火星でルビーの母体鉱物「コランダム」を初検出、探査車SuperCamが捉えた異例の鉱物形成史

2026年8月15日 23:30

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記事提供元:Tech Times

パーサビアランスのミッション4日目に撮影された、火星のジェゼロ・クレーター。手前には着陸地点付近のクレーター底、遠方には丘陵が見える。中央に突き出た孤立丘は、約25億~35億年前にクレーター内の湖へ流れ込んでいたネレトバ川の扇状デルタの名残とされる。 (Nasa.gov)

パーサビアランスのミッション4日目に撮影された、火星のジェゼロ・クレーター。手前には着陸地点付近のクレーター底、遠方には丘陵が見える。中央に突き出た孤立丘は、約25億~35億年前にクレーター内の湖へ流れ込んでいたネレトバ川の扇状デルタの名残とされる。 (Nasa.gov)[写真拡大]

NASAの火星探査車「パーサビアランス」に搭載された「SuperCam」の分析により、火星の岩石からルビーやサファイアの母体となる鉱物「コランダム」が初めて検出された。コランダムはアルミニウムに富み、ケイ素に乏しい環境で形成されるため、斜長石を多く含む今回の岩石から見つかったことは意外な結果だった。研究チームは天体衝突に伴う変成作用を最も可能性の高い形成過程とみているが、岩石が元の地層から離れた漂石であるため、詳しい起源は確定していない。

■発光の持続時間を測る「時間分解発光分光法」で微細鉱物を特定

鉱物が放出する光の波長だけでなく、その光が減衰するまでの時間を測るレーザー分析技術により、コランダム(結晶質の酸化アルミニウム)が3つの岩石から検出された。研究成果は2026年8月11日、学術誌『Geophysical Research Letters』に掲載された。

ロスアラモス国立研究所の地球化学者アン・オリラ氏らの査読済み論文によると、コランダムが火星で確認されたのは、軌道上からの観測、火星表面でのその場観測、地球に落下した火星隕石の分析を通じて初めてである。一見すると目立った特徴のない岩石の内部に存在する微量鉱物を、探査車のマストに搭載した遠隔観測機器で識別できた点でも注目される。

検出に使用されたSuperCamは、パーサビアランスのマストに搭載された遠隔センシング装置群である。対象の岩石に波長532ナノメートルのパルスレーザーを照射し、探査車が岩石に直接触れることなく、その化学組成や鉱物学的特徴を調べられる。

研究チームが用いた時間分解発光(TRL)分光法は、レーザーによって励起された鉱物が放つ光の波長と、その光が減衰するまでの時間を測定する。鉱物に含まれる特定の元素や結晶構造によって、発光波長と減衰時間の組み合わせが異なるため、両者を鉱物識別の手掛かりとして利用できる。

今回の岩石では、692.7ナノメートルと694.1ナノメートルに強い発光ピークが確認された。これは、コランダムの結晶格子でアルミニウムの一部が3価のクロムに置き換わった場合に生じる特徴と一致する。さらに、発光がミリ秒単位で持続することや、ほかの補助的な発光線も、クロムを含むコランダムとの解釈を支持した。

発光波長だけでは複数の鉱物の信号が重なる場合があるが、発光の減衰時間も組み合わせれば識別精度を高められる。SuperCamの時間分解能力により、主成分が別の鉱物である岩石の中から、微量のコランダムに由来する信号を捉えることができた。

■斜長石に富む岩石からコランダムが見つかった謎

パーサビアランスは2025年、ジェゼロ・クレーターの縁で見つかった3つの淡色の漂石「ハンプデン・リバー」「コーヒー・コーブ」「スミスズ・ハーバー」を調査した。漂石とは、形成された岩盤や露頭から離れて現在の場所に移動した岩石片を指し、今回の3つの岩石も元の地質学的位置は分かっていない。

