「日本の食糧安全保障体制」はどうなっている?ウクライナ侵攻で帯びてきた「食糧危機の現実味」【実業之日本フォーラム】

2022年3月29日 16:05

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記事提供元:フィスコ


*16:05JST 「日本の食糧安全保障体制」はどうなっている?ウクライナ侵攻で帯びてきた「食糧危機の現実味」【実業之日本フォーラム】
● 「世界全体の3割を占める」ロシア・ウクライナの小麦輸出
ウクライナ国旗の上半分の青は青空を、下半分の黄色は小麦畑を表していると言われている。ロシアがウクライナに侵攻して1カ月が過ぎ、戦況は混とんとしている。

ロシアとウクライナは有数の小麦の輸出大国であり、両国の輸出量は世界全体の3割を占めている。ロシアとウクライナの紛争により、穀物市場では小麦などの価格が高騰し、今後食料自給率の低い日本への影響は避けられないだろう。農林水産省は、令和4年4月期の「輸入小麦政府売渡価格」を令和3年10月と比べて17.3%引き上げ、1トン当たり72,530円(税込み価格)に決定した。

今回のロシアのウクライナ侵攻に際し、日本の食料自給率や食料安全保障の現状等について見てみよう。

● 日本の食料自給率は「G7で最低水準」
日本で食料自給率の統計を取り始めたころの1965年では、カロリーベースの自給率が73%、生産額ベースが86%と、ある程度高い水準であった。その後、米の消費減少、畜産物、油脂類の消費増大等の影響により、2000年以降ではカロリーベースで40%以下(2021年は37%)、生産額ベースでも70%以下(2021年は68%)に低迷している。

カロリーベースで主要国の自給率を比較すると、カナダは266%、オーストラリアは200%、アメリカは132%、フランスは125%となっており、日本の自給率はG7では、最低の水準となっている。

さらに、日本は山岳地帯が多く平野が少ないという地形上の特性もあり、耕作面積は約440万ヘクタールと、アメリカの90分の1、フランスの7分の1、イギリスの4分の1にとどまっている。加えて、農業就労人口も2000年の400万人から2019年には168万にまで減少し、かつ、農業従事者の平均年齢は1990年以降約10歳高齢化し、現在では平均年齢約66歳となっている状況だ。

● 世界人口、2050年には86億人へ
農水省は、2050年の世界の人口増加や経済発展を見通した「食料需給上のリスク」を検討している。

2050年には世界の人口は86億人に達し、世界のGDPは2010年の3.5倍に当たる225.8兆ドルに達する見通しを立て、食料の需要量は2010年の1.7倍の58.17億トンとなり、約24億トン増加すると発表している。さらに、地球温暖化による気候変動の影響やバイオエタノールの生産拡大など世界の食料需給構造の変動を見極めて、食料の安定供給を目指すとしている。

一方、外務省は2020年8月、「日本と世界の食料安全保障」において、 (1)国内生産の増大、(2)安定的な輸入の確保、(3)備蓄の適切な活用を「食料安全保障」の3本柱として、食料の安定供給を図っていくとしている。

● 「食糧安全保障上位」は北欧諸国が占めている
英誌エコノミストは、2021年10月にその年の「世界の食料安全保障指数(Global Food Security Index)」を発表した。この調査は2012年から実施されており、2021年は、113カ国を対象に100を最も高い値として、食料の「所得に対する値頃感」、「入手しやすさ」、「品質・安全性」、「資源および強靭性」の4つの主要項目を59の指標に分けて評価している。

日本の評価は79.3点、順位は8位であった。日本の「所得に対する値頃感」は10番目、「入手しやすさ」は5番目と比較的上位にある一方、「品質・安全性」は28番目、「資源及び強靭性」は14番目となっている。総合評価では、世界の首位はアイルランドで、以下、オーストリア、イギリス、フィンランド、スウェーデンが続く。上位は北欧を中心とする欧州各国が占め、主要先進国が購買力の強さを発揮した形だ。

このような評価が得られたとはいえ、日本は食料の6割以上を海外からの輸入に頼っているというのが現実であり、今回のロシアのクリミア侵攻のような不測の事態が発生した際、農産物の生産停止、流通の停滞、価格の高騰などの外的要因に大きく影響を受ける体制に変わりはない。

● 急がれる「日本の食糧安全保障体制の構築」
2012年以降、日本の農林水産物・食品の輸出は僅かながらではあるが増加傾向にあり、2021年の輸出額は1兆2385億円となった。主な輸出先は、香港、アメリカ、中国、台湾など、近隣のアジア諸国が多くを占めている。農林水産物・食品の輸出増加は農業の発展と農業従事者の拡充に繋がるのではないだろうか。

今後、さらにスマート農業(ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業:農水省の定義)の導入により生産性の向上や農業の魅力化を目指し、農業就労人口の増加や若年化を図り、ひいては農業振興による食料自給率の向上に繋げる政策が求められるだろう。

食料安全保障については長い間そのリスクが指摘されているものの、実効性のある政策は打ち出されていないように思われる。外務省が掲げる食料安定供給策のうち、「安定的な輸入の確保」や「備蓄の適切な活用」も重要であるが、まず取り組むべきは「国内生産の増大」である。

ロシアによるウクライナ侵攻のような、食料の生産、供給、流通が阻害される事態においても、国民の生存のため、あらゆる状況における堅固で安定した食料安全保障体制の構築を期待したい。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

写真:TASS/アフロ

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