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英送電網、変圧器を損傷し得る地磁気誘導電流を実測できず 専門家が14項目を提言
2024年5月の大規模な地磁気嵐について、送電網に流れる電流を計算するコンピューターモデルは、英イングランドとウェールズの複数の変電所で、変圧器を損傷する可能性がある水準の地磁気誘導電流が生じたと推定した。だが現地には実測機器がなく、推定値の妥当性も安全余裕も確認できない。王立天文学会の会合で示された専門家グループの提言14項目は、2026年7月時点で閣僚が検討中で、資金拠出を伴う決定はまだ公表されていない。
■2024年5月の地磁気嵐で推定された危険水準の電流
2024年5月10日夜、連続する5回の太陽プラズマ噴出が地球の磁気圏に到達し、英国各地では空が緑や紫に染まるオーロラが観測された。一方、地下の送電網では危険な電流が流れていた可能性があるが、英国にはその場所や程度を把握する手段がなかった。
この点を今週、バーミンガムで開かれた王立天文学会のNational Astronomy Meeting(NAM 2026)で、Space Environment Impacts Expert Group(SEIEG)が報告した。コンピューターモデルは、この嵐によって地磁気誘導電流(GIC)――地球磁場の急変によって送電線や変圧器を流れる、意図しない電流――が、コーンウォール州ランドルフの変電所で約68アンペア、ウェールズとイースト・アングリアの沿岸部にある別の4カ所の変電所でも50アンペア超に達したと推定した。
問題は、これらがあくまでモデルの出力値だという点にある。イングランドとウェールズにはGICを測る機器がどこにもなく、モデルによる推定が正しいのか、あるいは変圧器の損傷が始まり得る閾値を実際に超えたのかを検証できない。
SEIEG議長でBritish Antarctic Surveyの宇宙天気部門責任者を務めるRichard Horne教授は、「2024年5月の事象では、複数の変電所で電流が50アンペアを超え、ピークは約68アンペアに達したことをコンピューターモデルが示唆した。しかし現在、イングランドとウェールズのどこにもこうした電流を測定する機器がないため、その推定値を検証することすらできない」と述べた。
SEIEGはこれを受け、英国政府に14項目の正式な提言を提出した。これらは現在、閣僚が検討している。
■欠けているのは科学ではなく運用とガバナンス
今回の監視不備は、科学的なブレークスルーを待つ研究課題ではない。変圧器単位でGICを測定する技術はすでに成熟しており、導入実績があり、その有効性も実証されている。
南半球で英国と同程度の地磁気緯度にあり、類似した宇宙天気条件に置かれるニュージーランドでは、28カ所の変電所にある93台の変圧器でGICを監視している。実測値を使ってモデルを検証し、運用上の被害軽減手順も整備しており、2024年5月の嵐でもその手順を活用した。
これに対し、イングランドとウェールズの計測機器はゼロだ。その結果、British Geological Survey(BGS)が英国の送電網向けに運用するGICモデルは、実際の電流測定によって検証されていない前提に依存している。具体的には、変電所内では電流が各変圧器に均等に分かれること、そして考慮すべきなのは400kVと275kVの送電線だけだという前提である。極端な事象が起きた際に、それらの前提が成り立つかは分かっていない。
計測機器がないことが単なる不便ではなく重大な問題になるのは、こうした前提が崩れた場合の影響が大きいからだ。GICは、変圧器の中性点接地――高電圧機器を大地に接続する接地点――から電力網に入り、通常の交流に重なる準直流として流れる。振幅が十分に大きくなると、変圧器は半周期飽和と呼ばれる状態に陥る。変圧器の磁心がインダクターのように振る舞い、過剰な発熱、保護リレーを作動させ得る高調波ひずみ、無効電力需要の増大を引き起こす。深刻な場合には電圧崩壊が連鎖し、最も深刻な場合には変圧器が恒久的に損傷する。
高圧変圧器は遮断器のように在庫からすぐ交換できる機器ではない。送電網ごとの仕様に合わせた特注品で、納期は通常12~18カ月に及ぶ。複数の変圧器が同時に損傷する嵐が起きれば、停電は数時間ではなく数カ月単位になり得る。
1989年3月のHydro-Québec停電は、それが理論上の話ではないことを示す代表例だ。強い地磁気嵐によるGICでケベック州全域が9時間超にわたって停電し、およそ600万人の需要家に影響が出た。この事象ではケベック州全域に及ぶ規模の変圧器損傷は生じなかったが、世界各地でGIC監視への投資を加速させた。イングランドとウェールズは、その例外であるように見える。
■送電網に実際に何が起きたのか
