関連記事
NVIDIA「DLSS 5」の技術詳細が判明、3つのAIモデルとオブジェクト単位の制御で批判に対応

(Nvidia.com)[写真拡大]
NVIDIAは、コンピュータグラフィックスの国際会議「SIGGRAPH 2026」において、次世代のニューラルレンダリング技術「DLSS 5」の具体的な仕組みと開発者向けツールキットの詳細を明らかにした。2026年3月の初公開時に「AIスロップ(粗悪なAI生成コンテンツ)」だとして強い反発を受けた同技術だが、今回は3つの異なるAIモデルや、オブジェクト単位で効果を調整できる制御機能が公開された。DLSS 5は今秋、RTX 50シリーズGPU向けに提供される予定だが、必要なVRAM容量や下位モデルでのパフォーマンスなど、依然として不明な点も残されている。
■炎上から4カ月、SIGGRAPHで示された技術的回答
2026年3月の初公開時、YouTubeでの低評価率が84%を超え、ゲーマーコミュニティから「AIスロップ(粗悪なAI生成コンテンツ)」だとして激しい反発を招いたNVIDIAの「DLSS 5」。批判に対してジェンスン・フアンCEOが「完全に間違っている」と反論するなど、近年でも特に大きなGPUを巡る論争から4カ月が経過した。
NVIDIAは7月20日、ロサンゼルスで開催された「SIGGRAPH 2026」のスポンサー付き研究基調講演「Next Era of Graphics: Neural Rendering, World Models & Simulation」において、DLSS 5の具体的な仕組み、開発者に提供される制御機能、動作に必要なハードウェアについて初めて包括的に説明した。講演の開催は、SIGGRAPH 2026の公式基調講演ページでも確認できる。
今回明らかになった主なポイントは、DLSS 5に3つの異なるAIモデルが用意されること、開発者がシーンごとに異なるモデルを選び、オブジェクト単位で効果を調整できること、そして提供開始時にはデュアルGPU構成を必要とせず、単一のRTX 50シリーズGPUで動作することである。
ただし、NVIDIAは今秋という提供時期の中で具体的なリリース日を明らかにしておらず、必要なVRAMの下限、対応する最低GPU、RTX 5080未満のGPUにおけるモデルごとのフレームタイム負荷など、重要な技術的数値も公表していない。SIGGRAPHで披露されたツールキットが、3月の発表時に自社キャラクターが知らないうちに変更されていたゲームスタジオを納得させられるほど柔軟なものかどうかは、実際のゲームが発売されるまで分からない。
■3月の発表はなぜ失敗したのか、SIGGRAPHが重要だった理由
NVIDIAが2026年3月16日の「GTC 2026」でDLSS 5を初披露した際、ジェンスン・フアンCEOは公式発表の中でこれを「グラフィックスにおけるGPTモーメント」と呼んだ。しかし、ゲーマーコミュニティの反応は素早く、否定的なものだった。公式発表動画は、別件のLa7との著作権紛争によって削除されるまでに230万回以上再生され、その間に低評価率は84%を超えた。批判の中心となったのは、DLSS 5がゲームキャラクターに「AI美化フィルター」のような見た目を適用し、デモ映像に作品が使われた開発チームの意図的なアートディレクションを目に見える形で上書きしているように映ったことだった。作品がデモに登場したカプコンとユービーアイソフトの開発者は、その後の取材に対し、変更を知ったのは一般公開と同じタイミングだったと語っている。
フアンCEOは当初、GTCの記者向け質疑応答で、批判は「完全に間違っている」と強く反論し、DLSS 5はポストプロセス処理よりも深いアーキテクチャレベルで動作すると説明した。しかし数日後、「Lex Fridman Podcast」に出演した際には、「私自身もAIスロップは好きではない」と述べて姿勢を和らげ、DLSS 5を強制的な全面変更ではなく、アーティストが制御できる任意のツールとして位置づけ直した。それでも、受けた打撃と信頼性を巡る隔たりは残った。7月19日から23日までロサンゼルスで開催された、コンピュータグラフィックス研究を代表する学術会議「SIGGRAPH 2026」は、NVIDIAにとって、アーティストによる制御が可能だと主張するだけでなく、実際に示す最初の機会となった。
■DLSS 5の正体:レンダリング後に加わる生成処理
DLSS 5は、ゲームエンジンが従来方式でフレームをレンダリングした後、標準的なレンダリングパイプラインの最終段階に生成的な画質向上レイヤーを加える技術である。カメラの位置、ライティング、シーンの構成、ジオメトリのあらゆる要素は、引き続き従来のレンダラーが決定する。DLSS 5は完成したフレームを処理し、マテリアル、影、反射、アンビエントオクルージョン、キャラクターの肌におけるサブサーフェス・スキャタリング、光の相互作用などを向上させる。これらをネイティブレンダリングで実現するには、通常はGPUに大幅な余力が必要となる。
