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見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (4) 治療薬一番乗りは「レムデシビル」?
新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めが掛からない状況が続く中、安倍首相は4月27日に、新型コロナウイルス治療薬の候補と目されている「レムデシビル」の、薬事承認が近いとの認識を示した。
【前回は】見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (3) 抗体で”予防”と”治療”が可能になるか?
レムデシビルは米製薬会社ギリアド・サイエンシズが、エボラ出血熱の治療薬候補として開発したが、肝心のエボラ出血熱に対する有効性が低いとされたため、世界で承認している国はない。
エボラ出血熱への有効性には疑問符が付いたレムデシビルだったが、新型コロナウイルスへの治療効果は認められて、米国で医師主導の臨床試験が進行中だ。国立国際医療研究センターも当該試験に参加する形態で、国内での臨床試験を実施している。米国立アレルギー・感染症研究所の主導で行われている米国と日本の試験データは5月に集約される。
それとは別に、ギリアド・サイエンシズ自体も日本及び世界各国で、重症患者と中等症患者を対象にした臨床第3相試験を実施中で、臨床試験の結果は重症患者のものが4月中、中等症患者のものが5月に相次いで集約される。(臨床第3相試験とは、臨床薬理試験(第1相試験)、探索的試験(第2相試験)に続く臨床試験の最終試験に相当する。有効性、安全性を検証して、使用方法の最終確認を行う)
ギリアド・サイエンシズは有効性が確認され次第、米食品医薬品局(FDA)に承認申請を行い、今夏前後には米国の医療現場で使用することが、現在想定される今後の流れだ。
今まで、欧米で承認された新薬が日本の医療現場に登場するまでには「ドラック・ラグ」と言われるタイムロスが発生していたが、今回は先に海外で承認された新薬の、日本における審査時間を短縮する「特例承認」が適用される見込みだ(※政府は、アメリカで重症患者への使用が認められたことを受け、5月2日の閣議で特例承認への政令改正を決定した)。
特例承認は甚大な健康被害が蔓延するなど、緊急に対応することが求められる場合に、日本と同等の承認制度を運用している国で販売かつ医療現場で使用されている新薬を、通常より簡素な手続きで承認して使用をさせることを言う。過去には、2010年に新型インフルエンザ関連で2つのワクチンが承認された事例がある。今回は、米国での承認を見極めることで、実用化への期間短縮が可能となることが期待される。
懸念されるのは、新型コロナウイルスに感染した重症患者の2~4割に、急性腎不全の発症が認められると米紙が伝えていることだ。中国の武漢でも同様の事例がみられ、入院患者の15%に急性腎不全の症状が見られたと報告されている。
詳しい理由は不明だが、定期的な透析が欠かせない慢性の透析患者が、病院に向かう経路のどこかで新型コロナウイルスに感染することや、感染したウイルスの増殖によって腎臓疾患のなかった人に腎臓障害が発生したり、感染症で発症した肺炎のため肺から酸素を取り込む量が減少することで、酸素を大量に消費する腎臓の機能低下を招く可能性などが指摘されている。
腎臓疾患を抱えていた人が新型コロナウイルスに感染するケースと、感染が引き金になって腎臓疾患を引き起こすケースだが、先行事例がある以上無関心ではいられない。
日本では慢性腎不全の患者に対する人工透析治療の診療余力はあるものの、急性腎不全の場合に一般的な集中治療室(ICU)での専用の人工透析装置による血液浄化に余裕はない。一説では大きな病院でも急性腎不全の患者が2~3人を超えると対応できないというから、米国のように急性腎不全患者が増加すると対応不能となる。急性腎不全分野での医療崩壊が発生する懸念がある。
薬事申請が行われると医薬品医療総合機構(PMDA)が審査を行い、厚労大臣が承認する。製薬会社はその承認をもとに保険適用の希望書を厚労大臣に提出する。厚労大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会が、医薬品の公定価格としての薬価を査定して保険適用を判断する流れだ。特例承認が薬害発生を引き起こしたと言われないような冷静さも必要だろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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