性的マイノリティ者に賃貸住宅を仲介する業者

2020年3月17日 07:12

印刷

 昨年10月14日の財経新聞・経済欄に「LGBT(性的マイノリティ)に対する優しさの広がり」と題する一文を投稿した。広がりは「良い世の中」実現に歓迎すべき流れ、という内容だった。

【こちらも】LGBT(性的マイノリティ)に対する優しさの広がり

 LGBTとはいまさら説明するまでもないだろうが、「Lesbian(レスビアン)」「Gay(ゲイ)」「Bisexual(両性愛者)」「Transgender(性別越境者)」の頭文字をとった造語である。

 その折にも記したが、私の古い友人にLGBT当事者がいる。「彼女(彼)と同居するに当たって、住まい探しに苦労した」ことをしばしば聞かされた。以来、彼(彼女)のように「住まい探し」に苦労せずに済むような流れが太くなっていないかどうかが常に気になっていた。

 直近、こんな事実を知った。東京の世田谷区に、IRISという賃貸住宅の仲介業を展開する会社がある。ホームページを覗くと事業概要の最初に「LGBTs(LGBTと同義語)のライフプランニング・サポート」とある。

 2014年に現社長の須藤啓光氏が設立した。4人の全社員は、LGBT当事者。勿論、LGBT以外の顧客に対しても賃貸仲介を手掛けている。だがLGBT者からの問い合わせが多くなり、設立からの4年間で当該者100人以上の賃貸住宅の仲介を手掛けたという。

 その背景にはHP上のLGBT社員スタッフによるブログの影響、また来店しても理解してくれる社員との遣り取りが行えるという効果が大きい。

 但し、この不動産屋が扱う物件はLGBT者向け専用ではない。ポータルサイトで閲覧できる物件の中から来店者が気に入った案件について、スタッフが交渉する。が、入居希望者がLGBTと告げた時点で大方から「ノー」という答えが返ってくるという。費やす時間と労力は計り知れない。それでも前記したように、着実に実績は積みあがってきている。

 須藤社長は「入居を拒む管理担当者やオーナーはこれまで身近にLGBT当事者がいなかったことが大きい」と推測、自らもLGBT当事者と打ち明け「LGBTというだけで偏見を持ってもらいたくない。一人の人として向き合って欲しい」という思いを機会あるごとに発信しているという。

 入居先候補が見つかっても、第2・第3の壁が待ち構えている。例えば、連帯保証人。親御さんに・・・と言っても「親にはカミングアウト(明らかに)していないので」といった具合だ。

 IRISの事例を聞かせてくれたLGBT当事者から、「最近では我々のような当事者専用のシェアハウスも出てきています」と聞いた。

 変わりゆく社会の歩みを、またも実感した。(記事:千葉明・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事