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ソフトバンクGが直面するロシアンリスクという、想定外の「まさか!!」
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ソフトバンクグループ(SBG)は投資会社を自称しているから、投資先の業況(実際には株価)が株価に反映されるのは自然なことだ。
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孫正義会長兼社長が予て不満としていたのは、SBGの時価総額が保有する投資先株式の純資産価値を大きく割り込んでいたことだ。孫氏はコングロマリット・ディスカウントの呪縛だと嘆いているが、投資家にとっては目先のイベントとそれに伴う値動きに翻弄されて、ついていくのがやっとの心境だろう。
例えば傘下のソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)が保有する未公開株の評価は、適切に行っているとアナウンスされるばかりで、投資家自身が確認することは出来ないから、腰が引けたおっかなびっくりのスタンスが身に付いている。おまけに孫氏は「5兆円の利益が出ても、1兆円の損失が出ても関係ない」と公言する、その迫力には圧倒されるばかりだ。
いくらアリババへの投資で「驚異的な目利き」が伝説になっているとは言っても、投資先「全て」がぐんぐん成長するという、お目出度くて甘い期待で投資をしている訳ではない。投資先の20~30%が、業界のリーダーに成長してくれれば御の字というのが本音のようだ。神ならぬ身で、よちよち歩きの企業に投資するから、投資会社としては当然のスタンスと言えるだろう。
SBGに投資している投資家も、そのことは良く理解しているつもりだが、個々の銘柄の動向が報じられる度にやや過敏とも言える反応をしてしまう傾向があるのは否めない。
米オフィスシェア大手のウィーワークの上場直前にSBG株が大幅な上昇を見せたり、一転して上場見送りになった際には急激な下落を演じというような価格変動は、イベントが明らかになる度に演じられて来た。
SBGの株式を多く保有する孫氏の個人資産の動きを見ると、振れ幅の大きさが良く分かる。新型コロナが株式市場を直撃した20年3月時点の孫氏の資産は84億ドル(今のレートで約9000億円)だった。SBGの利益が前代未聞の5兆円と伝えられた21年3月には、なんと4倍以上の380億ドル(同4兆1400億円)になった。それが、ロシアがウクライナに侵攻した影響を受けた直近には、半値以下の約137億ドル(約1兆6200億円)である。ざっくり言うと、3年間の孫氏の個人資産は毎年2~3兆円の幅で増減していることになる。
金額の単位が個人の運用レベルを遥かに越えているためイメージし難いが、1万分の1に縮小すると一昨年900万円だった貯金が昨年は4140万円になり、今年は1620万円になったと考えると多少は実感があるだろうか。これでもトンデモナイ幅で資産価値が変動していることになるから、庶民には落ち着かないことこの上ない。
孫氏が大きな関心を示している「LTV」(Loan to Value:SBGの保有資産に対する純負債割合)の数値は、低い方が健全だ。20年6月末のLTVは8.8%だったので無難な数値だったが、昨年末には21.6%と悪化した。僅か1年で倍以上の数値へと悪化した。それが直近では29%になり更に悪化している。
確かにロシアによるウクライナ侵攻という想定外の事態が発生して、世界中の経済指数が乱高下しているから、原因は明確だが解決は至難だ。孫氏が16日のオンラインによる就職説明会で「プーチンが間違っている」と吐露した心境が察せられる。
孫氏の発想は自由だから、一般的には所有する不動産の評価額に占める借入金の割合を指すLTVを、自社の投資分析に援用する。元々は不動産投資信託(REIT)の安全性を現す概念で、REITが理想的とするLTV80%以下という目途と、孫氏がイメージする数値に整合性はない。
逆に、企業の格付けで知られるS&PはLTVが40%ラインを超過すると、現在でもBB+(投機的)というSBGの格付けを更に引き下げると懸念される。格付けが下がると金融機関からの借入金利が上昇するから、SBGはますます苦しい。
3月の第2週にSVFが、韓国EC大手クーパンの株式(10億4350万ドル相当)を前回比30%オフという割引価格で売却していることと、SBGのフトコロ事情とを直接結び付けることは出来ないが、無関係ではない筈だ。
チャイナリスクに続いて、ロシアンリスクに見舞われているSBGには、暫く我慢の時が続く。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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