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不心得部員の不始末で、120人が所属する日大アメフト部が「廃部」
日本大学・アメフト部の大麻事件で、林真理子理事長が退職を迫ったという沢田康広副学長は、田中英壽前理事長が権勢を極めていた18年に、宇都宮地方検察庁次席検事を退任して、日大法学部教授に就任している。転身の経緯は分からないが、有罪率が99.9%という日本の刑事裁判の第一線で、次席検事まで上り詰めた経歴は伊達ではないだろう。
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副学長がパワハラを受けたと理事長を提訴したのは、「作家風情が俺に詰腹を切れというのか」という思いが籠った意趣返しに見える。平たく言うと、検事としてコワモテで容疑者を取り調べた経歴と誇りが、隠蔽狙いのような報告の遅れを追求されて逆ギレしたようなものだ。「元検事のキャリアを舐めるなよ」と言いたかったのだろうか。
日大での年収が1920万円の副学長が、たかだか1000万円の損害賠償を求めて訴訟すること自体に、カネの問題ではないと言う思いが伺える。現役作家の理事長に忠誠心を持てなかったどころか、内心では小馬鹿にしていたのかも知れない。
日本では部活動の不祥事に対する反応は、極端な傾向がある。高校野球に顕著なのが連帯責任論だから、不祥事があるとすぐ出場停止になる。
どんな組織にも跳ね上がりや不心得者が存在する可能性は避けられない。例えば、レギュラーを掴み損ねた鬱憤晴らしの不祥事が発覚したら、部活動が否定されて廃部に追い込まれる状況は、どう考えても過剰反応だろう。
これが前例になれば、廃部を避けるために不祥事を隠蔽するバイアスが働きかねない。目標を目指して日々取り組んできた努力も、周囲の献身も、部員の中に不心得者が存在しただけで部活動が否定されるのは、正常と言えるだろうか。個人の不祥事は、当該部員を適正に処分することで十分ではないだろうか。
日大アメフト部には120人の部員がおり、大麻の使用が疑われる寮の入居者は27人だ。寮という環境を考えると、入寮者のうち一定数が、大麻を使用したり、使用する様子を目にしていた可能性は高い。今回の事態もきっかけは関係者(部員?)から受けた情報を、警察が日大に伝えたことがスタートだったようだから、一種の内部通報システム(内部告発)が起動した事例だ。
本来内部通報システムは、組織内に設置された当該窓口に通報するものだが、部活動の責任者が副学長だったことを関係者が配慮して、直接警察に通報したものだろう。逮捕された部員が裁判で、「大麻を発見したのが副学長でよかった。揉み消してくれると思った」と証言している言葉の裏には、部員がそう思い込む流れがあったと考えるのが自然だ。
結果的には、通報を受けた警察が日大の窓口に確認を求め、副学長が適切な対応を怠ったため、関係者の配慮は無駄になった。
大麻の使用という不祥事を内部から告発したのに、その結果が廃部だったと世間が学習すると、第三者の目という牽制機能を社会から奪うことにもなりかねない。見て見ぬ振りをする社会は腐る。それを助長するかのように煽り立てて「出場停止」や「廃部」に追い込むマスコミは、社会を騒がせて自分(全てのマスコミ)の存在感を高め、売り上げや視聴率アップに繋げようとする下心が見え見えで、胡散臭い限りだ。
日大は15日の理事会で、賛成11票、反対9票でアメフト部の廃部を正式に決定した。いったんは廃部して、現役部員も受け皿に再建を検討するという情報もあるから、廃部する意味が一層分からなくなった。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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