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【QAあり】サイボウズ、IRグループ面談を実施 エンタープライズ企業向けの活動を強化、中長期の製品戦略も説明
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アジェンダ
青野慶久氏(以下、青野):みなさま、こんにちは。代表取締役社長を務めている青野でございます。当社のIRグループ面談にご参加いただき、ありがとうございます。
本日のアジェンダはスライドのとおりです。会社・事業紹介、2024年上期の業績状況、中期・短期の取り組みの順にお話しします。よろしくお願いいたします。
会社概要
会社概要です。事業内容はシンプルで、「グループウェア」と呼ばれる情報共有のソフトの開発・販売・運用を長らく続けています。これほどグループウェアのみにこだわる会社は珍しく、それこそがサイボウズの特徴です。
創業から27年経ちました。インターネットの第1期くらいの、ベンチャーとしてはかなり古参の企業となります。
現在の拠点数は20ほどで、グループとしてもグローバルに拠点が増えてきたところです。昨日まで私は上海にいました。従業員数は連結で1,276名、派遣社員なども入れると1,400名から1,500名の規模となっています。
企業理念
サイボウズを語るには企業理念が一番大事ですので、少し時間を取ってご説明したいと思います。
「チームワークあふれる社会を創る」が私たちの存在意義であり、そこに非常にこだわりを持っています。どのような会社もきれいな言葉を企業理念に掲げていますが、私たちには本当の覚悟があることが大きな特徴かと思います。
実は、サイボウズを起業・上場した時にも企業理念も掲げていましたが、昔はそこまでの魂を持った思い入れはありませんでした。しかし、サイボウズの歴史を見るとおわかりいただけるように、過去の失敗が契機に変わりました。
2005年に私が前社長から引き継いでから、1年半の間に9社のM&Aを実施しました。連結売上高は一気に4倍になりましたが、いくつかの事業がうまくいかず、非常に利益の出にくい会社になってしまいました。
そこで「私たちは何をしているのか?」「会社は大きくなったが、本当にやりたいことは何だろう?」と迷う時期があり、私も悩みに悩みました。
「なぜ会社を立ち上げたのか」「残りの人生、私は何をしていくのか」と考えた時に、本当に好きで好きでたまらないグループウェアで生きていこうと思ったのです。今はSNSやソーシャルゲームなど、魅力的で儲かりそうな事業がさまざまにありますが、我々は2007年頃に「グループウェアに集中する」と決断しました。
なぜそこまでグループウェアにこだわるのかについてお話しします。
情報共有ができる会社は、そこで働く人たちが楽しく働けるようになります。今まで風通しが悪かった会社が働きやすくなり、効率が上がり、みんなが生き生きとします。私はそれが見たいがために会社を作り、残りの人生をかけてもよいと感じています。
それが私たちが企業理念として掲げる「チームワークあふれる社会を創る」への想いです。これは、サイボウズの従業員全員に言えることだと思います。「私たちはチームワークあふれる社会を創るために事業をしている」ということをより明確にするため、株主のみなさまも含めた総意として、企業理念を株主総会で決議しました。
どのような状態が「チームワークがあふれている」と言えるのかについても、言語化を進めています。それが、パーパスと一緒に掲げているカルチャーです。
1つ目は「理想への共感」です。見ている方向がバラバラではよいチームとは言えず、同じ理想に共感し向かっていくことが大切だと考えます。
2つ目は「多様な個性を重視」です。世の中には、働く時間や場所に制限がある人もいれば、障がいを持っている人もいます。しかし、さまざまな人たちがそれぞれの個性を重んじてうまく組み合わせることで、チームワークを発揮して効率を上げる社会が「チームワークあふれる社会」だとイメージしています。
3つ目は「公明正大」です。「チームワークあふれる社会」の実現には、嘘をつかない、隠し事をしないことも大切です。
4つ目は「自主自律」です。一人ひとりが自律心を持つことも重要だと考えています。
5つ目は「対話と議論」です。自主自律をベースとして、対話と議論を重んじる社会を目指します。
このようなカルチャーを大切にしたチームが世界中にあふれる社会を作ることを、サイボウズの企業理念としています。
私たち自身もまた、チームワークあふれる会社であるべく取り組んでいます。2024年の日経新聞が行った調査によると、働きやすさも働きがいもある会社をランキングにしたところ、上場企業の2,300社の中でサイボウズが1位になりました。
まさに「働きやすさと働きがいが両立できる会社」を目指してきた私たちにとって、非常にうれしい評価でした。この企業理念へのこだわりを、まずご理解いただければと思います。
サイボウズの製品
そのような社会を創るためには、ITによる情報共有のインフラが必要だと考えています。現在は、主に4製品でビジネス展開をしています。
創業以来続けているのが、中小企業向けグループウェアの「サイボウズ Office」です。大企業向けには「Garoon」があります。
