカワスナゴカイが属するウロコムシの仲間では極めて稀で、日本では初めて、世界では2例目の発見です。
海に住む生物が淡水に適応していくには、浸透圧の調節や川の流れに抵抗する必要があるなどさまざまな難題があります。海→淡水域→陸域、と生物が陸上化する前段階となることもあり、淡水適応の仕組みを探ることは生物学的にも重要な課題です。
本研究ではカワスナゴカイと同属の複数種からDNAを抽出し、初めて淡水性種を含むウロコムシ注1)類の系統樹を作成しました。その結果、カワスナゴカイは海に生息する近縁種の中から特異的に淡水に進出した種であることが明らかとなりました。
中国の故事「登竜門」では鯉が滝を登り竜となりますが、それになぞらえ海から川へと大胆な生息環境の転換を果たした本種の学名をPisione mizuchi(蛟(みずち):神話上の水に住む竜)と命名しています。
本研究を元に、生物の進化の過程における重要なイベントである「海洋生物の淡水環境への進出」がより深く明かされていくことを期待します。
本研究成果は、2026年2月24日22時(日本時間)付BioOneが発行する国際査読付き雑誌「Zoological Science」に掲載されました。
【研究背景と内容】
地球の歴史の中で、生物は海洋を起源として、淡水域や陸上へと進出することを繰り返して多様化してきました。海洋生物が淡水環境で生活していくためには、海と大きく異なる浸透圧に適応する必要があることから、生物進化の重要なイベントとして注目されてきました。淡水環境への進出は魚や甲殻類など多くの海洋生物にみられる現象であることが知られています。環形動物ではミミズやヒルなどが淡水進出したグループとして有名ですが、ゴカイの仲間においては限られたグループからしか知られていませんでした。
このたび、名古屋大学博士前期課程2年の下岡 氏、自見 講師らが佐渡島の河川淡水域から新種のゴカイ「カワスナゴカイ」を発見しました。
カワスナゴカイは3つの河川の淡水が流れる下流域の砂利の中から発見されました。最初に見つかったのは、新潟大学の学生実習がきっかけでした。その後の調査により、河川に設置されたコンクリート堰の上部や、約700m上流の急流域からも採集されています。
今回見つかったカワスナゴカイはウロコムシと呼ばれる仲間のゴカイのグループです。ウロコムシの仲間は非常に種が豊富で、浅海から深海まで多様な環境に適応している大きなグループですが、淡水に生息する種は極めて稀で、日本では初めて、世界では2例目の発見です。
さらに、これまでDNA情報が存在しなかった淡水性ウロコムシ類について、カワスナゴカイと同属複数種からDNAを抽出することで、初めて淡水性種を含むウロコムシ類の系統樹を作成しました。その結果、カワスナゴカイは海に生息する近縁種の中から特異的に淡水に進出した種であることが明らかになりました。
カワスナゴカイの学名のPisione mizuchiの種小名は、日本や中国の伝説に登場する、川などの水辺にすむ竜「蛟(みずち)」にちなんで命名しています。中国の故事「登竜門」において鯉が滝を登って竜となるように、海から川への大きな生息場所の転換を果たしたカワスナゴカイは、日本の陸水域が持つ独自の生物多様性を象徴するとともに、海洋生物が新たな環境へ適応していく進化の過程を解明するうえで重要な手がかりとなります。
図1. A–C, カワスナゴカイ。 A, B, 全身図、
C, 頭部拡大。つぶらなひとみがかわいい。
図2. A, カワスナゴカイが採集された佐渡島内の地点と河川名、 B, 梅津川、
C, 椿川、D,カワスナゴカイが生息する川の中の砂利(椿川)
【成果の意義】
現段階では、カワスナゴカイがどのように生活して河川域で世代交代を繰り返しているのか、浸透圧をどのように調節しているのか、という淡水適応のメカニズムは未解明です。今後のより詳細な調査で本種の生態が明らかになれば、淡水適応の鍵が解明されていくと考えられます。多くの海に生息する近縁種の中で特異的に淡水に生息するカワスナゴカイは、海洋生物の淡水進出のメカニズムに迫るための新たなモデルとなることが期待されます。
本研究は、成茂動物科学振興財団、科研費 22K15165・25K02333、国立科学博物館 総合研究 極限環境の科学、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20194R02)の支援のもとで行われたものです。
【用語説明】
注1)ウロコムシ:
ウロコムシ亜目 Aphroditiformia のゴカイの総称。ゴカイの中でも非常に大きなグループで、一般的に体の背面がウロコで覆われていることが特徴。カワスナゴカイはその中のノラリウロコムシ科スナゴカイ属に属し、ウロコが退化した特殊なグループである。
【論文情報】
雑誌名:Zoological Science
論文タイトル:Freshwater Colonization by a Scaleless Scale Worm: Pisione mizuchi sp. nov. (Annelida: Sigalionidae) from Sado Island, Japan
著者:Satoshi Shimooka(名古屋大学), Yoshito Mitsuo(長野大学), Keiko Kishimoto-Yamada(龍谷大学), Akihito Omori(新潟大学), Natsumi Hookabe(国立研究開発法人海洋研究開発機構), Naoto Jimi(名古屋大学)
DOI: 10.2108/zs250042
URL:https://doi.org/10.2108/zs250042
▼本件に関する問い合わせ先
名古屋大学総務部広報課
TEL:052-558-9735
FAX:052-788-6272
メール:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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