NVIDIAでDLSSの技術責任者を務める応用ディープラーニング研究ディレクターのエドワード・リュウ氏は、基調講演で役割分担を次のように説明した。「レンダラーは、ゲームで制作された通りの世界を正確に構築し続けます。その後に、学習された生成ステージが見た目を豊かにします」。リュウ氏はDLSS 5を、「DLSS Super Resolution」で使われている再構成や、「Ray Reconstruction」で使われている関数近似と並ぶ、リアルタイムレンダリングにおける第3のAI活用カテゴリと位置づけた。
このアーキテクチャは、従来のすべてのDLSSバージョンとは明確に異なる。DLSS 1から4までは主にパフォーマンス向上技術であり、低い内部解像度からアップスケールしたり、レンダリングされたフレームの間に追加フレームを生成したりしていた。これに対してDLSS 5は、完全にレンダリングされたフレームを受け取り、その見た目をさらに豊かにする。NVIDIAがDLSS 5は単なるフィルターではないと主張し、「より深い強化」と「ポストプロセス処理」の違いがアートディレクターにとって実質的な意味を持つと説明する理由はここにある。
■16ミリ秒の制約にリアルタイム拡散モデルを収める技術
DLSS 5が解決しなければならなかった最も難しい技術的課題は、時間に関するものだった。一般的な動画生成モデルは複数のフレームを同時に処理するが、ゲームはプレイヤーの操作に対し、フレーム単位でリアルタイムに応答しなければならない。4K・毎秒60フレームの場合、DLSS 5を含むレンダリングパイプライン全体を約16ミリ秒以内に完了させる必要があり、1ミリ秒の違いも重要になる。
DLSS 5は、大規模なオフライン生成ネットワークから蒸留された、コンパクトな「1ステップ画素空間拡散トランスフォーマー(one-step pixel-space diffusion transformer)」を採用することで、リアルタイム動作を実現する。未来のフレームを先読みせず、1フレームを入力して1フレームを出力する因果的な方式で動作し、通常のカラーバッファ、モーションベクトル、ゲームエンジン内部のデータであるアルベド、サーフェス法線、ライティングバッファを入力として使用する。ピクセルごとのフレーム間の移動量を表すモーションベクトルにより、モデルは動くオブジェクトを追跡し、フレーム更新時のちらつき、ずれ、不自然に揺らぐ「スイミング」といったアーティファクトを抑える。NVIDIAによると、DLSS 5の推論処理が使うのは16ミリ秒のフレーム時間のうち比較的小さな部分であり、大半はゲームエンジン自体の処理に残されるという。
この技術は、NVIDIAの標準的な統合パッケージ「Streamline」を通じてゲームエンジンに組み込まれる。
ただし、この設計には重要な制約がある。DLSS 5の主な入力は2Dのレンダリング済みフレームとモーションベクトルであり、ゲームエンジンが正確なジオメトリ情報を提供できる3Dシーングラフそのものではない。そのため、手前のオブジェクトが移動し、それまで隠れていた面が見えるようになった場合、システムは不足している詳細を推測しなければならない。モーションベクトルが表すのはオブジェクトがどこへ移動したかであり、その背後に何があったかではない。このため、遮蔽境界で誤った内容を生成するハルシネーションの構造的リスクを、現在の実装では完全に排除できない。NVIDIAはこの制約を公に認めており、パートナーからのフィードバックを受けて、開発者向けの追加制御機能を構築しているという。
■3つのモデル、独立スライダー、オブジェクト単位のマスク機能
SIGGRAPHの発表で、3月の反発に最も直接的に応える内容となったのが、開発者向けツールセットの詳細なデモンストレーションだった。
DLSS 5には現在、「Model A」「Model B」「Model C」という3つの異なるAIモデルが用意されている。それぞれ異なるパラメータで学習され、同じレンダリング済みフレームに対して異なる視覚表現を生成する。各モデルではパラメータ数、計算負荷、グローバルイルミネーション、テクスチャの細部、構造表現の強度、アンビエントオクルージョンに与える影響が異なり、控えめな強化から、より積極的なフォトリアル表現への変換まで幅がある。スタジオはゲーム全体で1つのモデルだけを使う必要はなく、ある環境にはModel A、別のエリアにはModel B、特定のキャラクターやカットシーンにはModel Cを割り当てることができる。
