HIV予防に最も有効な薬 製薬会社にグローバルな普及戦略の開示を要請
配信日時: 2023-04-03 14:13:58
HIV感染を予防する医薬品「カボテグラビル(CAB-LA)」について、国境なき医師団(MSF)は、製造するヴィーブヘルスケア社(以下、ヴィーブ社)に対し、入手可能な数量と予定する供給地域の情報開示をただちに行うよう要請した。長時間作用型の注射薬であるCAB-LAは、HIV感染率の高い低・中所得国で、高い予防効果をもたらすと期待される。ヴィーブ社は2022年7月、「医薬品特許プール (MPP)」と自発的ライセンス契約を結び、CAB-LAを製造するジェネリック医薬品メーカー3社を選定したという喜ばしい経緯があるが、安価なジェネリック薬の供給は4~5年先になる見通しで、低・中所得国を念頭に医療ニーズにもとづいた同薬の普及を急ぐ必要がある。
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不透明な供給量と流通計画
CAB-LAは現在、臨床試験で示されたとおり、HIV感染のハイリスク群(※)への暴露前予防薬(PrEP)として最も有効性が高く、2022年7月に世界保健機関(WHO)からHIV予防の用途で推奨された。しかし、ヴィーブ社は今日に至るまで、供給可能量や地域別の流通計画を明らかにしていない。調達に先立って同社が設定した科学的実施要件も不明瞭なため、特に低・中所得国での普及を難しくしている。MSFは2023年にエスワティニとモザンビークでハイリスク群にCAB-LAの提供開始を予定しているが、ヴィーブ社はMSFの注文処理には6カ月の調達期間を要するとして、供給量および価格は示されず、2023年中にこの薬がMSFの患者に届かない可能性も出てきた。CAB-LAは2021年12月、米国食品医薬品局(FDA)によって最初に承認されたが、多くの患者に届くには2年を超える年月を待たねばならない見通しとなっている。
※HIVのハイリスク群は、臨床リスク評価によって判定する。「キーポピュレーション」(有効な対策の実現でカギを握る集団=セックスワーカー、ゲイ男性、注射薬物使用者、受刑者、トランスジェンダー)とその性的パートナー、女性や女の子などの一般の人びとを含む場合がある。
MSFアクセス・キャンペーンの慢性疾患顧問を務めるヘレン・バイグレーブ医師は「MSFの活動地で使用するCAB-LAを調達するため、8カ月以上にわたってヴィーブ社と契約交渉を行ってきました。同社はCAB-LAを十分に供給できると頑なに主張し、薬の需要は少ないだろうとさえ述べています。にもかかわらず、MSFは自ら必要な分も、低・中所得国の保健当局が必要とする分も調達できていません。命を救うHIV予防薬があるのに、必要な人に十分な量を確保できず、現在流通している同薬がどこで使われているのかも明らかにできないこの状況を、同社は重く受け止めるべきです」と述べる。
ジェネリック薬製造の見通しも立たず
CAB-LAを必要とする人びとにとって、ヴィーブ社の普及戦略は見通しが立てづらい状態を招いている。市民団体がCAB-LAの供給を増やすよう繰り返し求めているが、この薬を現在唯一供給できる立場にある同社は、グローバルな緊急健康ニーズに応えられていない。特に懸念されるのは、4~5年待たなければ、前述したわずか3社のメーカーがCAB-LAのジェネリック薬市販にたどり着けない可能性があることだ。ヴィーブ社もバッチサイズの拡大や第2製造工場の開設など、自社の製造・供給能力を拡大するための努力を行っているが、その成果は2024年中まで実現しそうにない。
また、HIV感染率の高い低・中所得国でのCAB-LAへのアクセスは、最近まで調達に関する条件によっても制限されていた。CAB-LAがFDAに承認され、実験薬ではなくなったにもかかわらず、ヴィーブ社は当初、同社独自の研究メカニズムを通じて研究プロトコルを提出した団体や機関に対してのみ、CAB-LAを供給することに同意していた。数カ月にわたるハイレベル協議の末、ヴィーブ社は最終的に、米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)がCAB-LAを数量限定で調達することに同意した。MSFの科学的実施要件は各国保健省との連携で進んでいるが、8カ月の交渉にもかかわらず、ヴィーブ社はいまだ調達価格の公表や2023年にCAB-LAを供給できる確証をしていない。
「ヴィーブ社は、緊急医療ニーズに関係なく、CAB-LAを流通させる場所を自社本位で決めています。もっと多くのメーカーが市場に参入し、CAB-LAの供給体制が確立されて、調達が正常化するまで、同社は企業努力をさらに重ね、HIV感染リスクが最も高い人びとがいる低・中所得国を念頭に、世界流通の優先順位を付け直すべきです。そうすれば感染予防で最大の効果を上げられるはずです」とバイグレーブは話す。
新たな感染予防を一変させる薬
CAB-LAは、2カ月に1回注射で投与するため、1日1回の経口PrEP錠剤ほど薬物治療のアドヒアランス(指示の順守)に注意する必要はない。従って、新規HIV感染予防を一変させる可能性を秘めている。
エスワティニでMSFのプログラムを通じて経口PrEPを服用している女性、リンドクーレ・ドラミニは「経口PrEPは、万が一HIV陽性のパートナーと性交渉をしても、HIV感染から守ってくれるので、私の暮らしには欠かせません。ただPrEP服用で最大の問題は、錠剤を時折飲み忘れることです。2カ月に一度注射を打つだけなら、毎日錠剤の飲み忘れを心配する必要もなくなるので便利になります」と新しい予防薬に期待を寄せている。
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