「サイボウズ Office」と「Garoon」はスケジュール共有を中心としたグループウェアですが、さらに多様な情報共有をできるようにしたのが、ノーコードで業務アプリを開発できる「kintone」と、メール共有システムの「メールワイズ」です。
kintoneと目指す理想
現在は、情報共有プラットフォーム「kintone」を中心にビジネスを展開しています。こちらは他のSaaSベンダーとは異なり、エコシステムを作るという特徴があります。
私たちがビジネスを通じて理解したのは、お客さまは本当に多様だということです。中小企業もあれば大企業もあり、同じ業種であっても業態や会社のカルチャー、地域もさまざまです。グローバルで見れば、言語や文化はさらに多様です。
チームワークあふれる社会創りは、私たちだけで成し遂げられるものではありません。そこで私たちができることとして、情報共有に必要なコア部分に集中し、周辺にパートナーを増やし、エコシステムを通じて世界の多様性に応えていくことにしました。これを目指したのが「kintone」です。
ビジネス的に言い換えれば「私たちで全取りしようとしない」ということです。私たちはコアの部分を担いますが、販売パートナーや金融機関、DX人材育成機関とも連携しています。また、OEMやユーザー企業同士のネットワーク作りなども行います。
世界中のありとあらゆる人たちを仲間に巻き込みながら、「kintone」によって情報共有を進めています。
kintone ユーザー導入状況
2024年6月末時点で、「kintone」は3万5,000社と契約しています。東証プライム上場企業の3社に1社程度が導入していますが、社内全体ではなく、多くは一部門での導入です。ユーザー企業の業種はバラバラで、どのような業種でも導入できることが特徴のひとつとなっています。
お客様事例
お客さまの事例をご紹介します。基本的には中小企業が多いのですが、最近では大企業の全社導入や、自治体での全庁導入などの事例も増えてきました。
自治体はアナログな業務が多く残っていますが、北九州市では全職員8,000人に「kintone」を導入いただきました。「kintone」でアプリ化することで情報共有を可能にし、効率の良い職場環境作りのDXのインフラとして「kintone」を活用いただいています。
大陽日酸は大企業の事例です。グループ8,000人で、情報共有およびDXの基盤として活用いただいています。
目立たないところでは社会インフラのような事例もあり、こちらは無料で提供することも多いです。2024年1月の能登半島地震では、自衛隊の状況把握に「kintone」を提供しました。
被害が非常に広域にわたり状況把握が大変だったところ、避難所を回る自衛隊が集落にいる人数や足りない物資を入力します。すると中央で情報共有され、必要な物資を持っていくことができました。このように、社会インフラとして役立てていただいた事例もあります。
また、教育もDXが進まない典型だといわれています。特に学校は情報が非常に分散しており、各自が大変な思いでこなしています。三島市の教育委員会では、市内公立小学校21校の全職員に「kintone」アカウントを配布し、先生の間接業務が一気に削減されました。教育委員会とのやり取りも含めて、DXのプラットフォームとして使われています。
これらの事例が、私たちがイメージする「チームワークあふれる社会」へのステップとなります。
上期連結業績 対前年同期比
2024年上期の業績状況です。連結売上高は前年同期比14.6パーセント増、連結営業利益は前年同期比10.7パーセント増となりました。
詳細
連結売上高の14.6パーセント増に対して営業利益が10.7パーセント増で留まった背景には、広告宣伝費があります。
すでにみなさまもご認識かと思いますが、最近はテレビCMや交通広告を比較的積極的に行っており、ノーコードでアプリを作れるシステムを広めようとしています。2年ほど積極的に広告投資を行う中で、本当に意味があるのかを試そうということで、2023年上半期はいったん広告宣伝費を減らしました。
広告宣伝費を減らし、広告が私たちのビジネスにどのように影響するのか、お試しの数や申し込みの数がどのくらい減るのか、営業現場で定性的な影響があるのかなどを見たところ、やはり出したほうがよいとの結論になりました。
その結果、2024年は広告宣伝費を通常に戻し、営業利益の伸びがとどまったということです。どちらかというと、2023年上半期が異常値だったと言えます。
クラウド関連事業 単月売上高(MRR)対前年同期比
クラウド関連事業の単月売上高(MRR)は、2024年6月で22億円弱まで進捗し、前年同期比で18.5パーセント伸びている状況です。
“サイボウズNEXT”
中期・短期の取り組みについてご説明します。スローガンには“サイボウズNEXT”を掲げています。
こちらは「サイボウズ Office」「Garoon」「kintone」「メールワイズ」の既存4製品について、より多様なお客さまが、より多様な情報を扱えるプラットフォームに進化していけるように、「kintone」のコア機能を中心にサイボウズ全体でできることを増やしていく試みです。
