関連記事
冥王星の大気圧が変動 恒星食の観測から要因を推測 中東での研究
窒素ガスが凍って氷河を形成していると考えられているスプートニク平原 (c) NASA[写真拡大]
掩蔽(えんぺい)とは、ウィキペディアによれば「ある天体(A)が観測者と他の天体(B)の間を通過する際に、その天体(B)を隠す現象である」、とされている。2020年6月6日、冥王星が恒星の前を通過する現象が、イランで観測された。掩蔽の観測に取り組む天文学者たちのグループ(国際掩蔽タイミング協会中東支部)は、このイランでの観測を元にして、冥王星の大気圧を探る研究を行ない、21日、その研究成果論文を「Astronomy&Astrophysics」誌上で公開した。
【こちらも】太陽系内の衛星に眠る氷の正体を明らかに 岡山大の研究
冥王星と言えば、かつては太陽系で9番目の惑星とされていた。だが21世紀に入り、惑星の称号をはく奪される憂き目にあい、現在では準惑星と呼ばれる直径約2,400kmの小さな天体である。また冥王星の第1衛星カロンは、冥王星の直系の約半分という大きさがあり、なぜ冥王星のような小さな天体がカロンのような大きな衛星を持つのか、謎に包まれている。
しかも冥王星は非常に遠く、地球からの距離は約30~50天文単位(1天文単位は地球から太陽までの距離=約1億5千万km)もあるため、肉眼で見ることはできない。それでも、はるかかなたにある点にしか見えない恒星よりは、見かけの直径が大きいため、太陽以外の恒星の前を冥王星が通過すれば、必ず冥王星が恒星を覆い隠してしまうことになる。
冥王星の大気圧は、1988年から2020年にかけて、同じ方法により測定が行なわれてきた。2020年6月の観測による測定では、基準半径1215kmでの冥王星の大気圧は、6.72±0.48μbarであることが判明している。この値は、1988年の2.33±0.24μbarと比較すると3倍近くにまで上昇している。またピーク値は、2015年の6.92±0.07μbarであり、2016年から2019年にかけては、このピーク値から約21%の低下が見られたという。
研究グループでは、最近の冥王星の大気圧増加傾向について、スプートニク平原にある氷河の窒素昇華率が、最大日射量の増加により上昇したため起きているのではないかと、推定している。
いずれにしても、冥王星に大気が存在していたことだけでも驚きだが、冥王星の表面で起きている現象について、地上からの比較的単純な観測でここまで推定ができてしまう天文学者たちの知恵の深淵さには、驚かされるばかりである。(記事:cedar3・記事一覧を見る)
スポンサードリンク