各モデルの適用度を調整するため、2つのグローバルスライダーも用意されている。「Structure Intensity(構造強度)」は、アンビエントオクルージョン、反射、サブサーフェス・スキャタリング、微細な表面テクスチャといった、高周波の視覚的ディテールに対するAIの影響を制御する。「Tone Intensity(トーン強度)」は、カラーグレーディングやシーン全体の色調など、より広範な特性を制御する。2つの設定を組み合わせることで、開発者はDLSS 5がコンテンツの見た目をどの程度変化させるかを細かく調整でき、特定の要素ではいずれかの設定をゼロにすることもできる。
さらに、DLSS 5は「Automatic Character Masks(キャラクター自動マスク)」をサポートする。開発者が手動で指定しなくても、モデルがフレーム内のキャラクターを識別して分離し、周囲の環境とは異なる生成処理を適用できる。「Engine-Defined Object Masks(エンジン定義オブジェクトマスク)」は、この機能をさらに拡張する。開発者はゲームエンジン内で、個々のオブジェクトまたはオブジェクトのグループに明示的なマスクを作成できる。NVIDIAはセッション中、ボトル、ブドウ、水差しなどのシーン要素を個別に制御し、それぞれに独立したStructureとToneの設定を適用するデモを披露した。NVIDIAの説明では、マスクできるオブジェクト数に上限は設けられていない。
基調講演でツールのデモを担当したクリエイティブアーティストのGaff氏は、DLSS 5について「開発者側から完全に制御可能だ」と述べた。目標は、この技術をアーティスト、アートディレクター、クリエイティブディレクターに役立つものにすることであり、NVIDIAは提供開始まで、パートナーからのフィードバックを追加の制御機能に反映し続けるとしている。
■シングルGPU動作を確認、ただしVRAMや最低スペックは未公表
3月のGTC 2026でのデモは、RTX 5090を2枚搭載した開発用PCで動作していた。当時のRTX 5090の価格に基づくと、GPUだけで約4,000ドル(約65万2,000円、1ドル=163円換算)に相当し、そのうち1枚はDLSS 5のニューラルネットワーク推論専用に割り当てられていた。当時NVIDIAは、製品提供時にはシングルGPUでの動作を目標にしていると説明していたが、今回のSIGGRAPH基調講演でそれが確認された。DLSS 5は提供開始時、NVIDIAが「効率的なVRAM割り当て」と説明する仕組みにより、単一のRTX 50シリーズGPUで動作する。
一方、RTX 50シリーズのラインアップ全体でパフォーマンスがどのように変化するかは、明らかにされていない。RTX 5090と5080は、DLSS 5が4Kで最も安定して動作すると予想されるクラスだが、RTX 5070、5060、それぞれのTiモデル、ノートPC向けBlackwell GPUについては最低動作要件が公表されていない。3つのDLSS 5モデルはそれぞれパラメータ数とフレームタイム負荷が異なるため、提供開始時には一部のモデルが上位のBlackwellハードウェアに限定される可能性もある。NVIDIAは、秋の提供開始が近づいた段階でシステム要件を公表するとしている。
RTX 50シリーズに限定されること自体も、当初の利用対象を大幅に狭める。従来のDLSS機能は、複数世代のRTX GPUにまたがって数百本のゲームでサポートされている。一方、DLSS 5の新しいニューラルレンダリング機能はBlackwell世代のハードウェアに限定されるため、当初の導入台数は、現在「DLSS Super Resolution」や「Frame Generation」が利用できる規模よりもはるかに小さくなる。
■今秋の対応タイトルと今後の課題
DLSS 5は今秋、RTX 50シリーズGPU専用機能として提供される。対応が確認されているタイトルには、『Starfield』『Assassin's Creed Shadows』『Hogwarts Legacy』『Resident Evil Requiem』『The Elder Scrolls IV: Oblivion Remastered』『Phantom Blade Zero』『Delta Force』などが含まれる。DLSS 5の統合を表明しているパブリッシャーには、Bethesda、カプコン、ユービーアイソフト、Warner Bros. Games、Tencent、NetEaseのほか、複数のパートナーが含まれる。
SIGGRAPHに先立って示された開発会社側のコメントは、慎重ながらも前向きなものだった。カプコンのエグゼクティブプロデューサーは、DLSS 5を『Resident Evil Requiem』の映像品質をさらに高めるための重要な一歩と説明した。Bethesdaも、『Starfield』に同技術を導入することへの期待を示している。これらの発言が真にクリエイティブ面での方向性の一致を反映したものなのか、それとも論争が頂点に達する前に決まっていた商業的パートナーシップによるものなのかは、製品版の実装を実際にプレイできるようになれば、より明確になるだろう。
