米軍アフガン撤退の影響と、バフェットも指摘するESG投資との不都合なアンバランス 前編

2021年8月17日 15:58

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 アメリカの株式市場は、8月10日(火)のインフラ投資法案上院可決を背景に安定した動きを見せているが、その一方で、駐留米軍のアフガニスタン完全撤退を理想的な形で終えることができず、大きな火種を残した状態となっている。この問題が市場に与える影響を考えていきたい。

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 そもそも米軍がアフガニスタンに駐留している理由は何であろうか。それは、ちょうど20年前、2001年9月11日に引き起こされたアメリカ同時多発テロ事件にさかのぼる。当時のジョージ・W・ブッシュ政権は、テロの犯人を、それまでに数々の反米テロを引き起こしてきたイスラム過激派テロリスト集団のアルカイダであると推定した。

 当時のアフガニスタンでは、アフガニスタン人同士の内紛が起こっていたが、そのなかでも大半の地域で権力をもっていたのがタリバンであった。アルカイダは、そんなタリバンの保護下に置かれていたため、アメリカ・イギリス軍(有志連合)は「タリバンとアルカイダの消滅」を目的として、「対テロ」という大義名分のもと、アフガニスタンに侵攻することになる。

 大規模な空爆と圧倒的な軍事力で、反タリバン勢力であった北部同盟を支えながら、早々にタリバンを首都カブールから追い出すことに成功した有志連合ではあったが、タリバン撲滅やアルカイダ指導者の拘束までには至らずに、2003年のイラク戦争を迎えてしまった。

 イラク戦争へ軍力が傾けられるなかでタリバンは息を吹き返し、さらには民主化を目指したはずのアフガニスタン政権にも腐敗や汚職が蔓延したため、アメリカが目論む完全民主化は、アメリカが費やす国力とは裏腹に頓挫しつつあった。

 そんな状況に区切りをつけるきっかけとなったのが、オバマ政権時に行われたアルカイダ指導者であるウサーマ・ビン・ラーディンの殺害である。タリバンの消滅を棚に上げ、この成果をもって「対テロ」という大義名分を達成したとみなし、2016年末までにアフガニスタン駐留米軍を撤退すると決定したが、アフガニスタン治安部隊の脆弱さに2017年以降も延長を決めたという経緯がある。

 しかしながら、アフガニスタンの治安を守るために、20年以上もの長き間に渡ってアメリカ政府が支払った代償は、米兵2,300人以上の死者と約8,250億ドル(約90兆円)の国費とあまりにも大きい。アメリカ同時多発テロ事件の報復といえどもいささか度が過ぎるだろう。それでは、イラク戦争もしかり、アメリカが中東にこだわった理由は何であろうか。

 その理由の1つが「原油の利権」である。今でこそ脱炭素化が求められているが、未だに経済活動には必要不可欠な原油の供給網となるパイプラインの建設をめぐって、ロシアをはじめとする各国の間で、競争が展開されてきたという背景があるのだ。

 実は、クリントン政権時には、イランへの牽制や米石油会社ユノカルのパイプライン敷設計画のため、タリバンに接近したという時期があるという。しかしながら、タリバンの抑圧的な女性蔑視に対する国内の激しい反発のために断念せざるを得なかったのである。

 結果として、同時多発テロ事件に見舞われ、タリバンがアルカイダを保護下に置いていると判明したことから、反タリバンの北部同盟を支援する側となり、タリバン打倒へと政策転換したというわけだ(続く)。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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