坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」と、ウクライナ支援がつながる、NFT

2022年4月1日 11:44

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 21年11月、坂本龍一氏が演奏した「戦場のメリークリスマス」のテーマ曲が、595の音に分割して販売されることが話題になった。トレンドに馴染みが深くて”うなずいた”人も多少いただろうが、意味することが理解できなかった人は少なくなかっただろう。

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 暗号資産のセキュリティを担保する手段として、ブロックチェーンという仕組みが活用されていることは周知のことだ。当初、仮想通貨として登場したビットコインとセットで紹介された技術であるため、うさん臭さを感じている向きがあるかも知れない。

 だがブロックチェーン自体は「分散台帳」を活用することで、高度の信頼性を必要とする金融取引や、重要なデータのやり取りなどを可能にする重要な技術として、大きな注目を集めその活用が方法が模索されて来た。

 「改ざんが不可能」だというブロックチェーンの特徴を最大限に生かすため、決済や証明、契約現場での利用や業務の効率化と自動化を向上させる取り組みが行われている。

 17年には大手クレジットカードブランドのMastercardが、ブロックチェーンを決済システムに導入することを決定した。決済処理に仲介者が不要になり、手数料などのコスト削減が見込まれる上、国際間の送金も迅速に実現できることが評価された。

 ブロックチェーン技術から生まれたNFTは、「Non-Fungible Token(ノン-ファンジャブル トークン)」の略で、和訳すると「非代替性トークン」となる。「替えが効かない、唯一無二のデジタルデータ」という意味だ。

 「戦場のメリークリスマス」の音が分割して販売されたということは、中咽頭癌で闘病中の坂本龍一氏が21年7月30日にBunkamura Studioで演奏した、渾身のレコーディング音源の右手のメロディーを、595個のデジタル音に分割してNFTとして販売したということだ。購入した人は、坂本龍一氏が特定できる日時の一瞬に奏でたデジタル音を、個人の所有物とすることが出来るということだから、こだわりのある人にとっては堪えられない企画だったろう。

 この技術に大きな期待を抱いているのが、長年「海賊版サイト」の横行に悩まされ続けて来た出版業界だ。名だたる海賊版サイトには数万点に及ぶ雑誌、小説や漫画が「タダ読み」できる状態でアップされていた。被害総額を特定することは出来ないが、一説には1兆円とも言われる膨大な金額が、出版業界を素通りして闇に消えていた。こんな状況を目の前にして、「何か有効な対策はないか」と頭を捻っていた出版業界を勇気づけたのがNFTだ。

 アニメ業界は21年7月に、楽座(RAKUZA MARKET PLACE)をスタートさせて、アニメの原画やセル画などのNFTを偽造不可能な形で取引できるようにした。同9月には、出版取次大手のトーハンと電子書籍流通大手のメディアドゥが、出版社と連携して「NFTデジタル特典付き出版物」を開発して発売することを発表した。

 3月31日には、ロシアの侵攻に遭っているウクライナが、戦争の記録を映像として残すため、オンラインNFTアート美術館「META HISTORY」を開設したことが報じられている。

 報道によると、ウクライナの第一副首相兼デジタル改革担当大臣のミハイロ・フェドロフ氏は、ロシアがウクライナを破壊している様子を映像データとして残し、ウクライナの在り方と自由を祝福する場所として、META HISTORYを設立したと言う。

 分散台帳としてのブロックチェーンを活用することで、戦争の記録を変えることなくありのままに残し、購入代金は支援金としてウクライナのために活用される。3月30日から販売が開始され、ビットコイン、イーサリアム、テザーなどの暗号資産で支払われた代金は、ウクライナへの支援金として速やかに届けられる。

 ウクライナの惨事に、テレビやインターネットの映像に接して悶々としている人達は、一方的な寄付も大歓迎という機能を利用することで、支援の気持ちを行動にすることが可能である。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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