国産初カーゴシステム、川崎重工・C-1ジェット輸送機 (5) フラップの計算違い?

2020年11月11日 08:44

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 戦略輸送機の運用では、ほぼ海外のある程度整備された基地に離着陸することが考えられている。だが、戦術輸送機では、あまり整備がされていない短い滑走路での離着陸を想定しなければならない。そのため、「STOL(短距離離着陸性能)」が要求される。STOL性能では、結局のところ最低速度を下げることが主となってくる。

【前回は】国産初カーゴシステム、川崎重工・C-1ジェット輸送機 (4) 「ユーモラス」ではなく合理的な姿

 最低飛行速度を落とすには、大きな翼、しかも縦横比の大きなグライダーのような翼が必要だ。日本の国産旅客機YS-11の翼はSTOL性能を狙ったものだが、その代償として最大速度が落ちてしまう。「抵抗が大きい」こと、それはすなわち「ゆっくり飛べる」ことであり、互いに矛盾する性能の1つとなってくる。

 これは、ゼロ戦の「格闘性能」の良さが、一方では最高速度を落とすということと同様で、これがアメリカ軍との戦法の違いを作り出していた。「少数精鋭」で戦うしかなかった日本軍では、数を頼みにした集団先方が取りにくく格闘戦でしのぐしかなかった。

 終戦間近、「空戦フラップ」という機構を開発してある程度の最高速度を確保し、しかも格闘戦にも強い機体を作ることに日本は成功していた。それが「フラップの水銀を使った自動動作」だった。しかも、ゼロ戦の「単純さげフラップ」ではなく、「ファウラーフラップ」の採用だった。

 このフラップの工夫により、巡行時には翼の面積を絞り、離着陸時には翼の面積が広がった効果を作り出すことが出来た。YS-11設計の時点ではまだ戦前の技術レベルであったため、「前縁スラット」を取り付けることをしなかった。「前縁は触るべからず」とした戦前の知識からだった。しかし、C-1設計時点では、前縁スラットも装備し「ファウラーフラップも多段式」として、より揚力を増やす工夫がなされている。

 旅客機も当然にこの仕組みを装備することとなり、ボーイング・B727などで小さな翼面積で巡航速度を上げながら離着陸速度を下げ、さらに降下を速めるための沈下率を大きくして、着陸速度は低速とする技術が確立されてきた。B727が羽田沖で墜落した時、原因として挙がられたのが「沈下率が大きすぎて操縦に無理が生じてきている」とした考え方だった。

 こうしたフラップの技術開発により、STOL性能はより向上した。「新明和・US-2救難飛行艇」が、テレビキャスター辛坊治郎氏を救い出した時のことは記憶に新しい。新明和・US-2の、ジェット噴流をフラップの裏側に噴射することによる離着水距離の短さは、世界標準から見て驚異的だ。STOL性能は「日本のお家芸」と言えるようになっている。

■C-1フラップの計算違いで強度不足?

 筆者が日本航空機製造に在籍していた当時、C-1輸送機を開発した技術者に聞いた話がある。彼はこのC-1のファウラーフラップを設計して初飛行に立ち会い、試作1号機がタキシングして飛び立つために滑走路の端で待機した時、何気なく「計算尺」で一部の強度計算をしたところ、「1桁間違えて強度不足」があることを見つけてしまったのだそうだ。だがすでに滑走を始めた機体を見て、上司に何も言えずに固まってしまって着陸するのを待ったのだそうだ。

 それでも、飛行機が即座に破壊されなかったのは、安全性を見込んで強度を数倍に出来るところはしているためなのだ。物造りの基本だ。

 そういえば、試験飛行はフラップを固定して行うことになったとニュースで聴いた記憶がある。半世紀も前のことで記憶が定かではないが、C-1が日本のカーゴシステムの夜明けを告げる機体であったことは確かだ。地味な機体だが、関係者の努力の積み上げに敬意を表して、技術継承に貴重な経験を積むことが出来た「傑作機」の1つとしたい。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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