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三菱スペースジェット納入問題! (2) 型式証明を取っても、量産能力はあるのか?
三菱スペースジェット飛行試験機・10号機(画像: 三菱航空機の発表資料より)[写真拡大]
6度目の納入延期により機体開発が遅れているスペースジェットにも、いずれ型式証明を取得する時は訪れる筈だ。その時に、三菱重工業を苦しめるであろう別の問題がクローズアップされる。
【こちらも】三菱スペースジェット納入問題! (1) 機体完成の見通しが立てられない
スペースジェットの受注ピークは約450機だった。再三納入時期を繰り延べしている間に、航空会社自体の身売りや米国内の「スコープ・クローズ」(座席数などの制限)をクリアできないとしてキャンセルが続き、20年3月末時点での総受注は287機となった。この中で確定受注として売上が見込めるのが163機であり、オプションと購入権の合計が124機である。
三菱重工業の量産能力を、三菱航空機の水谷久和会長は「三菱重工業では月産3機以上の完成機を造ったことがない」と過去に表現している。この言葉通りに考えると、三菱重工業の生産能力は年間36機ということになるから、287機全てを納入するまでにかかる期間は概ね8年間だ。
量産が軌道に乗れば製造設備の拡充や人員の養成も進むことが期待できるが、多少期間を短縮したとしても劇的に短縮することは有り得ない。
航空機は競合の中でコストダウンを続けながら、少しでも割安な価格を提示することが宿命づけられている。納入時点で多少の赤字を出したとしても、その後のメンテナンスで少しずつ稼ぎを積み上げて、当該機体の就航期間トータルでモトを取る位の度量がなければやっていけない世界のようだ。
スペースジェットが三菱リージョナルジェット(MRJ)として開発を始めた頃の最大のセールスポイントは、折からの高騰する原油価格の負担を軽減する「低燃費」だった。現時点では原油価格の低下によって「低燃費」の持つ訴求力は大幅に低下している。
更に受注を開始してから既に10年近い年月を経過しているため、設計当時の資材費が全般的に上昇しているのは否めない。多少無理して他社との差別化を図った結果、販売価格と量産開始時点の仕入れ価格との間のミスマッチが拡大することは想定される。
このことは機体製造期間の短縮を目指して、機体製造を外注することへの障害にもなる。三菱重工業が提示する価格で機体製造を受注する業者を探すことは難しいと見るべきだ。受注業者が納得するような価格で外注していては、三菱重工業の赤字が拡大するばかりというジレンマに陥る。
これを暗示させるのが、東レとの間で発生した炭素繊維部品に係わるトラブルだ。東レは航空機の姿勢を安定する効果が高い尾翼向けの部品を、炭素繊維の複合材を加工して供給する予定だったが、19年11月採算が確保できないとして三菱重工業との契約を解除した。契約解消に至るまでには相当激しい遣り取りがあったように伝えられている。納入価格交渉がシビア過ぎて、儲けが期待できない仕事のために、これ以上設備と職員を待たせられないということだ。
今後、三菱重工業は東レから炭素繊維の材料供給を受けて自社加工するとしているが、こうした状況が広がっていけば、量産スケジュールに響いていくことは明白だ。初号機納入を果たしたとしても、顧客全てが大人しく待っているかどうかは別の話ということになる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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