SuperCamによる分析では、3つの岩石からクロムを含むコランダムに特徴的な信号が得られた。研究チームは火星で取得したスペクトルを、天然ルビー、角閃岩中のルビー、コランダムと化学的に近いダイアスポアなどの実験室データと比較し、コランダムとの一致を確認した。

コランダムは、アルミニウムに富み、ケイ素に乏しいマグマ作用または変成作用の環境で形成される。ケイ素が十分に存在すると、アルミニウムはケイ素などと結び付き、斜長石をはじめとするアルミノケイ酸塩鉱物に取り込まれやすい。そのため、コランダムが形成されるには、局所的にケイ素が不足するなどの特殊な化学条件が必要となる。

ところが、今回コランダムが検出された3つの岩石はいずれも斜長石を多く含んでいた。斜長石とコランダムが同じ岩石に共存するには、岩石内部に異なる組成を持つ領域が存在したか、形成後に高温・高圧や流体の作用を受けた可能性がある。

火星には現在、地球のような活動的なプレートテクトニクスが確認されていない。火星表面では苦鉄質鉱物とその変質生成物が卓越しており、コランダムが求めるアルミニウムに富みケイ素に乏しい形成環境は一般的ではない。このため、火星で初めて見つかったことに加え、斜長石に富む岩石から検出されたこと自体が重要な意味を持つ。

■天体衝突に伴う「衝突変成作用」が有力な形成仮説

オリラ氏らは複数の形成過程を検討し、天体衝突に伴う変成作用を最も可能性の高いシナリオとして提示した。研究チームの解釈では、衝突によって生じた高温・高圧が、組成の異なる岩石の境界付近に局所的なコランダム形成環境を作った可能性がある。ただし、マグマ作用など別の形成過程は排除されていない。

特に想定されているのは、珪長質岩と苦鉄質または超苦鉄質岩の境界で生じた反応である。衝突時の高温や流体の移動によって局所的にケイ素が乏しくなれば、アルミニウムが斜長石などのケイ酸塩鉱物ではなく、コランダムとして結晶化できる条件が生じる。

衝突に伴うコランダム形成には地球や月で類例がある。地球ではチェサピーク湾衝突構造のコアに含まれるケイ酸塩ガラスからコランダムが見つかっており、月の衝突角礫岩でも確認されている。これらは、天体衝突が通常とは異なる鉱物形成環境を局所的に作り出し得ることを示す。

ジェゼロ・クレーターの縁では、衝突角礫岩を含む多様な岩石が見つかっている。コランダムを含む岩石が小さな漂石であること、斜長石と共存していること、激しい衝突の影響を受けたクレーター縁に分布していることは、衝突変成作用という解釈と整合する。流体と岩石の反応や熱水活動が、アルミニウムに富みケイ素に乏しい微小な領域の形成に関わった可能性もある。

一方、3つの岩石は元の露頭から離れた漂石であり、どこで、いつ形成されたかを直接示す地質学的文脈が失われている。このため、ジェゼロ・クレーターを形成した特定の衝突によって生じたと断定することはできず、形成過程を絞り込むには追加の観測や試料分析が必要となる。

■火星の地殻に残された多様な地質過程

火星では、火山活動によって形成された苦鉄質鉱物や、水との反応による変質鉱物が広く観測されてきた。今回のコランダムは、それらとは異なる高アルミニウム・低ケイ素環境で形成される鉱物であり、火星地殻に従来の観測では捉えにくかった岩石学的多様性が残されていることを示している。

今回の発見は、惑星表面から得られる情報が、搭載機器の測定方式や感度にも左右されることを示す例でもある。時間分解発光分光法は、発光波長だけでなく減衰時間を測ることで、ほかの分析方法では見分けにくい微量鉱物を識別できる。ジェゼロ・クレーターや火星のほかの地域にも、まだ検出されていない微量鉱物が存在する可能性がある。

ジェゼロ・クレーターの縁では、変質した岩盤、衝突角礫岩、輝石に富む岩石、斜長石に富む岩石など、多様な岩石が観測されている。コランダムの検出は、この地域が古代の湖やデルタの歴史だけでなく、衝突、火成活動、変成作用、流体と岩石の反応を含む長い地質史を記録していることを示す。