2024年5月の事象は、宇宙天気研究者によって正式に「Gannon」嵐と呼ばれている。NOAAの地磁気嵐スケールでは最上位のG5に達し、2003年10月の「ハロウィーン嵐」以来、最も強い嵐となった。5回のコロナ質量放出(CME)が5月10日夜から11日にかけて短時間のうちに相次いで地球へ到達し、その複合効果によって、単独の噴出では生じなかった規模の磁気擾乱が起きた。
SEIEGはこの嵐の強度を、おおむね13年に1度の事象と見積もる。これに対し、欧州と北米の電信線を溶かした1859年の壊滅的な太陽嵐に匹敵するキャリントン級事象は、各年に約1%の確率で発生すると推定されている。この違いは重要だ。2024年5月の嵐は重大なストレステストではあったが、最悪のシナリオではなかった。
BGSのモデルは、National Energy System Operator(NESO)が管理する400kVと275kVの送電線だけを使ってGICを推定している。このモデルはイングランドとウェールズの実測電流で検証されておらず、ランドルフのピーク値を68アンペアと見積もった。SEIEGは50アンペア超を「電力供給の運用安定性」が危険にさらされ得る水準で、変圧器の損傷も起こり得るレベルと位置付けている。この嵐では、その閾値を超えたと推定される変電所が5カ所あった。いずれも、地磁気緯度の影響によってGICリスクが集中しやすい沿岸部にあった。
英国は2024年5月の嵐を停電なしで切り抜けた。だが、どれほどの安全余裕が残っていたのかを科学者は判断できない。そうした電流を測る機器がないためだ。
■会計検査院も準備不足を指摘
NAM 2026でのSEIEGの報告は、National Audit Office(NAO、英国会計検査院)が2026年3月に示した厳しい評価とも重なる。NAOは、政府が予測能力には投資してきた一方で、計画、説明責任、国民向け広報には大きな空白が残っているとした。英国の宇宙天気対策の調整責任は、2025年12月にDepartment for Energy Security and Net Zero(DESNZ)からDepartment for Science, Innovation and Technology(DSIT)へ移管されたが、その移行期間中、主要な運営グループと作業部会は最長11カ月にわたって活動を停止していた。
NAOはさらに、地方の対応機関を含む全面的なシミュレーション演習が一度も行われていないと指摘した。こうした訓練は、オーストラリアと米国ではすでに実施されている。政府は、英国がどの水準のレジリエンスを目指すべきかについて合意された目標も定めておらず、宇宙天気の緊急事態に市民や企業が何をすべきかを示す、事前に合意された公的ガイダンスも用意していなかった。
NAOトップのGareth Davies氏は、政府は「英国の予測能力の改善に投資し、深刻な宇宙天気に対するレジリエンスを高める措置を講じている」と述べる一方、2026年3月の報告書公表時点でなお策定中だった新たなSevere Space Weather Preparedness Strategyについて、対応計画の検証強化と社会全体での連携深化を求めた。
英国政府はESAのVigil衛星ミッションに約3億ポンド(約4億200万ドル、約659億円、1ドル=164円換算)を拠出するとしている。Vigilは太陽・地球系のL5ラグランジュ点から太陽風を監視し、CMEの到達時刻予測の精度向上を目指す。2031年に打ち上げられる見込みで、運用期間は5年とされる。DSITは2025~26年度に、世界でも数少ない24時間365日体制の実運用宇宙天気予報センターであるMet Office Space Weather Operations Centre(MOSWOC)へ約670万ポンド(約900万ドル、約14億7600万円、1ドル=164円換算)を支出した。
2026年3月、政府報道官はThe Registerに対し、「極端な宇宙天気事象はまれだが、英国はこれまでになく備えが進んでいる。これはMet Office Space Weather Operations Centreによる世界水準の監視に支えられている。年内公表予定の新たなSevere Space Weather Preparedness Strategyを通じて対応し、レジリエンスをさらに強化する」と述べた。2025年版National Risk Registerは、深刻な宇宙天気について、5年以内に重大な事象が起きる確率を5~25%と評価している。これは、パンデミックやサイバー攻撃と並んで最も高く評価された自然災害リスク区分の1つである。
■衛星の衝突回避機動は平時の約16倍に増加
備えの空白は送電網に限らない。近年、低軌道は大幅に混雑しており、2024年5月の嵐は、宇宙天気事象の最中にその混雑が何を意味するかを示した。