3月に噴出した懸念は、大きく3つあった。DLSS 5が開発者に十分な対処手段を与えないまま画一的なAI表現を押し付けるのではないか、多くのプレイヤーが所有していないハードウェアを必要とするのではないか、そしてNVIDIAが、作品の見た目を変えられたアーティストに知らせないままデモを公開したのではないか、というものだ。SIGGRAPHでは、最初の2つについて、NVIDIAがこれまでに示したものよりも実質的な回答が提示された。選択可能な3つのモデル、上限がないと説明されたオブジェクトマスク、2つの独立した強度スライダーにより、開発者は単純なオンとオフとは明確に異なるツールを利用できる。提供開始時にシングルGPUで動作することも、最も直接的な実用上の懸念を取り除く。
しかし3つ目の懸念である、NVIDIA、開発パートナー、プレイヤーの間のクリエイティブ面での信頼は、どれほど詳細な技術ツールが提供されても、それだけでは解決できない。この点は、ゲームが発売されるまで確認できない実装上の選択によって判断されることになる。
未解決の技術的な疑問は、具体的な数値に関するものだ。必要なVRAM容量、GPUのクラスごとに異なる各モデルのフレームタイム負荷、3つのモデルをプレイ可能な解像度で動かすための最低ハードウェア要件は明らかになっていない。オクルージョン時のハルシネーションは、NVIDIAも認めている構造的な制約であり、現在のツールキットで解消されるものではない。NVIDIAは、パートナーからのフィードバックを受け、さらに多くの制御機能を開発中だとしている。今秋の提供開始と、10月に予定されている「GTC Berlin」での次の主要な情報公開によって、それらの制御機能が間に合うのか、また対応タイトルに含まれる多様なアートスタイルにとって十分なものになるのかが明らかになるだろう。
■注目ポイントQ&A
●DLSS 5を動作させるには2枚のGPUが必要ですか?
いいえ、必要ありません。NVIDIAはSIGGRAPH 2026において、DLSS 5が提供開始時に単一のRTX 50シリーズGPUで動作することを確認しました。2026年3月のGTC 2026で披露されたデュアルGPU構成は開発用のものであり、一般消費者向け製品の目標構成ではありません。ただし、具体的なVRAM要件や、RTX 50シリーズ内での最低動作スペックはまだ公表されていません。
●DLSS 5に用意される3つのAIモデルの違いは何ですか?
「Model A」「Model B」「Model C」は、それぞれ異なる学習パラメータを使用し、同じレンダリング済みフレームに対して異なる視覚表現を生成します。パラメータ数や計算負荷が異なり、グローバルイルミネーション、テクスチャの細部、アンビエントオクルージョンなどに与える影響にも差があります。開発者はシーン、カットシーン、特定のキャラクターごとに異なるモデルを割り当てられます。NVIDIAは、正確なパラメータ数やモデルごとのフレームタイム負荷を公表していません。
●DLSS 5はゲーム内で誤った描画を生成することがありますか?
はい、特定の条件では誤った詳細を生成する可能性があります。DLSS 5は、ゲームエンジンの3Dシーンデータを直接読み取るのではなく、2Dのレンダリング済みフレームとモーションベクトルを処理します。そのため、手前のオブジェクトが移動し、それまで隠れていた面が見えるようになった場合、モデルは何が表示されるべきかを推測しなければなりません。この処理によって、誤った視覚的詳細が生成されることがあります。NVIDIAはこの制約を認め、開発者向けの追加制御機能を開発していると説明しています。モーションベクトルはフレーム間の時間的な不安定さを抑えますが、オクルージョンの問題を完全に解決するものではありません。
●提供開始後にDLSS 5のAIモデルが更新された場合、ゲームの見た目はどうなりますか?
これは、ゲームの保存や再現性に実質的な影響を及ぼし得る未解決の問題です。DLSS 5は従来方式でレンダリングされたフレームに生成モデルを適用するため、将来のドライバーやモデルの更新によって、ゲーム自体が変更されていなくても、マテリアル、ライティング、表面の細部などの見た目が変わる可能性があります。異なるドライバーバージョンを使用するプレイヤーが、発売当初のプレイヤーとは見た目の異なるゲームを体験する可能性もあります。NVIDIAは、DLSS 5に関する公の説明で、ゲームの保存や再現性の問題について言及していません。
元記事: DLSS 5 Sheds Dual-GPU Stigma: Three AI Models, Per-Object Control Confirmed
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク

