スマホ決済アプリと銀行間の相互送金が実現へ動き出す デジタル給与へつながるか?

2022年8月29日 07:41

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 現在当たり前に行われている給与の銀行振り込みは、労働基準法24条の「賃金は、通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」との規定の、例外として扱われている。

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 企業には労働者に給与を支払う際に守るべき5つの原則がある。(1)通貨で(2)直接(3)全額を(4)毎月1回以上(5)一定期日に支払うことだ。

 昭和43年に発生した「3億円事件」は、東芝の府中工場で支払われる給与を運んでいた現金輸送車が襲われた事件として有名だ。白バイの警察官に扮した犯人がとうとう特定できずに迷宮入りしたこともあって、戦後の日本で最大のミステリーとも言われている。

 この事件は「給料日の前日には銀行から企業に高額の現金が運ばれている」という事実を天下に知らしめることにもなり、俄かに犯罪の未然防止への関心が高まった。給与支払いの原則である、「通貨で直接」という規定に例外扱いが認めるキッカケになったとも言える。

 現在給与の支払いを巡る最大の話題は、デジタル払いを認めるかどうかである。厚生労働省は21年4月5日に開催した規制改革推進会議の作業部会で、「21年度の出来るだけ早い時期に給与のデジタル払いを実現する」と説明していた。ところが、労働者側が決済アプリ業者に対して抱く「大丈夫か?」という懸念が払拭できず、1年以上を経過した現在も実施時期を見通せない状況になっている。

 8月になって全国銀行協会(全銀協)が、銀行間の送金に使用されている「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」への加盟を、条件を付けてフィンテック企業に解禁する方向であることが分った。銀行と「なんとかペイ」の間で、相互に送金することが可能になる。今までは同じアプリ同士に限られていたことを考えれば、大きな変化であり前進だ。

 今後、全銀協は業務方法書を改正してフィンテック企業の参入に備え、フィンテック企業は全銀システムへの加盟条件となっている日銀への口座開設を進めることになる。口座開設に当たっては、一定の担保を提供すると共に、健全な財務状況を確保することや適切なリスク管理が求められる。

 万が一、不測の事態が発生しても、債務不履行が起こらない条件を整備することで信頼性の向上につなげる。この実績が下地になれば、いずれデジタル給与の取扱いが現実味を帯びることは間違いない。

 その際には、厚労省がフィンテック企業に求めることを想定した(1)債務の履行が困難になった場合、労働者への債務を速やかに保証する仕組みを作る(2)不正取引などの損失が発生した場合の補償を行う(3)ATMで月1回は手数料なし、かつ1円単位で引きおろしが出来る(4)業務と財務の状況を適時厚労大臣に報告できる体制を構築する(5)業務を適正で確実に履行する技術的能力が認められる、という5つの要件が満たされることが前提だ。

 5つの要件は、デジタル給与の導入に対する労働側の懸念に対しても有力な説得材料になるから、フィンテック企業の真摯な取り組みを期待したい。

 当面、送金手数料の扱いなど詳細は未定だが、利用者の利便性が大きく向上することは間違いない。問題があるとしたら、それでなくとも進行している庶民の「銀行離れ」がより一層進むことだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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