世界初、大型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場予測に高精度なAI手法を適用 ~QSTとNTTの共同研究成果が革新的な技術の実用化に向けて進展~

プレスリリース発表元企業:日本電信電話株式会社

配信日時: 2025-03-17 15:04:52







発表のポイント:

核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場を複数のAIを活用して予測する手法を開発。トカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAに適用し、プラズマ位置形状を高精度で再現するとともに、高速で状態が変化するプラズマ予測へのAI活用の可能性を開拓。
QSTとNTTの連携協力協定に基づいた共同研究の成果(AIを用いたプラズマ予測技術)について、JT-60SAへの実装に見通しを得た。今後さらに連携を強化し、革新的な環境エネルギー技術の進展に貢献。

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(本部:千葉県千葉市稲毛区、理事長:小安重夫、以下「QST」)と日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、大型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場に適用するAI予測手法を確立しました。
 QSTとNTTは2020年に連携協力協定※1を締結し、世界に先駆けた革新的な環境エネルギー技術の創出をめざす共同研究を進めてきました。
 今回、混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)※2という逐次変化する状況に応じて最適なAIモデルを重み付けして統合する手法を適用し、プラズマを高精度で予測する技術を確立し、世界最大のトカマク※3型超伝導プラズマ実験装置JT-60SA※4の実際のプラズマ閉じ込め磁場を評価しました。その結果、磁場構造に依存するプラズマの位置や形状を実際のプラズマ制御に必要となる精度で再現することに世界で初めて成功しました。従来の物理法則に基づく解析的な再構築手法※5では、逐次変化するプラズマ境界(周辺)部の位置形状の制御までが原理的に可能でしたが、本手法によって、従来手法では不可能であった、プラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布まで複数の制御量をリアルタイムに制御できる見通しを得ました。
 本成果はJT-60SAの今後の加熱実験において高温プラズマのリアルタイム制御に挑戦するにあたって有効であるとともに、より大きなプラズマを少数の計測器で制御するイーター※6や原型炉※7などの核融合炉のプラズマ予測制御に繋がる画期的なものです。本成果を受けてQSTとNTTは2020年に締結した連携協力協定をさらに延長することに合意し、引き続き、フュージョンエネルギーの早期実用化に向けて連携して取り組みます。


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JT-60SA全景

1.背景
 革新的な環境エネルギーであるフュージョンエネルギーの原型炉に向けて、世界的に最も進展しているトカマク方式では、プラズマ自身に流れる電流によって閉じ込め磁場を形成する性質上、プラズマ中に電流を流し続ける必要がありますが、その電流や圧力に起因する不安定性が発生する可能性があります。安定した原型炉の活用には、これらの不安定性を未然に予測し、適切に制御することが重要であり、制御に必要となるプラズマ閉じ込め磁場を計測信号からリアルタイムかつ高精度で再構築する手法の確立が課題となっていました。その解決策の一つとして、本共同研究では、世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAの制御に活用することを目的に、最適化問題を得意とするAI技術を利用したプラズマ閉じ込め磁場を高い精度で評価する手法を開発してきました。

2.研究の手法と成果
 プラズマ閉じ込め磁場の制御は、真空容器に取り付けられた計測器の信号からプラズマ閉じ込め磁場を再構築し、次にその再構築結果と目標値とのズレを修正するために必要な磁場を生成するためのコイル電流の差分を計算し、コイル電源へ指令する、という流れで行います(図1)。従来のプラズマ閉じ込め磁場の再構築には物理法則に従った計算量の大きな複雑な方程式を解く操作を段階的に行わなくてはならないことが課題でした。そこで我々はAI技術を活用して、計測信号の情報から物理法則を使わずに1回の計算で閉じ込め磁場を予測できる手法の開発を進めてきました。しかし、単一のAIモデルではプラズマが時々刻々と変化する過渡的な状態でのプラズマ閉じ込め磁場の予測には、要求精度を満たすことができませんでした。
 そこで今回、混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)という状態把握・指令制御AIが複数存在する状態AIモデルに対し、適切に重み付けを行いながら、逐次変化するプラズマの状況に応じて最適化されたAIモデルでプラズマ閉じ込め磁場を評価する手法を開発しました(現在特許申請中)。本手法をJT-60SAでの実際のプラズマ閉じ込め磁場で評価した結果、プラズマの制御に必要となるプラズマ位置形状の精度(~1 cm、世界最大のプラズマに対して約1%となる世界一の高精度)を、複雑な計算を実施すること無く、AIで再現することに世界で初めて成功しました(図2)。特に、プラズマ中に流れる電流が定常ではなく変動しているような状況下において、単一のAIモデルではプラズマ閉じ込め磁場の再構築精度は低下してしまいますが、混合専門家モデル(MoE)を用いることにより、状態把握・指令制御AIが状態AIモデルに適切に重み付け処理を行うことで、このような過渡的な状況においても精度よくプラズマ閉じ込め磁場を評価することができました(図3)。
 また、従来の手法※5ではプラズマ境界部の位置形状の制御までが原理的に可能でしたが、本手法によってプラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布までリアルタイムに制御できる見通しを得ました。
 