■形成過程の確定には地球上での試料分析が必要

コランダムの形成過程を詳しく調べるには、対象岩石またはその供給源となった露頭から試料を採取し、地球上の研究施設で分析することが重要となる。地球上であれば、微細な組織、元素分布、同位体組成などを探査車より高い精度で調べられるため、コランダムがどのような温度、圧力、化学環境で形成されたかを絞り込める可能性がある。

しかし、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が構想してきた既存の火星サンプルリターン計画には、米国の2026会計年度予算で資金が付かなかった。代わって、将来の火星ミッションに必要な技術を維持する「Mars Future Missions」に1億1000万ドル(約175億円、1ドル=159円換算)が計上された。パーサビアランスがジェゼロ・クレーターで採取・密封した試料を地球へ回収するミッションは、現時点で承認されていない。

中国国家航天局の火星サンプルリターン計画「天問3号」は、2028年ごろの打ち上げと2031年ごろの地球帰還を目標としている。ただし、天問3号はジェゼロ・クレーターにあるパーサビアランスの試料を回収する計画ではなく、別の着陸地点で独自に試料を採取する。

パーサビアランスは現在もジェゼロ・クレーターの縁を探査している。SuperCamによる観測が進めば、火星の岩石に隠された別の微量鉱物が見つかり、火星地殻の形成史を読み解く新たな手掛かりになる可能性がある。

■注目ポイントQ&A

●コランダムとはどのような鉱物で、なぜ火星での発見が驚きをもって受け止められているのですか?

コランダムは酸化アルミニウム(Al₂O₃)の結晶です。純粋なコランダムは無色ですが、結晶格子に微量のクロムが入ると赤色や桃色のルビーとなり、鉄やチタン、バナジウムなどによってさまざまな色のサファイアになります。コランダムはアルミニウムに富み、ケイ素に乏しい特殊な環境で形成されるため、斜長石を多く含む火星の岩石から見つかったことが注目されています。

●SuperCamの「時間分解発光分光法」は従来の分析と何が違うのですか?

時間分解発光分光法では、レーザーを照射した鉱物が放つ光の波長に加え、その光が減衰するまでの時間を測定します。今回確認された692.7ナノメートルと694.1ナノメートルのピーク、ミリ秒単位の発光寿命、ほかの補助的な発光線を組み合わせることで、クロムを含むコランダムを識別しました。

●火星で宝石としてのルビーが採掘できる可能性があるということですか?

いいえ。今回確認されたのは、3つの岩石に含まれる微量のクロム含有コランダムの分光学的な信号です。肉眼で確認できる宝石結晶や、採掘可能な鉱床が見つかったわけではありません。発見の科学的価値は、火星地殻の化学組成や、天体衝突などによる変成作用を読み解く手掛かりになる点にあります。

●コランダムは約40億年前の衝突で形成されたのですか?

その可能性はありますが、現時点では確定していません。研究チームは、クレーター縁という発見場所や岩石の特徴から、天体衝突に伴う変成作用を最も可能性の高いシナリオとみています。ただし、岩石は元の露頭から離れた漂石であり、ジェゼロ・クレーターを形成した特定の衝突と直接結び付ける証拠は得られていません。

●パーサビアランスが採取した試料が地球に持ち帰られる予定はありますか?

現時点で承認済みの回収ミッションはありません。NASAとESAによる既存の火星サンプルリターン計画には、米国の2026会計年度予算で資金が付かず、将来の火星ミッションに向けた技術開発枠へ予算が振り向けられました。中国の「天問3号」は2028年ごろの打ち上げと2031年ごろの試料帰還を目指していますが、ジェゼロ・クレーターとは別の場所で試料を採取する計画です。

元記事: Ruby-Forming Corundum Found on Mars for First Time in Rocks That Shouldn’t Contain It

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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