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在宅勤務や学級閉鎖など感染予防策の単独実施は効果が低いか 筑波大の研究
研究で想定した感染予防策と、そのシミュレーション結果(筑波大学の発表より)[写真拡大]
筑波大学は8日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染プロセスに関して、社会システム分析に用いるコンピューターモデルに組み込んでシミュレーションを行ったところ、在宅勤務や学級閉鎖といった感染予防策を単独、あるいは部分的に組み合わせて講じるだけでは大きな効果が見られないとの研究成果を明らかにした。
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ただ、感染予防策を組み合わせた複合予防策を取った場合、有意な効果が見られたといい、密集・密閉・密接の「3密」回避など、徹底的な外出や対人接触の自粛を求める政府方針の正当性を示している。
研究を行ったのは、ビジネスサイエンス系の倉橋節也教授。研究では、住民が通勤や通学、商業施設利用を行う架空の2つの町を想定。町は、2人の親と2人の子供がいる4人家族と、高齢者だけの2人家族で構成され、計1120人が住む。
住民は、それぞれで通学したり、自分の町で働いたりしており、通勤する親は両町に医療サービスを提供する病院に勤務。高齢者は通勤はないが、子供を除く大人は、商業施設など人混みの多い場所に訪れると定義した。
このモデルに対し、対策なし▽在宅勤務や学級閉鎖などの基本予防策▽基本予防策の複合実施▽学校や職場、自宅などの接触率を減らす接触低減策と基本予防策の複合実施ーの4カテゴリーに分けた、27種類の感染予防策を策定。
1人の感染者が2~2.5人に感染させるCOVID-19の感染リスクにさらされている状況下で、それぞれの感染予防策を講じ、重い肺炎などの重症者がどれだけ発生するかをシミュレーション(数値実験)で試算した。
その結果、時差出勤や学校閉鎖、在宅勤務などの単独実施群は、重症者が100人超となり、有効な予防策とならなかった。電車や職場・学校などそれぞれの接触低減策だけでも、重症者数は80~130人台で効果は薄かった。
これに対して、基本予防策を複合で実施すれば、重症者は少ない場合で数人~40人台となった。さらに、基本予防策の複合実施に、店舗などへの外出頻度低減策を組み合わせた場合には、ほぼ0人近い数値が出た。
倉橋教授は、「予防策に『抜け』が一つでもあると、感染リスクは高いままだ」と説明。予防策の実施に、外出頻度低減策を組み合わせた場合に効果が高かったことから、「店舗はクラスター(感染者の集団)が発生するリスクが高い場所だ」としている。また、患者の自宅待機のみでは家庭内感染が発生する恐れから、「感染者に対しては、自宅待機よりホテルへの隔離が有効」と示唆した。
現在、政府や地方自治体は様々な感染拡大防止策に取り組んでいる。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、政府は4月7日に緊急事態宣言を発令し、同16日に対象地域を全国に広げ、さらに当初5月6日までとしていた期間は同31日まで延長。各都道府県は、休業や外出自粛要請を行っている。
COVID-19の国内感染者は、1月28日に初めて確認され、NHKの集計によると、5月11日現在1万5847人に上る。1日当たりの新規陽性者数は4月11日に719人のピークを迎えて以降、減少傾向にあり、5月7日には3月30日以来となる100人未満を記録した。政府の専門家会議は、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」で、外出自粛などは「一定の成果を見せた」としている。(記事:小村海・記事一覧を見る)
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