通常、1日に衝突回避機動を行う衛星は約300機だが、この嵐の間はほぼ5000機に増え、約16倍となった。英国で認可を受けた衛星では、衝突警報が35%増加した。
その仕組みは大気にある。地磁気嵐は地球の上層大気を加熱し、膨張させる。この膨張によって低軌道衛星にかかる空力抵抗が増え、軌道が予測しにくい形で変化する。数千機の衛星が同時に予想軌道から外れると、衝突リスクは増大する。しかも、それらすべてを追跡する計算上の負荷が高まり、警報への需要がピークに達するまさにその時に、発出される衝突警報の精度が低下する。
SEIEGは、極端な宇宙天気がデブリの連鎖的発生リスクをどのように高めるかについて、追加研究を求めている。これはケスラーシンドロームとして知られ、2機の衛星の衝突がデブリ雲を生み、それがさらなる衝突を誘発し、軌道帯全体を何年、あるいは何十年にもわたって使用不能にする可能性があるというシナリオだ。この概念は1978年にNASAの科学者によって理論的に示された。2009年のモデル分析では、一部の軌道帯のデブリ環境が、自己持続的な連鎖が起きる段階をすでに超えた可能性が示された。だが、何千もの軌道を同時に乱して追跡精度を低下させることで、宇宙天気がケスラーシンドロームのリスクにどのように寄与するかについては、なお研究が不足している。SEIEGの提言でも、この点が明示的に課題として挙げられている。
■予報の猶予は現状では数時間ではなく数十分
送電網と衛星軌道の安定性という2つの脅威をさらに深刻にしているのは、世界の宇宙天気予報の仕組みが抱える構造上の制約だ。
現在の実運用警報は、地球から約150万km離れた太陽・地球系のL1ラグランジュ点にある宇宙機のデータに基づいて発せられる。この位置では、最も速く接近するCMEの場合、地球到達までの警告時間がわずか15分となることがある。典型的な太陽風速度でも15~60分で、送電網運用者や衛星運用者が防護措置を講じるために必要だとする時間には遠く及ばない。
この制約は技術ではなく幾何学上の問題である。L1が使われるのは重力的に安定した位置だからであって、早期警戒に最適な位置だからではない。センサー性能をどれだけ高めても、L1で観測された後にCMEが最後の150万kmを地球まで進む時間そのものは変わらない。
SEIEGは予報改善への投資を提言しており、長期目標として、深刻な嵐について信頼できる警報を地球到達の2~3時間前に出せる体制を掲げる。これだけの猶予があれば、送電網運用者は系統負荷を下げ、衛星運用者は機動を停止し、極域航路を飛ぶ航空会社は放射線被ばくが最も深刻になる前に迂回や運航時刻の変更を行える。
この2~3時間という目標は、NAM 2026で併せて議論されたCubeSatミッションのHENONとも一致する。ESAのHeliospheric Pioneer for Solar and Interplanetary Threats DefenceであるHENONは、英国製MAGIC磁力計の完成品が今週初めに公開され、2027年初頭の打ち上げが予定されている。地球から太陽側へ1500万km、つまりL1より10倍遠い位置に展開することで、接近中のCMEをより早く検出し、インフラ運用者が必要としながら現在は得られていない警告時間を確保することを目指す。
■航空と鉄道信号も脆弱性を抱える
SEIEGの指摘で最も注目を集めているのは送電網と衛星分野だが、専門家グループは備えに空白がある追加のインフラ分野として、航空と鉄道を挙げている。
高高度を飛ぶ航空機、とりわけ欧州と北米・アジアを最短時間で結ぶ極域航路では、深刻な太陽高エネルギー粒子(SEP)事象の際に乗員や乗客の放射線被ばくが増える。SEIEGは、航空事業者向け警報システムを強化し、迂回や運航時刻変更の判断を被ばく中ではなく事前に行えるようにすべきだと提言する。
鉄道信号システムも、GICに関連した干渉を受けやすい。送電網に影響するのと同じ電磁誘導の仕組みによって、誘導電流が長い導電性の鉄道インフラを流れると、列車間隔を保つ信号システムに干渉し得る。査読付き論文では、英国で極端な宇宙天気事象が起きた際の信号誤動作リスクがモデル化されているが、運用上の被害軽減手順は十分に整っていない。
■14項目の提言は閣僚による検討段階
SEIEGの14項目の正式な提言は、DSIT、DESNZ、Department for Transport(DfT)、Civil Aviation Authority(CAA)の4機関にまたがる。内容には、イングランドとウェールズ全域への全国規模のGIC監視網の配備、実測値による送電網モデルの検証、ニュージーランドの送電網運用者との連携によるGIC被害軽減計画の策定、CME予報の改善、衛星衝突リスクに対する宇宙天気の寄与に関する研究が含まれる。
