「クリームを手に入れた猫」とは?猫にまつわる英語イディオム(8)

2025年5月26日 16:08

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 満足げな顔をした猫と聞いて、どんな表情を思い浮かべるだろうか。目を細め、ぺろりと舌を出し、何か美味しいものでも食べた後のような、得意げな顔だろう。

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 英語にはまさに、そんな猫の様子をそのまま比喩にした表現がある。今回は 「like the cat that got the cream」というフレーズを取り上げたい。

■Like the cat that got the cream

 これは「満足げな」「得意満面な」「してやったりといった様子」といった意味の、イディオムだ。

 直訳すれば「クリームを手に入れた猫のように」となるが、文字通り、猫がごちそうであるクリームを手に入れて舌なめずりをしているような、満足感や優越感を表す。

 単に喜んでいるというより、「いい思いをして、それを隠すつもりもない」というニュアンスが強く出る点に、この表現の面白さがある。

■由来

 この言い回しは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、イギリスで広まったのが始まりだと考えられる。当時の家庭においてクリームはごちそうであったことを考えれば、「クリームを盗み食いした猫」という情景は、当時の人々にとって非常に身近でリアルな比喩だったのだろう。

 ちなみに、ここでいう「クリーム」とは、牛乳の表面に分離して浮かぶ脂肪分の層のことで、一般に連想される甘いデザート用のクリームではない。紅茶に入れたり、スコーンに添えたりするこの濃厚な乳脂は、保存や流通が限られていた時代には貴重な贅沢品であり、テーブルに出されるだけで特別感のある食材だった。

 そんなごちそうに猫がこっそりありつく場面を、想像してもらいたい。食いしん坊な可愛らしさと同時に、ずる賢さを思わせるニュアンスが同居していることがわかるだろう。

 「猫」と「クリーム」という組み合わせには、ちょっとした悪戯や抜け駆けのニュアンスも含まれる。そのためこのイディオムは、単なる満足感だけでなく、他人より一歩先んじて得をしたような優越感や、秘めた自慢気な態度を描くのにも適していた。それが次第に口語表現として定着し、現在に至るまで使われ続けている。

■アメリカ英語との違い

 なおアメリカ英語には、似たような表現として、「like the cat that ate the canary」(カナリアを食べた猫のように)という言い回しがある。得意げな表情を表す点では共通しているが、ニュアンスが微妙に異なる。

 イギリス版の「got the cream」は、得をしたことを隠す気もない堂々とした満足感を描いているのに対し、アメリカ版の「ate the canary」は、こっそりいい目を見たことが顔に出てしまっているような、どこかバツの悪さを伴った得意顔である。どちらも満足げではあるが、態度に滲む心理に若干の違いが見て取れる。

例文
・She walked into the room like the cat that got the cream after closing the deal.
(その契約をまとめた後、彼女はまるでクリームを手に入れた猫のような得意げな顔で部屋に入ってきた)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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