「猫も王様を見てよい」とは? 猫にまつわる英語イディオム (10)

2025年6月8日 20:44

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 1匹の猫が王様を見つめていたら、どう思うだろうか。単に可愛らしいと微笑ましく見守る人もいれば、ひょっとしたら失礼にあたると怒る人もいるかもしれない。

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 英語にはそんな光景をそのままことわざにした表現がある。それが今回取り上げる 「A cat may look at a king」 というフレーズだ。

■A cat may look at a king

「A cat may look at a king」 は、直訳すれば「猫だって王様を見てもいい」とでもなるだろうか。ここから類推できるように、これは「身分の低い者にも一定の権利がある」という意味を表すことわざだ。

 たとえ王様のような高位の人物に対してであっても、猫がじっと見つめることを禁じることはできない。つまり、誰であれ最低限の自由や権利は持っているということだ。言い換えれば、「たとえ立場が下であっても、存在を無視されるべきではない」といった尊厳の主張が込められている。

■由来と変遷

 この表現の起源は非常に古く、少なくとも16世紀のイングランドには定着していたと考えられている。

 書物に記録された最古の例として知られているのが、イギリスの劇作家、John Heywoodが1562年に著した『The Proverbs and Epigrams of John Heywood』である。この箴言集の中に、 「What, a cat may look on a king, ye know!」 という一節が収録されているのだ。

 このことからも、当時すでに民間で使われていた口語表現である可能性が高い。猫と王様という不釣り合いな関係性が、人間社会の階級や権力構造を皮肉る比喩として機能していたことは明らかである。

 ただ現代においては、このことわざが使われる場面は少なくなってきているようだ。王様の権威や絶対性がかつてほど強くなく、また、万人に基本的な権利があるという考え方が広く浸透したからかもしれない。

 それでも含蓄のあるこのことわざとして、文学作品や歴史的な文脈、あるいはユーモアを交えた議論等で目にすることがある。

 やや古風な響きを持つ「A cat may look at a king」は、現代の日常会話で頻繁に耳にする表現とは言えないかもしれない。しかしイギリス英語圏の成人であれば、教養的に知っている可能性は高いだろう。実際、新聞の論説や風刺などでは今も多くの用例が見られる。

例文
・He may be the CEO, but a cat may look at a king. I’m allowed to ask questions.
(あの人がCEOだからって、口を出しちゃいけないなんてことはない。猫にだって王様を見る権利があるのだから)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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