「車はスマートフォン」は誤り VWはソフト企業? 製造とソフト開発の違いは量産技術

2020年2月21日 08:46

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 フォルクスワーゲン(VW)のグループ会社「Car.Software」は、VWのソフトウェア開発部門を独立させた企業だ。自動車向けのOS「vw.os」や、クラウド「Volkswagen Automotive Cloud」などを展開する。

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 また、コネクテッドカー、デバイスプラットフォーム、インテリジェントボディ、デジタルコックピット、自動運転、エネルギー、モバイルサービスなど、VWのソフト開発全般も担っている。

 つまり、VWのソフト開発を一本化して、制御ソフトの効率化を進め、さらに世界標準となって広く世界の企業に販売することも考えているのであろう。自動車ソフトのOSなどプラットフォーマーを目指すことで、これからソフトが自動車産業の新しい覇権を争う場となるわけで、それに日本車が後れをとらないことを祈るばかりだ。

 これまで自動車の機械制御は、それぞれのECUで行われていたが、そのアーキテクチャーを出来るだけ一本化し、開発コストや性能を上げていく狙いがVWにはある。その理由は、自動車製造にかかわるソフト開発の比重が大幅に増えている昨今の情勢から、それぞれのセグメントで開発するよりも、統一したアーキテクチャーを持つ方が有利であり、必要性が高まっているからだ。

 それを個別にサプライヤー任せとすることなく、統一ソフトをメーカー内製することで、VWは世界の主導権を握ろうと狙っているのだろう。

 このため、これからの車は「タイヤの付いたスマートフォン」と表現する向きがあるが、これは「ひどい間違い」だ。テスラのイーロン・マスク氏もこれで間違いを犯しており、これから展開されるソフト開発で最も注意しなければならない点だ。

 しかし、「スマートフォン」のように繋がるサービス機能を持つこと、また操作感覚として「スマートフォン」のようであることを否定するものではない。「自動車製造」として見た場合の構成での問題だ。

 「スマートフォン」のハードは、ほとんど集積回路など小さな家電と変わらない。製造工程は自動車に比較すれば、かなり簡素だ。ソフトの「製造」となると、「コピー」作業に過ぎない。

 しかし自動車メカニズムは、設計が終わっても、製造することが必要だ。しかも、品質を安定して量産する技術は、ソフト開発とは別箇に必要になる。

 ソフト開発では、システム設計をしてコーディングし、デバッグを完了して完成品とできれば、製造工程はコピー技術だけとなる。一方、自動車のメカニズム製造においては、各部品製造を含めたサプライチェーンの構築や、それらの維持管理の必要性もあり、製造・整備システム構築維持も難題だ。

 さらに、機械メカニズムと制御ソフトが必ずしも整合性が取れていないことも多い。制御ソフト上では簡単な動きでも、実際のメカニズムにおいて可動部分には「遊び」がどうしても必要である。

 例えば、燃料噴射システムでポンプを起動し、噴射タイミングなどを1/1000秒単位で制御するのには、ソフトの狙いに対してメカニズムを合わせて動かす技術が必要だ。そしてこのメカニズムは、「精度を保って量産」する必要があり、別途「製造技術、生産技術、品質管理技術」などが高度なレベルでなければならない。

 この辺の必要性はEVになっても変わらないが、EVになると量的に減ることが「容易になると勘違いする」原因である。

 現在、自動車のコスト構成でソフトの割合は急速に高まっているが、自動車という完成品は「メカニズムの塊」であることを理解しておくことだ。見ての通り「自動車はハード」であり、そこに「ソフト」が載っても製造すること自体は容易ではないことに変わりはない。

 さらには、ソフトの信頼性を担保する技術が必要となる。つまり、これまでの「品質管理」にソフトの品質保証が加わるのだ。かなりの負担と危険が伴うこととなるのだ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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