サイボウズNEXT第一弾:kintoneの「メール共有オプション」
「サイボウズNEXT」の具体的な取り組み第1弾として、「kintone」の「メール共有オプション」のリリースが決まっています。
これまでの「kintone」でメールを共有するためには、「メールワイズ」を別途ご購入いただく必要がありました。今回リリースする「メール共有オプション」は「kintone」とメールをノーコードで接続でき、「kintone」に入っている顧客情報と外部からのメールを紐付けて共有・管理することが可能となります。
「kintone」のコア機能に付加価値をつけるオプションというイメージです。
エコシステムによるAIソリューション
最近では「kintone」周辺で生成AIを活用する流れも増えてきています。
リコーの「RICOH kintone plus アプリ作成アシスタント」では、ドラッグアンドドロップをしなくても、「こんなアプリが欲しい」と生成AIに話しかけるだけでアプリを作ることが出来ます。
M-SOLUTIONSの「Smart at AI」も、おもしろいAIソリューションです。生成AIへの命令にあたるプロンプトは書くことが難しいものですが、「Smart at AI」は誰かが作った出来の良いプロンプトを共有し、ボタン1つで使い回せるようにするプラグインです。
このように「kintone」周辺の生成AI活用も進んでいます。
Cybozu Days 2024
本日は製品アップデート情報についてお話しできないことも多いのですが、11月に開催するイベント「Cybozu Days 2024」にて、新機能などの最新情報をお届けする予定です。
このイベントは幕張メッセで毎年2日間行っており、スライドの画像は2023年の様子です。パートナーのブースが多数並び、2023年にはパートナーブースが100社を超えました。いかにエコシステムの発展が進んでいるかがおわかりになるかと思います。
2024年は127社のパートナーに出展いただく予定です。中小企業や製造業、サービス業、会計士など、いろいろな人がいろいろな悩みを持ってご来場されますが、ブースを回ると自分が探していたものがなにかしら見つかります。多様なニーズに応えるため、エコシステムが拡大しています。
もしよろしければ、ぜひお越しいただきたいです。サイボウズが作ろうとしている世界観を、感じ取っていただけると思います。
クラウドサービスの価格体系改定および 全社・大規模導入向けkintone「ワイドコース」開始について
価格改定についてです。クラウドサービスの開始以降、あまり価格改定は行っていませんでした。しかし昨今の流れもあり、約2割を目処にクラウドサービスの価格を上げることになりました。
実施は2024年10月で、それ以降は値上がり後の価格で買っていただくかたちです。こちらは、売上にも多少影響が出てくると思います。
また、クラウドサービスの価格体系改定とともに、全社・大規模導入向けの「ワイドコース」を新設することにしました。先ほども「全社導入のケースが増えてきた」とお伝えしましたが、「ワイドコース」は大企業・大規模のニーズに応えるべく新設するライセンス体系です。
kintone「ワイドコース」
「ワイドコース」についてご説明します。大企業が「kintone」を使う場合、管理機能やプロセス管理上の機能、ポータルなどのニーズがあります。「ワイドコース」はこのような大規模利用に対応する機能とアプリの上限値を備えます。
アプリの数は今までは1,000個が上限でしたが、3,000個まで上げられるようにする予定です。また、APIリクエスト数の上限も、必要に応じてご相談いただけます。
kintoneエンタープライズパートナー認証
SIerを対象に、エンタープライズパートナー認証を始めました。大企業に対して、提案・導入実績を持つパートナーをサイボウズが認証することにより、お客さまがより最適なパートナー企業を選択しやすくなることを目的としています。
グローバル展開
グローバル展開についてです。現在は主に、中華圏、北米、東南アジアの3つの地域で「kintone」を展開しています。戦略変更の関係もあり、前年同期比での伸びはそれぞれ異なります。
中華圏はデータ保護法ができたことにより、中国ローカルのお客さまに向けた営業が難しくなってしまったため、メインターゲットを日系企業に切り替えてビジネスを展開しています。
米国ではリコーと組むことができたため、直販は残しながらも、リコー経由で販売を進めていこうと考えています。リコーが今まで築いてこられた複合機の販売ネットワークを使って、「kintone」を売っていきます。我々は後方支援に回っており、現在は立ち上がるのを待っているために伸びが遅い部分があります。
東南アジアは日本と同じ価格でしたが、グローバル価格として米国と同じ価格をつけたところ、値段がなんと2倍以上に上がりました。そのため導入社数の伸びが弱まっているという事情がありますが、どの地域も売上ベースでは2桁で成長しています。
外部によるセキュリティ評価 ~SOC2 Type2認証取得~
グローバル展開をしていくにあたっては、グローバルの認証も積極的に取得していかなければなりません。今まで取っていたISMSやISMAPに加えて、今回SOC2 Type2という認証を取得しました。
