歯周病のアルツハイマーへの関わりを解明 治療法開発にも期待 九大らの研究

2019年11月18日 08:44

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ヒト歯周病の歯茎におけるマクロファージにおいてアミロイド βが発現している様子。赤色部分はマクロファージ、青色部分は細胞核を示す。黄色はマクロファージ細胞にアミロイド β(緑色部分)が局在することを示している。(画像: 九州大学の発表資料より)

ヒト歯周病の歯茎におけるマクロファージにおいてアミロイド βが発現している様子。赤色部分はマクロファージ、青色部分は細胞核を示す。黄色はマクロファージ細胞にアミロイド β(緑色部分)が局在することを示している。(画像: 九州大学の発表資料より)[写真拡大]

 アルツハイマー型認知症の脳にはアミロイドβというペプチドが蓄積しており、認知症の症状を引き起こす原因のひとつであると考えられている。今回の研究では、歯周病組織のマクロファージや歯周病の原因菌を感染させたマウスのマクロファージが、アミロイドβを産生していることを明かにし、これまで脳で作られて蓄積すると考えらえれていたアミロイドβが、歯周病組織で作られていることを世界で初めて示した。

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 今後、歯周病菌による炎症やアミロイドβの産生を制御し、アルツハイマー型認知症の進行を抑える治療法に繋がっていくことが期待される。また口腔ケアがアルツハイマー型認知症の予防に重要であることが示唆された。

 研究には、九州大学大学院歯学研究院の武 洲准教授と倪 軍軍(ニイ ジュンジュン)助教の研究グループ、中国吉林大学口腔医学院の周延民(シュウ エンミン)教授、同大学の聂 然(ニー ラン)大学院生らの研究グループが参加している。

 高齢化に伴い認知症患者は年々増加してきている。認知症のうち約7割をしめるのがアルツハイマー型認知症である。アルツハイマー型認知症患者の脳には、アミロイドβというペプチドが蓄積し老人斑ができている。老人斑や脳内の炎症が原因で神経が損傷して認知機能が低下していくと考えられている。

 これまでに欧米での臨床研究で、歯周病と認知機能低下が関連していることが報告されていた。さらに2年前、今回の研究グループが、歯周病菌の細胞膜の成分を与えたマウスが、アミロイドβの蓄積により記憶力の低下など認知症の症状を引き起こすことを報告していた。今回は新たに歯周病患者の歯周組織と、歯周病菌を与えた中年マウスの肝臓について検討した。

 その結果、歯周病患者の歯周組織のマクロファージにアミロイドβが局在していた。マクロファージとは体内で細菌や異物を取り除く働きをする免疫細胞である。また中年マウスに3週間歯周病菌を与えたところ、肝臓のマクロファージはアミロイドβを作るよう誘導されていた。このとき肝臓のアミロイドβを分解する酵素は変化していなかったが、アミロイドβ産生酵素(カテプシンB)は著しく増加していた。以上より、歯周病菌に感染した肝臓でアミロイドβが作られている可能性が示された。

 さらに、培養マクロファージに歯周病菌を感染させたところ、アミロイドβの産生が増加した一方、アミロイドβを分解する能力は大幅に低下していた。ここにカテプシンBの働きを阻害する薬剤を与えたところ、マクロファージによるアミロイドβの産生は低下し、分解する能力は改善した。

 これらの結果より、歯周病菌に感染したマクロファージはカテプシンBの働きでアミロイドβを産生していると考えられた。つまり、歯周病菌に感染すると、カテプシンBの働きによりアミロイドβが増加すると同時に分解も抑えるため顕著に増加すると考えられる。

 現在アルツハイマー型認知症の治療は、脳内の伝達を助けて症状をやわらげるもののみである。一度変性した脳は元にはもどらず、変性していくことを止める方法もない。今後カテプシンBの働きを制御することで、脳の変性の進行を抑えていく治療法を開発していくことが期待される。

 研究の成果は12日、Journal of Alzheimer’s Diseaseに掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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