14項目すべてが現在、閣僚による検討対象となっている。2026年7月20日のSEIEGによるNAM 2026での発表時点で、資金拠出を伴う決定は何も発表されていなかった。
Horne教授は「オーロラは2024年5月の嵐で最も目に見えた兆候だったが、英国の重要インフラを試した、より広範な宇宙天気事象の一部にすぎなかった。この嵐は、将来のさらに深刻な事象に備えるため、どこでより良い監視、より良い予測、さらなる研究が必要なのかを浮き彫りにした」と述べた。
現在の約11年周期の太陽活動であるSolar Cycle 25は、予報当初の想定より活発で、ピークにあるか、その近辺にある。次の極小期までに、さらに大きな事象が起きる可能性はある。オーロラはほぼ確実に見事なものになるだろう。だが、その陰で英国の変圧器や衛星が持ちこたえられるかは、閣僚が専門家の助言を受けて行動するのか、それとも次の警告機会を与えてくれない嵐が来るまで待つのかにかかっている。
■注目ポイントQ&A
●なぜイングランドとウェールズにはGICの測定機器がないのですか
GIC監視が途中で打ち切られたのではなく、そもそも導入されなかったためです。英国では、地磁気緯度がより高くリスクも大きいスコットランドの一部でGICを監視していますが、イングランドとウェールズは未監視のままです。SEIEGは、これは科学的限界ではなく、ガバナンスと投資の失敗だと明確に位置付けています。同程度の地磁気緯度にあるニュージーランドは、28変電所・93台の変圧器をカバーする全国監視網を導入し、2024年5月の嵐でも活用しました。技術は実証済みで利用可能であり、欠けていたのは導入の決定です。
●地磁気嵐はどのように変圧器を損傷させるのですか
地磁気嵐によって地球磁場が急変すると、地表に電場が誘起されます。これは発電機やモーターを動かすものと基本的に同じ電磁誘導ですが、大陸規模かつ制御されない方向に生じます。その電場が、送電線、パイプライン、鉄道信号ケーブルなどの長い導電性インフラに準直流のGICを流します。電力網ではGICが変圧器の中性点接地から入り、通常の交流と並行して流れます。振幅が十分に大きいと変圧器は半周期飽和に陥り、過剰な発熱や高調波ひずみを生み、保護リレーの作動や、極端な場合には恒久的な損傷につながります。高圧変圧器は特注品で納期が12~18カ月に及ぶため、複数台が同時に損傷すると、地域が長期間にわたって停電する可能性があります。
●英国政府は宇宙天気対策として何を進めていますか
DSITは2025年12月に英国の宇宙天気対策の調整を正式に引き継ぎました。この移管に至る期間には、主要な作業部会が最長11カ月にわたって活動を停止していました。2026年7月時点で、政府はESAのVigil衛星ミッションに約3億ポンド(約4億200万ドル、約659億円、1ドル=164円換算)を拠出するとしています。これはL5ラグランジュ点からCMEの到達時刻予測を改善することを目指すもので、Vigilは2031年の打ち上げが見込まれています。一方、新たなSevere Space Weather Preparedness Strategyはまだ公表されておらず、GIC監視、衛星衝突リスク、航空警報、予報改善を含むSEIEGの14項目の提言も閣僚が検討中で、資金を伴う対応はまだ示されていません。NAOは2026年3月、地方の対応機関を含む全面的な緊急時シミュレーション演習が一度も行われていないと指摘しています。
●より強い太陽嵐で英国が数カ月停電する可能性はありますか
複数の高圧変圧器が同時に恒久的な損傷を受けるほど深刻な嵐であれば、原理的には長期の地域停電につながり得ます。2024年5月の嵐は、おおむね13年に1度の規模と推定され、英国で停電は起きませんでした。しかし、当時は電流を測る機器がなかったため、安全余裕がどれほど残っていたかは確認できません。キャリントン級事象は、各年に約1%の確率で発生すると推定されています。1989年には、それよりはるかに弱い嵐でも、GICによるHydro-Québecの送電網への影響でケベック州全域が9時間にわたって停電しました。管理可能な混乱で済むか、数カ月規模の停電に至るかは、主として変圧器が損傷を免れるかどうかに左右されます。その判断に必要なGICの振幅は、イングランドとウェールズでは測定されたことがありません。
元記事: UK Power Grid Has No Instruments to Track the Currents That Can Destroy Transformers
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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