「日ノ丸」半導体部材企業の実力派、レーザーテックの軌跡と凄さ

2021年1月20日 08:33

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 昨年11月27日の企業・産業欄に、『世界の半導体市場を支える、「日ノ丸」半導体部材企業』と題する一文を投稿した。かつて世界の半導体市場では、日立・東芝・NECといった日本企業がその名を馳せていた。がいま、そんな状況は望むすべもない。しかし、こと「半導体部材関連」では「日ノ丸企業が幅を利かしている」という内容だった。代表的な部材企業を1・2社紹介した。

【こちらも】世界の半導体市場を支える、「日ノ丸」半導体部材企業

 今年の正月だった。旧知の証券マンとWebで「明けましておめでとう」の挨拶を交わした折、「大事な1社をお忘れでしたね」と言われた。「破竹の勢いのニッチでリッチな企業を」と指摘され、ピンときた。レーザーテック。

 半導体の製造時に使われる「マスク(シリコンウェハの回路の原板)」「マスクブランクス(マスクを描くための原板)」の検査装置で「世界シェアを独占している」と言って決して過言でない企業だ。レーザーテックを初めて知ったのは、かれこれ10年近く前になる。

 私と同じ丑年で、ご存命なら今年84歳になる経済評論家:故三原敦雄氏からその名を聞いた。三原氏は日本電産の創業者でCEOの永守重信氏が意気投合した、筋金入りの「時価総額経営」論者。「千葉君、まだ緒についたばかりだがレーザーテックという会社をウォツチしておきなよ。化けるぞ」と。

 ちなみに2000年代終盤には100億円弱だった同社の時価総額は、昨夏1兆円の大台に乗った。10年間で時価総額は100倍を超える水準になった。「時価総額経営」には諸論ある。だが大きなメリットの1つは永守氏が実践し見せつけているように「有利なM&Aの展開」であり、結果として「効率的な事業の拡大」である。

 レーザーテックは1960年に、松下通信工業出身の内山康氏により設立された。入り口は医療用X線テレビカメラシステムの開発・製造。大手企業へのOEMが主だった。が、OEM事業では収益を積み重ねる上で限界があった。

 技術力を活かし、76年に世界初のLSI用マスク検査装置を開発し半導体分野に足を踏み入れていった。液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどFPD(フラットパネルディスプレイ)関連の大型フォトマスク欠陥検査装置、カラーフィルム修正装置などを相次いで開発し世に送り出していった。

 だが2009年に現在の社長:岡林理氏が着任した時点では、売上高92億円に対し6億円の赤字という状態だった。

 岡林氏は「当時は半導体関連装置より、FPD用カラーフィルム修正装置が主力だった。差別化ができず薄利多売の状況だった。リーマンショックによる需要減が拍車をかけた。ファブライト(製造の大方を外部委託)なので、そもそも大量生産のメリットが得られない構造にあった」と振り返り、「経営のリソースを半導体製造関連装置に向ける決断をした。この分野では他の企業ではソリューションに対応できない、要求レベルが高い企業が顧客。経営軸を徹底的にシフトすることで、大企業にはニッチ過ぎ中小企業では技術力でついてこられない分野でリッチになる道を選択した」としている。

 功を奏した。15%程度だった世界シェアが90%(前期末)に広がった。

 伴い収益は伸長の階段を昇り、M&Aも含め効率経営が実現し「時価総額」は膨らんでいった。

 ちなみに20年6月期の「48.0%増収、92.9%経常増益、82.4%最終増益」に続き今期も「33.9%の増収(570億円)、12.5%の経常増益(170億円)、15.5%の最終増益(125億円)」計画。7-9月期は前年同期比「137.5%増収、220.0%経常増益、218.7%最終増益」の想定以上の出足。

 本校作成中の時価は1万1690円と、昨年来高値(12月18日:1万2050円)水準ゾーンにある。18年初値で買い昨年の大納会の終値まで保有していると、投下資金は1対2の株式分割もあり8倍強に増殖している。

 世界の半導体市場を支える、「日ノ丸」部材企業の存在を改めて痛感した。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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