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図1.左図:プラズマ閉じ込め磁場制御の一連の流れ。右図:混合専門家モデル(MoE)は、プラズマの状態に応じてAIモデルに重み付けを行い、最適なモデルで評価を行う。


 

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図2.左図:プラズマ境界部の磁気面が従来の再構築手法と今回の手法で合致した(従来手法では原理的にプラズマ内部の再構築ができない)。右図:本手法をJT-60SAの実際のプラズマに適用し、妥当性を評価。
 

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図3.左図:プラズマ中に流れる電流が変化する状況下では、全体で最適化された単一のAIモデルを用いるとプラズマ閉じ込め磁場評価の精度が低下する。右図:混合専門家モデル(MoE)を用いることにより、様々な状況下においてAIモデルが最適化され、高精度でプラズマ閉じ込め磁場を評価する。

3.各社の役割
・QST:プラズマ制御の知見に基づくロジックの設計や物理解析コードの提供、JT-60SA実データへの適用
・NTT:AIの技術提案、モデル設計

4.今後の展開
 本成果は、JT-60SAの今後の加熱実験において高温プラズマのリアルタイム制御に挑戦するにあたって有効であるとともに、より大きなプラズマを少数の計測器で制御するイーターや原型炉などの核融合炉のプラズマ予測制御に繋がる画期的な成果です。本成果を受けてQSTとNTTは2020年に締結した連携協力協定をさらに延長することに合意し、NTTが持つIOWN構想※8をはじめとする先進技術を核融合研究開発に適用しながら、引き続き、フュージョンエネルギーの早期実用化に向けて連携して取り組みます。

【用語解説】
※1…日本電信電話株式会社と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構連携協力協定の締結について
https://www.qst.go.jp/site/press/45578.html
(日本語)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/11/06/201106a.html
(日本語)

※2…混合専門家モデル(Mixture of Experts; MoE)
機械学習において特定の問題に対して最適な解を提供するために、複数の専門家(Expert)モデルを組み合わせて推論するアプローチです。入力データに応じて、それぞれの専門家モデルの出力を重み付けすることで、状況に応じてAIモデルの予測を統合して最適化を行い、1つのモデルよりも高い性能を発揮できる特徴があります。

※3…トカマク
高温プラズマを磁場により閉じ込める方式の一つ。外部コイルによって作られる主たる磁場である周方向のトロイダル磁場と、プラズマ中に周方向の電流を流すことにより作られる径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、高温プラズマを閉じ込めます。イーターもトカマク型の装置です。

※4…JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンス)
幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置となります。その目的は、イーターの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたイーターの補完研究、人材育成です。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。
URL:https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html
 (日本語)

※5…従来の再構築手法
プラズマ外部に設置された計測器信号とコイル電流から、プラズマ断面形状を推定する数学的手法でコーシー条件面(CCS)法と呼ばれています。プラズマ電流と同じ役割を担う仮想面をプラズマ内部に置き、その仮想面が計測器位置に作る磁場情報と計測値が一致するような仮想面の磁場情報(コーシー条件)を求めることで、プラズマ位置形状を高い精度で推定することができる特徴があります。一方で、原理的にこの手法ではプラズマ内部の情報(磁場分布、電流分布、圧力分布など)までを推定することはできません。

※6…イーター(ITER)計画
日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極の国際協力の下、その建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する計画であり、加熱システムによる入力エネルギーの10倍のフュージョンエネルギー(Q≧10)を得ることが目標です。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、プロジェクト実施のための国際機関であるイーター機構を中心に運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が行われるとともに、各極において担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。
URL:https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/
 (日本語)

※7…原型炉
原型炉とは、JT-60SAやイーターの成果に基づいて建設される次期装置であり、フュージョンエネルギーによる発電と経済性を実証する装置です。現在、世界各国で原型炉の概念設計が進められています。

※8…IOWN構想
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。詳しくは以下ホームページをご覧ください。
■IOWN構想とは 
URL:https://www.rd.ntt/iown/

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