外部による評価については、引き続き力を入れていきます。グローバル展開していくには、グローバルの認証を取っていかなければ安心して導入してもらうことが難しいため、コストがかかっても取り組んでいきたいと思っています。
国内10都市・海外7カ国の拠点
現在は、国内10都市、海外7ヶ国の合計約20拠点でビジネスを展開しています。南米での販売においては、リコー経由でのスペイン語対応を始めました。
今後も、タイミングを見ながら他地域にも展開していきたいと思っています。
事前にいただいていた質問について
司会者:事前にいくつか質問をいただいていたので、そちらを回答した後に、リアルタイムでの質問の受け付けに移りたいと思います。
質疑応答:「kintone」の中長期の成長ポテンシャルについて
青野:「kintone」の中長期の成長ポテンシャルについてのご質問です。
こちらは予測しかできませんが、現在の「kintone」の契約ユーザー数は百数十万人ほどです。それが日本でもっと広がれば、千数百万人ぐらいまで増やしていけるのではないかと思っています。
競合もありますが、ノーコードの開発ではかなり優位な立場にいると思います。百数十万人から千数百万人まで増えると、国内で10倍程度になるというイメージで捉えています。
それがグローバルになると、日本のさらに10倍ということになります。10倍の10倍となるため、「kintone」の事業だけで今の100倍ぐらいまで成長するのではないかと思って取り組んでいます。
質疑応答:「kintone」の競争優位性について
青野:「kintone」の競争優位性についてのご質問です。
競争優位性を語るのであれば、競争相手は誰かということが重要になってきます。「kintone」が1番競合しているのは、ノーコード/ローコード開発システムの「Salesforce」や「Microsoft Power Apps」だと思います。
それらとの競争優位性として、まずは価格面が挙げられます。「Salesforce」はけっこういいお値段ですので、「kintone」のほうがかなり安いと言えます。
また、使いやすさにおいても優位性があると思います。「Salesforce」や「Microsoft Power Apps」も「ノーコード/ローコード」を謳っているものの、やはり横文字の言葉が多く、プロが必死に勉強して作っていくものだと思います。一方で「kintone」は、まさにCMのように現場の人が自分たちで作ることができ、こちらが製品としての差になります。
ただし、1番の競争優位性はやはりエコシステムだと思います。どのような便利なツールであっても、そこまで使いこなせるお客さまはいません。したがって本当に大事なのは、お客さまのそばに寄り添ってくれるパートナーがいるかどうかだと考えています。
パートナーがお客さまのことを理解し、「こうしたら便利になる」「次はこのように改善してはどうか」「このようなサービスと組み合わせてはどうか」とアドバイスして寄り添えるパートナーネットワークというエコシステムがどこまであるのかが、1番の競争優位性になると私は信じています。
その点においても、少なくとも日本では「kintone」のエコシステムは十分競争優位があると思っています。
質疑応答:5年から10年間の会社成長について
青野:「5年から10年後、どのように会社を成長させていきますか? 次の柱となる製品は必要ですか?」というご質問です。
基本的に、5年や10年という単位では、「kintone」を中心に成長させていくつもりです。まだ国内でも10倍は成長すると思っていますし、グローバルでは100倍成長できると思っています。
そのため、他の製品に力を入れてリソースを分散するよりも、「kintone」に集中させるほうが成長にとっても大事だと思っています。したがって、事業としては「kintone」中心で進めていくつもりです。
ただ、他のことを何もやらないわけではありません。「kintone」をさらに強化するために、周辺のプロダクト開発なども実験的に実施していますし、それらの一部が商品化されることもあると思います。
質疑応答:自社製品のプライシングについて
青野:自社製品のプライシングに対するこだわりについてのご質問です。
難しいご質問ですが、私たちが実現したいのは「チームワークあふれる社会を創る」ことです。お金持ちの会社しか買えない値段にはせず、どの会社でも「これぐらいの金額ならば、投資してもいいかな」と言えるぐらいのプライシングを行いたいと思っています。
ただし、安ければ安いほどよいわけではなく、ある程度の価格をつけなければいけないと考えています。それを販売して利益を上げるパートナーもいますし、周辺のサービスとの組み合わせを提案するパートナーもいるからです。
周辺ビジネスなどのエコシステムとのバランスを見ながら、時代に合わせてプライシングを見直していくのが、私たちの考え方になります。そして今回は、エコシステムの観点からも「上げたほうがよいだろう」と判断しました。
質疑応答:値上げによる顧客離れについて
林忠正氏(以下、林):経営支援本部長の林と申します。財務経理や経営企画など業績管理・モニタリングの責任者をしています。
