原子状酸素の照射で抗菌加工 抗菌剤不要で安全・長寿命に JAXAとクレハ

2020年2月20日 12:23

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)とクレハは14日、原子状酸素を高速で衝突させることにより、プラスチックの表面を加工し、抗菌性を持たせることができることを発見したと発表した。両者は今後さらに研究を進め、実用化をめざしたい考えだ。

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■原子状酸素とは?

 国際宇宙ステーション(ISS)や地球観測衛星が周回している高度数百km付近の宇宙では、酸素分子(O2)は強烈な太陽の紫外線によって分解され、バラバラの酸素原子(O)の状態になっている。これが原子状酸素だ。

 この原子状酸素は、活性酸素の一種で、高い化学的な反応性を持っている。ところがこの高度を飛ぶ人工衛星等の宇宙機は、このような原子状酸素のなかを秒速7~8kmという超高速で飛んでいる。そのためその表面、特にプラスチック素材は、原子状酸素によって酸化され、ボロボロに劣化してしまうことがしられている。

 JAXAでは、このような宇宙における過酷な条件にも耐えられる素材を開発するために、長年、研究を積み重ねてきた。そのような研究の一環として、2017年からはクレハと共同で、原子状酸素によって表面が劣化した素材の抗菌性について研究を進めてきた。

 今回の研究成果はこれまでのこのような研究が実を結んだものだ。

■原子状酸素の照射によりプラスチック素材の表面に抗菌性

 研究チームは、レーザー加速器を使い、原子状酸素を加速し、プラスチック素材の表面に衝突させた。その結果、プラスチック素材の表面に1µm(1000分の1mm)程度の微細な凹凸構造が形成され、その微細な凹凸構造によって大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する抗菌性が生じることが確認された。

 なお抗菌性に関する評価試験はJIS Z 2801「抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠しておこなわれた。なお図1にある「LLDPE」「PET」等はいずれも代表的なプラスチック素材であり、特にPETはペットボトルの素材としてもしられている。

 これまでの抗菌グッズは、表面に抗菌剤をまぶしたり、素材に抗菌剤を練り込んだりして抗菌性を持たせてきた。しかし上述の方法を使えば、抗菌剤を使う必要がなく、安心・安全で、しかも、耐性菌出現の危険性がなく、長寿命の抗菌グッズが作れる可能性がある。

 O157や新型インフルエンザ、新型コロナウイルス等の新しい感染症の脅威が迫る現在、その実用化に大いに期待したいところだ。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

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