ヒトの脳サイズの撮像が可能な「磁気粒子イメージング装置」を開発
配信日時: 2023-09-07 19:15:42
アルツハイマー病発症前の画像検査の実現に向けて、小型電源で高感度なイメージングに世界で初めて成功
三菱電機株式会社
国立大学法人岡山大学
国立大学法人大阪大学
[画像1: https://prtimes.jp/i/120285/21/resize/d120285-21-cccb6d81a4436c0cfaa3-0.png ]
開発した磁気粒子イメージング装置(試作機) 本装置で撮像した画像
三菱電機株式会社(以下、三菱電機)、国立大学法人岡山大学(以下、岡山大学)、国立大学法人大阪大学大学院工学研究科(以下、大阪大学)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(以下、AMED)の支援のもと、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた「磁気粒子イメージング装置」を世界で初めて(※1)開発しました。この装置を用いて、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβ(※2)に結合する磁気粒子を撮像することで、アミロイドβの蓄積量とその分布を測定し、アルツハイマー病発症前の画像検査の実現を目指します。
日本における65歳以上の認知症患者数は、2025年には700万人に達する(※3)と見込まれています。また、認知症患者のうち67.6%をアルツハイマー病が占めるという統計結果(※4)もあり、国内では今年6月、認知症の予防を促進する「認知症基本法」が成立し、8月には、アルツハイマー病の発症要因となり得る脳内に蓄積したアミロイドβを除去し、病状の進行を抑制する治療薬の製造販売承認が厚生労働省の専門部会で了承されています。脳内のアミロイドβの蓄積が少ない段階で早期に投薬治療を開始することが発症抑制に繋がることから、アミロイドβの蓄積量や分布を測定する技術が求められています。
磁気粒子イメージング装置は、コイルが発する交流磁場により、体内に注入した磁気粒子の磁気信号を誘起し、これを検出することで、3次元画像を生成する装置です。交流磁場の周波数が高いほど磁気信号を高感度に検出できるため、既に製品化されているマウスなどの小動物用の小型装置では、25kHz前後の高い周波数が使用されています。同等の周波数を用いて、ヒトの脳サイズの領域を撮像可能な大きさに装置を大型化した場合、コイルが大きくなることで負荷が上がり、必要な電源容量が増大するため、電源装置が非常に大型になることが実用化を妨げる要因の一つとなっていました。
今回、三菱電機がさまざまな機器開発で培ってきた電磁気学技術を深化させ、交流磁場を発生するコイルと、信号検出コイルの配置を精密に調整し、磁気信号の検出の障害となる不要な信号(ノイズ)を最小化できる構造を確立したことで、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた「磁気粒子イメージング装置」を世界で初めて※1開発しました。本開発成果は、アルツハイマー病発症前の画像検査の実現に向けた大きな前進となります。
なお、本開発成果の詳細は、チェコで9月5日から9月9日まで開催される「WMIC(World Molecular Imaging Congress)」で、9月9日(現地時間10時30分)に発表する予定です。
※1 2023年9月7日現在。三菱電機調べ
※2 脳内で作られるたんぱく質の一種。脳内に蓄積されることで脳の認知機能の低下につながるとされる
※3 出典:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度 厚生労働科学研究成果データベース)
※4 出典:「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」(平成24年度 厚生労働科学研究成果データベース)
[画像2: https://prtimes.jp/i/120285/21/resize/d120285-21-b5436f1dd28242a4c454-1.png ]
■開発の特長
1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズの領域の磁気粒子を高感度に撮像でき、電源装置の大型化を抑えた、「磁気粒子イメージング装置」を世界で初めて開発
・三菱電機が有する電磁気学技術を深化させ、交流磁場を発生するコイル(交流励磁コイル)と信号検出コイルの配置を精密に調整し、信号検出の障害となる不要な信号(ノイズ)を最小化できる構造を確立。これにより、世界で初めて、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズのサンプルの磁気信号を高感度に検出し、イメージングを実現
・低周波化により必要な電源容量を抑制することで、電源装置を小型化したヒトの脳サイズの撮像が可能な磁気粒子イメージング装置を開発
■今後の予定・将来展望
磁気粒子イメージング装置を用いたアルツハイマー病発症前の画像検査の実現にあたっては、磁気粒子イメージング装置のさらなる高感度化、高解像度化が必要で、また、検査装置としての実用化に向けては、安全性や有効性を確認するための臨床試験が必要となります。
2030年頃に実用化の目途を付けることを目標に、他社との協業も視野に入れて検討を進めていきます。
[画像3: https://prtimes.jp/i/120285/21/resize/d120285-21-5c4c59a6baacc6c78ded-2.png ]
■特長の詳細
交流磁場の周波数と磁気信号の検出感度の高さは比例していて、既に製品化されている小動物用の磁気粒子イメージング装置では、25kHz前後の高い周波数が必要とされています。コイルの負荷はコイル半径の2乗と周波数に比例して増加するため、同等の周波数のまま磁気粒子イメージング装置を小動物用サイズ(コイル内径30mm)からヒト頭部サイズ(コイル内径300mm)へと約10倍に大型化する場合、コイル径も約10倍、これにより負荷は約100倍となり、必要な電源容量も100倍となるため、電源装置を非常に大型化する必要がありました。一方、電源装置を小型化するために交流磁場の周波数を下げる場合、磁気粒子からの信号強度が低下して検出できないことが、実用化に向けて大きな課題となっていました。
今回、周波数を下げながら信号検出感度を向上させるため、磁気信号の検出の障害となる不要な信号(ノイズ)に着目し、これを最小化するコイル構造を開発しました。交流磁場を発生する交流励磁コイルと信号検出コイルの配置を、レール式スライド構造により精密に調整可能とすることで交流磁場から信号検出コイルに誘起される電圧を低減してノイズを最小化でき、1kHz以下の低周波でもヒトの脳サイズのサンプルの磁気信号を高感度に検出し撮像することに成功しました。また低周波化することで、電源容量を小動物用サイズの磁気粒子イメージング装置の4倍にまで抑制し、電源装置の大型化を大幅に抑えられたことで、世界で初めて、低周波かつ小型電源でヒトの脳サイズの撮像が可能な「磁気粒子イメージング装置」(コイル内径300mm、検査領域直径180mm)を開発し、アルツハイマー病発症前の画像検査の実現に向け大きく前進しました。
[画像4: https://prtimes.jp/i/120285/21/resize/d120285-21-616fd4169cac4963b988-3.png ]
図1 開発した交流励磁コイルと信号検出コイル構造図
[画像5: https://prtimes.jp/i/120285/21/resize/d120285-21-3aced4ab21ba93c52380-4.png ]
図2 実証試験の様子(チューブに磁気粒子を注入してM字型に折り曲げ[写真左]、本装置で撮像[写真右])
本件は、AMEDの「医療機器等研究成果展開事業」の支援によって開発した成果です。
<お客様からのお問い合わせ先>
三菱電機株式会社 先端技術総合研究所
〒661-8661 兵庫県尼崎市塚口本町八丁目1番1号
FAX 06-6497-7289
https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/randd/inquiry/index_at.html
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