値上げによる顧客離れが起きていないかというご質問についてお答えします。
今のところ、強い懸念を抱くほどの顧客離れは起きていないと感じています。もちろん個社別に見ると、それまであまり使い込んでいなかったお客さまが、今回の値上げをきっかけに見直して解約するケースはいくつか確認しています。
加えて今回は、ユーザー当たりの単価だけでなく、最低ユーザー数の引き上げも行っています。それに伴い、非常に小規模に利用されていたお客さまのゾーンで、解約率が上がるような部分はあります。
しかし今のところは、全体から見た時の売上影響はかなり小さく、見ていてそれほど心配になる事態は起こらないと判断しています。値上げが実際に開始されるのは11月以降になるため、動きが大きくなるのは9月や10月ぐらいからなのではないかと思っています。
そちらについても、現場で顧客接点を持っている部門のフィードバックを受けている限りでは、そこまで大きい影響は起こらないのではないかと見立てています。
質疑応答:今後の株式市場との関係について
質問者:投資家との対話などを含め、今後は株式市場をどのように活用し、付き合っていきたいと考えていますか? 一般的には資金調達をする場だと思いますが、お考えを聞かせてください。
青野:1番メリットを感じているのは、企業に対する信頼です。私たちはBtoBのビジネスをしていますが、上場によって信頼を確保できているところもあり、採用にもプラスになっています。この信頼にもとづき、上場企業として法的責任を果たしていくことがベースにあります。
資金調達にもメリットはあると思います。今後の戦略によって追加でカードを切る可能性はありますが、今のところ予定はありません。ただし、可能性がないかと言われると「場合によってはある」というお答えになります。
今日お話ししたように、今後のグローバル展開のためには、どこかのタイミングで資金調達をする可能性も考えられます。そちらを踏まえながら、株式市場と向き合っていきたいと思っています。
質疑応答:製品への認知度や理解度について
質問者:今後の戦略は、1企業あたりのユーザー数をさらに拡大していくものと捉えています。御社の広告宣伝のフェーズとしては、認知度の向上から理解してもらう局面に移ってきていると感じます。
もし「自社製品を理解している人がどれぐらい増えてきているか」などについて、社内で調査等をしているなら、その結果や、現在はどのように捉えているかを教えてください。
青野:認知から理解の調査については、社内的には行っています。戦略的なところもあるため社外には公開していませんが、認知度は上がってきており、理解も少しずつ進んでいます。
そのあたりを見ながらどこにどのようなメッセージを出すか考え、広告宣伝の戦略も変えていこうとしています。
質疑応答:大企業の一括導入の手応えについて
質問者:大企業の一括導入を進める中で、ここ半年から1年の手応えは上がってきているのでしょうか?
青野:上がってきています。昨年の下半期頃からエンタープライズ市場に向き合うべく、専用の営業体制やホームページを立ち上げ、マーケティング活動を開始しました。そこでお声がけをいただくことも増えており、実績としても、今年から来年にかけて徐々に上がってくると期待しています。
質疑応答:海外でのパートナー展開について
質問者:今日のご説明でも海外展開を掲げられていましたが、日本でもそうであったように、海外においても多種多様なパートナーを形成していくのが御社の勝ち筋だと想像しています。
海外でのパートナー展開については、日系企業で海外展開しているところと組むのか、海外の地場の人たちと組むのかどちらになりますか? もしお話しいただける戦略があれば、ご教示いただければと思います。
青野:どちらも使うことになります。日本でも多数のパートナーが育っているため、彼らに「みんなでグローバルに行こう」「私たちも協力できるところはするから、一緒に海外に行こう」と声をかけ、日本のエコシステムを海外に輸出するモデルに取り組んでいます。
いくつかのパートナーはそれに応えてくださって、彼らの海外支援を手伝うような動きも始まっています。ただ、そうは言っても海外は海外です。日本にはないシステムが数多くあり、ソフトを連携しなければならないため、地場で開拓する必要があるところも多いです。
特に基幹システムは、国によってまったく違います。私は昨日まで上海にいましたが、上海では「用友」や「金蝶」など、日本ではまったく知られていなくても中国で圧倒的に有名な基幹システムがあり、このようなものと連携しないといけません。そのため、地場のパートナーを開拓して組むことも重要になってきます。
さらには、自分たちでもある程度動かなければいけないということを実感しています。エコシステムの人たちが動いてくださるのは、「『kintone』は、この国でもこうやれば売れるんだ」という実績が弊社にあるからです。
この実績が出るまでは、自分たちでSIを含めて動かなければ、なかなか海外で立ち上げていくのは難しいと思っています。したがって、日系、地場、自社、これらをフル活用しながら、グローバルでのエコシステムを築いていこうとしています。
質疑応答:海外開拓チームの規模について
質問者:御社の海外開拓チームの規模はどのくらいなのでしょうか?
