猫はみっともないほど速く逃げる? 逃げ足の速さを笑う英語イディオム

2026年3月14日 17:30

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 英語で「速い」を表す比喩は、枚挙にいとまがない。

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 「like a bat out of hell(地獄から飛び出したコウモリのように)」、「like greased lightning(油を塗った稲妻のように)」、「at breakneck speed(首が折れるほどの速さで)」。

 それぞれ微妙に異なるニュアンスを持つイディオムだ。

 なかでも、今回紹介したい「like a scalded cat」というイディオムは、少し毛色の違う「速さ」を表している。直訳すれば「(熱湯で)火傷した猫のように」だが、この表現が具体的にどんな状況を表し、なぜ猫が比喩として用いられているのかを掘り下げてみたい。

■単に「速い」のではなく、みっともなく急いでいるさま

 「like a scalded cat」は、「猛烈に速い」という意味のイディオムだ。だがそこには、単なるスピードとは異なるニュアンスがある。

 熱湯を浴びた猫を想像してほしい。パニックに陥り、前後の見境なく一目散に逃げ去るだろう。その動きは確かに速いだろうが、決してかっこいいものではない。

 つまりこの表現は、品位(dignity)を失った、みっともないほどの速さをユーモラスに描写するイディオムなのだ。

 たとえば、「She ran out of the room like a scalded cat.」と言えば、ただ「素早く部屋を出た」のではなく、「慌てふためいて、みっともないほど飛び出した」という情景が目に浮かぶ。

 どこか滑稽さを伴う点が、「like greased lightning」のようなポジティブな比喩とは決定的に異なる。

■語源は不明

 コリンズ英語辞典によると、このイディオムはイギリス英語に特徴的な表現のようだ。

 ただなぜ、「熱湯で火傷した猫」が「みっともない速さ」の比喩になったのかについては不明だ。また同じ辞書に記載されている用例は、すべて21世紀のもので、さほど古いイディオムではないと推測される。

 実際、語源がはっきりしない英語のイディオムは枚挙にいとまがない。誰かが思わず口にした比喩が、長い時間をかけて人から人へと受け継がれ、いつしか辞書に載るほどの慣用表現になる。「like a scalded cat」も、そのような経緯で生まれた表現なのだろう。

 一点、言えることは、英語には「猫を極限状態に置くことで、人間の心理や動作を描写する」という発想が古くから存在する点だ。

 本コラムでも取り上げた「like a cat on a hot tin roof(熱いトタン屋根の猫のように、不安でそわそわしている)」や、「as nervous as a cat in a room full of rocking chairs(ロッキングチェアだらけの部屋の猫のように、ひどく神経質な)」も、その典型と言えるだろう。

 俊敏で自尊心が高い動物というイメージが英語圏に根付いているからこそ、その猫が追い詰められ、品位を失う場面が、これほど豊かな比喩を生み出してきたのかもしれない。(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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