偶然発見された「砂糖イネ」 名大らが遺伝子改変で開発

2020年11月2日 08:39

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シロイヌナズナに倣って遺伝子改変したイネ。胚珠がショ糖を含む。(写真:名古屋大学の発表資料より)

シロイヌナズナに倣って遺伝子改変したイネ。胚珠がショ糖を含む。(写真:名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]

 甘味料の中でも、現代人にとって最も馴染みのある「砂糖」。その大半がサトウキビや甜菜から作られるが、遺伝子改変により高純度の糖を含むイネが作製されたと、名古屋大学は10月28日に発表した。

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■受精しなくても種子のように胚珠が肥大化

 種子によって繁殖する種子植物は、被子植物と裸子植物に大別される。雌しべの中にある胚珠(はいしゅ)が有性生殖することで種子が形成されるが、子房(しぼう)に胚珠が包まれる植物は被子植物と呼ばれる。被子植物では、雄しべの花粉が雌しべの先端部にある柱頭に受粉し、花粉管を伸ばすことで胚珠へと到達することで有性生殖が行われる。

 福建農林大学と名古屋大学の研究グループは2016年、雑草の一種である双子葉植物「シロイヌナズナ」における花粉管内の液体(花粉管内容物)の機能を研究した。有性生殖の際には花粉管の液体も胚珠に届けられるが、この液体は受精しなくても胚珠を肥大指せる機能をもつことが発見された。

■胚珠に残った液体から思いがけない発見

 研究グループは今回、花粉管の液体が胚珠を肥大化させる現象が、双子葉植物や単子葉植物以外でも確認されるかどうかの研究を実施。精細胞が受精しないシロイヌナズナの原因遺伝子に相当する遺伝子をイネのゲノムから特定し、遺伝子改変によって花粉管の液体だけを胚珠に届けるイネを作製した。その結果、胚珠が肥大化する現象が、遺伝子改変イネでも確認された。

 思いがけない発見もあった。肥大化した胚珠にはデンプンではない透明の液体が満たされていた。研究グループはこの液体を解析した結果、15~25%の濃度でショ糖が含まれていることが判明。この発見は、砂糖の原材料であるサトウキビや甜菜同様に高濃度で糖の生産が可能であることを示唆するという。

■残された水田の再活用にも期待

 コストの面から、遺伝子改変した「砂糖イネ」からショ糖を生成することは現実的ではない。だが、サトウキビが育つ熱帯・亜熱帯地方や甜菜が育つ寒冷地以外の環境でも糖を生産できる可能性が示唆される。

 実際、イネ科以外にもトウモロコシやコムギ、ソルガムにもシロイヌナズナやイネ同様の遺伝子の存在が確認されている。そのため、世界各地の事情にあわせた糖生産や、日本でも多く残された作付けされない水田の再活用が本研究成果により可能だと、研究グループは期待を寄せている。

 研究の詳細は、英科学誌Communications Biologyに27日付で掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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