青野:地域によって違いますが、アメリカは40人から50人、中国も80人ほど、アジアは若干少なく20人ほどではないかと思います。こちらは現地メンバーですので、日本から後方支援しているメンバーを加えると2倍弱程度の人数になると思います。
質疑応答:全体的なDXプラットフォームとしての「kintone」採用策について
質問者:部門単位での利用を超えて「kintone」を全体的なDXプラットフォームとして採用を促進するために、どのような具体策を講じているのでしょうか?
青野:私たちが全社規模で提案する時には、いくつかのキーワードがあります。
1つ目は「全社のDX化」です。今やDX化は、どの会社も取り組まなければいけませんが、そうは言っても、DX化を進めるためにはツールが必要で、ツールを使いこなせる人材が必要になります。
しかし、日本企業の多くは、そこまでプロフェッショナル人材がいないわけです。そうすると、難しいツールを導入しても、なかなか全社のDXは進まないことになります。そこで「『kintone』を入れると、ほとんどの人が使えるようになってDX化が加速します」とお伝えします。
これが、部門ではなく全社で使う意味として、全社のDX基盤とそれによるDX人材の育成という切り口となります。
もう1つのキーワードとして、今の大企業は基幹システムの問題に悩んでいます。昨今も基幹システムが止まって大問題が起きていますが、基幹システムは複雑になりがちで、メンテナンスに非常にコストがかかります。
そのため、現在のようなクラウドの時代においては、基幹システムをできるだけシンプルなままにとどめておき、周辺を「kintone」のようなノーコードツールで構成すると、基幹システムは複雑にならないため安定的に動かすことができます。
加えて、ノーコードツールによって現場の柔軟性も確保できます。そこで、全社的にこの組み合わせを提案しています。こちらもいくつか実績が出てきており、おそらく今後のトレンドとして広がっていくと期待しています。
全社に対する提案としては、以上の2点を今進めているところです。
質疑応答:キャピタルアロケーションに対する考え方について
質問者:概念的でもけっこうなので、御社のキャピタルアロケーションに対する考え方を今一度教えていただけないでしょうか? 多くのキャッシュを毎年創出するようなビジネスモデルだと思いますが、そのキャッシュをどのように使う予定ですか?
また、アロケーション先はどのように選定しますか? ROICやキャッシュリターンなど、さまざまな判断基準があると思いますが、選定プロセスについてヒントをいただけると幸いです。
青野:基本的な考え方としては、私たちがBtoBでグローバルを目指してまだまだ成長していかないといけない中で、ハイリスクハイリターンなことをするよりは、着実に成長していくところをベースに考えています。
お客さまへの信頼も重要ですので、投資と還元とのバランスを見ながら進めるということになります。株主の方にもそれをご理解いただきたいと考えています。他のサービス会社と違って、当社はずっと配当を出し続けており、配当も増やし続けています。
キャピタルアロケーションという意味では、着実に一歩ずつ投資をして、回収をして、還元するというのが、私たちの基本スタンスになります。
林:基本方針は今青野がお話ししたとおりです。我々としても、株主のみなさまを含めたステークホルダー全員に対して、事業成長が最も多くリターンが返せると考えているため、その着実な成長を最優先にしたいと考えています。
もちろん投資は行いますし、今回は値上げも行うため、自分たちの手元にキャッシュがたまることがあると思っています。そちらの規模感や金額なども見ながらバランスをとりつつ、基本的には事業成長を最優先に進めたいと考えています。
質疑応答:ARRの成長率について
質問者:2月末の事業説明会で「ARRの成長率低下が足元の課題である」とご説明されたと思いますが、今回の価格改定ならびにワイドコースの導入により、ARRの成長率を反転できるでしょうか? このあたりをどのように考えているのか教えてください。
青野:おそらく、価格改定によってARRの成長率は短期的には上がると予想しています。2割ほど値上げするため、あまり解約されなければ、シンプルに約20パーセント増えるかたちとなります。
ただし、こちらは本質的な成長率ではありません。その数字は見ながらも、より本質的に「部門から全社へ」「グローバルへ」という流れをしっかり作っていくことが大事だと思っています。
質疑応答:人材戦略について
質問者:御社の人材戦略についてです。これまで「100人いれば100通りの働き方」を実現し、情報共有してフラットな組織を作ってこられました。日本経済新聞の記事でも「働きやすさと働きがいが両立できる会社」のトップに選ばれ、端から見ると御社の組織力はかなりいいところまで来ており、今後の伸びしろについて気になっています。
青野社長がご覧になって、社内の組織力やチームワークにはまだ伸びしろがあるのでしょうか? このあたりをどのように考えているか教えてください。
青野:興味深いご質問、ありがとうございます。実は、4月に日経新聞の評価が出た時、社内では「ええっ」という反応でした。
なぜなら、今私たちの中では組織力を維持する大変さを痛感しているからです。従業員が1,000人を超え、以前よりも組織力が落ちたのではないかと危機感を持ち、いろいろな改革を進めているところです。
そのため、経営者としてはそこまで良い状態ではないと評価しています。つまり、伸びしろはたくさんあり、組織力はもっと高められると思っています。維持するのもやはり大変だと、危機感を持って取り組んでいる感覚です。
質疑応答:20パーセント成長を規定しているものについて
質問者:クラウド関連の売上高にフォーカスすると、サブスクリプションが多いため四半期ごとに積み上がっていると思います。YoYの観点では、ここ2年から3年は年率20パーセントぐらいの成長になっています。この20パーセント成長を規定しているものは何なのでしょうか?
