原油先物価格がマイナスに まるで、「ゴミ」に処理費が掛かるかのように!

2020年4月21日 16:49

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 20日、週明けの米ニューヨーク商業取引所で、米国産WTI原油の5月物(先物)が1バレル当たり、マイナス37.63ドルという値を付けて取引を終了した。米国産WTI原油は原油価格の指標と見られている重みがあり、マイナスの価格が付いた意味合いは大きい。

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 理屈上は原油1バレルを5月の先物で買うと、期日には原油のほかに現金4,052円(1ドル=107.67円換算で)が付いて来る計算だ。立場が変わって原油の5月物(先物)を持っていると、期日には原油に現金を付けなければならないことになる。平たく言うと、ごみ処理という経費が掛かるというようなことだ。1バレル40~50ドルで仕入れした原油が37ドルのマイナスになるわけだから、1バレル当たり80ドル以上の損失になる。こんなことは史上初の異常事態である。

 原油の需要は昨年来の米中貿易摩擦で減退していたが、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちとなり、さらに需要が縮小するものと見られていた。

 需要が減退する時期に商品の供給を通常と変わらぬペースで続けると、価格の低下を招くことは経済のイロハだ。石油輸出国機構(OPEC)にとっての誤算は米国シェール企業の隆盛だ。

 岩盤層から掘削と化学手法で石油を取り出すシェール企業が、18年には日量1500万バレルの石油を生み出し、米国は世界一の産油国に変身した。OPECを仕切るサウジアラビアが同1200万バレルの第2位で、OPECプラス(ロシアなどのOPEC非加盟国で構成するグループ)で参加するロシアが同1100万バレルの第3位なのだから、OPECの存在感の低下は著しく、OPECの盟主だったサウジアラビアの威光は輝きを失った。

 3月に協調減産が頓挫して秩序のない価格競争に迷い込んだ産油国だったが、OPECとロシアなどが日量970万バレルの減産合意にようやくこぎ着けたのは13日だった。OPECプラスの合意を受けて米国、カナダ、ブラジル、ノルウェーが合計で日量360万バレルの減産に向かい始めた。

 実態は、OPECプラスの協議がメキシコの反対で瓦解しかけたのを、米国が肩代わりすることにして納めたとも言える。メキシコの減産分を肩代わりする具体策は明確でないし、米国やカナダの供給調整すら実際は曖昧なままである。

 シナリオ通りに進んでいれば5月1日に過去に例がない協調減産が実現するところだったが、素面に戻ったマーケットが、「何も解決していない」ことに気付くのは当然だった。

 既に世界の貯蔵タンクは溢れんばかりの状態で、今のままでは今年の中頃には満タンになる。減産が実現する前に、原油のストックが物理的に困難だという認識が広まり、5月先物の価格がマイナスになるという前代未聞の事態に至った。

 市場関係者が、「原油にごみ処理費を払って引き取ってもらうような状態はおかしい」と理性を取り戻して早晩修正されると思われるが、今回浮き彫りになった供給過剰と今後拡大する需要の減少という需給のアンバランスは続くので、ダッチロール(航空機が横揺れしながら蛇行する飛行中の現象)を繰り返す可能性は充分だ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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