ローコード開発市場が20パーセント成長しているのか、それともパートナーや間接販売、御社の営業それぞれの成長の限界が20パーセントなのかなど、なぜ20パーセントかを教えてください。
青野:おっしゃるとおり、やはり一番影響を与えるのはマーケットの成長率だと思っています。ローコードやノーコードの分野が一気に認知されたわけでなく、徐々に広がってきているため、それに沿って私たちの事業が成長できていると思います。
少し異変が起きたのは、コロナ禍となった2020年ぐらいです。コロナ禍によりすぐにシステムが必要になり、2021年には特需が起きました。つまり、一部で大規模に使うというかたちです。ただし、こちらは持続的なものではないため、その後は普通のペースに戻ったという感覚です。
今後、この市場の成長がどれぐらい続くかについては、まだ成長余地があると思っています。そのため、10倍ぐらいまでには着実に伸びていくのではと期待しています。
質疑応答:法改正等の特需について
質問者:経理SaaS系の会社は、インボイス制度や電帳法改正の追い風もあったと思いますが、御社の場合、20パーセント成長から伸び率が跳ねないかどうかという確認の意味も含めておうかがいします。
導入事例の中には北九州市や、三島市教育委員会などの名前もありました。また、話はそれますが、河野デジタル大臣が新総裁になれば、デジタルガバメントの取り組みなどが加速する可能性もあると思います。
例えば、自治体システム標準化やデジタルガバメント、「Windows10」のEOS、ネクストGIGAスクールの話もあります。そのような法制度やイベントの変化のうち、御社に追い風になるような可能性があるものはありますか?
青野:基本的には、特需の影響は受けにくいと認識いただければと思います。「kintone」のところでご紹介したように、私たちが扱っている分野は、まさにチームワークのコア部分になります。
その周辺部分となる電帳法やインボイス、もしくは業界における法改正によって特需が起こるのは、どちらかと言うとパートナーのビジネス分野になります。
加えて、私たちはグローバルの共通部分を扱っています。したがって、間接的に若干影響を受けることはあるものの、日本の法改正等の影響をあまり受けずにコツコツやっていく分野となります。跳ねもしないが、そこまで落ちることもないとご理解いただければと思います。
質問者:過去を見ても、いろいろなイベントであまり跳ねなかったということですね。
青野:おっしゃるとおりです。跳ねるような分野ではないため、だいたい現状のままのビジネスということです。その辺りが、サイボウズの本当の成長率が横ばいである理由になると思います。
質疑応答:米国事業におけるリコーとのついて
質問者:米国の事業について、リコーにさらにコミットしてもらうための施策には、どのようなものがあるのでしょうか? 啓蒙する、いったんは待ちの姿勢になる、米国事業にも資本参加してもらうなど、いろいろあると思います。
あちらは投資形態を延長して変更せずに現地法人に据え置かれているため、できるかどうかは不明ですが、社長が考えている施策があれば、そのメリット・デメリットを含め教えてください。
青野:一番大きなネックになっているのは、リコーのグローバルネットワークがデジタルサービスにシフトすることだと思っています。
言葉を変えると、今までオフィスに置く複合機やコピー機を販売してこられた方々が、一朝一夕にデジタルサービスである「kintone」を使い、お客さまの業務を聞き、課題を設定してアプリを作れるわけではないということです。
リスキリングを含めて時間がかかると思っているため、加速させたいのは山々ですが、私たちも長期戦だと考えて取り組んでいます。ただし、リスキリングが進めば、リコーが今まで築いてきた世界中へのネットワークが使えますので、私たちも引き続き長い視点で支援し、一緒にビジネスを展開していきます。
質疑応答:「kintone」のNRRの下落傾向について
質問者:2月の説明会資料で「kintone」のNRRが開示されていますが、下落傾向にあると思います。その理由は何なのか、今後どうなるのか教えてください。
林:コロナ禍の特需として2020年から2022年頃に大規模導入いただいたところで、昨年減数/解約になった部分があり、その影響でダウントレンドに入った要素がありました。今後2022年から2023年のような大きな下落はしないと考えております。
質疑応答:6月の上方修正における人件費の減少について
司会者:「6月の上方修正において投資計画を精査する中で、人件費等で年内に消費しない費用が積み上がっています。こちらは、中期的に見て成長が遅れるなどの懸念はないのでしょうか?」というご質問です。
林:人件費の減少には理由が2つあります。1つ目は、今期計画を立てた時に考えていた採用計画を見直したことです。こちらは、このタイミングで一気に採らなくても、当社の事業には問題ないと考えた上での見直しです。そのため、少なくとも我々自身はそれで問題ないと判断しており、中期的に見て影響はないと思っています。
もう1つは「働きやすさと働きがいが両立できる会社」として市場から評価されたことが関係します。幸か不幸か、サイボウズ自身がけっこう社外から評価されたため、社員もお声がけいただくケースが多いようです。そのため、第1四半期から第2四半期の頭にかけて、思っていた以上に退職が増えました。
人が抜けた部分については、当然ながらこれから追加採用し、きちんと通期的に影響が出ないようにします。加えて、今残っているメンバーが成長して埋めてくれると思っていますので、そこまで危機的な影響はないと見ています。
そのような意味では、減った人件費の部分で事業成長に影響が出るようなマイナスの懸念はないと見ています。
質疑応答:リコーとの利益分配の仕組みについて
司会者:「リコーとの提携について、サイボウズとリコーの利益分配の仕組みを教えてください」というご質問です。
青野:OEMのためシンプルです。私たちから、彼らに対してプロダクトを提供していくかたちです。それを彼らのブランドとして販売していただくことで、基本的にOEMの商品を卸していることになります。
質疑応答:パートナー契約について
司会者:「パートナーがプラグインなどを販売した場合、サイボウズが売上の一部を受け取っているのでしょうか?」というご質問です。
青野:受け取っていません。例えば「iPhone」でアプリを配布すると、Appleは売上の30パーセントを受け取ります。コンシューマー向けにはこのような仕組みが作れますが、BtoBはもっと複雑なため、私たちが間に入ることは難しいです。そのため今のところは、パートナーに自由に開発・販売していただく仕組みにしています。
ただし今後については、マーケットプレイス的なものを作る可能性もなくはないと考えています。
質疑応答:社長が考える最大のリスクについて
司会者:「青野社長の考える、御社の最大のリスクについてご教示ください。競合他社の動向や人材確保など、一番危惧されているリスクは何ですか?」というご質問です。
青野:リスクは非常にたくさんあると感じていますが、最大1つということであれば、競合他社を挙げたいと思います。
IT業界は技術変化が激しく、戦略的にも多種多様です。また、非常に大きな資本が動くなど、私たちもコントロールしづらい部分が多いため、リスクとしては競合他社の動きが本当に大きいと思っています。
質疑応答:最適な広告宣伝費の水準について
司会者:「前期上期は広告宣伝費が少なかったため、2024年12月期上期は前年同期比で増え方が大きく見えます。最適な広告宣伝費の水準は、通期でどのくらいですか?」というご質問です。
青野:私たちとしては、今ぐらいの水準が適正ではないかと思っています。今期は上期が約24億円ですが、イベントの多い下期のほうがやや多いため、年間で50億円強くらいとなります。こちらが、現在私たちがイメージしている、適切な水準だと考えています。
ただし、この水準は状況によって変わります。先ほどの質問にもありましたが、認知度や理解度が上がることもありますし、エンタープライズ向けに対する認知を獲得する必要もあります。金額は変動しますが、現在はそれぐらいの水準ということでご理解ください。
質疑応答:国内の営業利益率目標について
司会者:「国内の営業利益率について、中期的にはどのくらいを目指せると見ていますか? 前上期の広告効率テストや今回の値上げなどを経て、見えてきた水準等があれば教えてください」というご質問です。
青野:営業利益率において「目指す」という感覚はあまり持っていません。その時々で、適切に営業利益が出ていれば良いという発想です。
2021年から2022年には「BET!」というスローガンのもと「今は利益率を下げても認知を獲得する時だ」と動いていましたが、その時には、その時の営業利益率が適切だと思っています。今は少し戻した方が良いと思ったため、戻しているかたちとなります。
目指しているというよりは、その都度適切に利益を出していく考え方です。こちらはサイボウズの歴史を見ていただくとご理解が深まると思いますが、創業から27年の歴史で赤字になったのは、1回だけなのです。
創業期は、創業者3人が給料を削って利益を出していました。そのようなDNAを持った会社ですので、営業利益を堅実に出していくことはカルチャーとして持っているとご理解いただければと思います。
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