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統合失調症の新しい治療薬候補「ベタイン」 理研の研究
死後脳の解析とベタインの作用機序。(画像:日本医療研究開発機構発表資料より)[写真拡大]
1952年のクロルプロマジン以来、統合失調症の治療薬は数多く開発されてきた。今回、理化学研究所(理研)の研究グループによって提示されたのは、植物や海産物、そして人体にも含まれる天然代謝産物「ベタイン」(トリメチルグリシン)である。
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現在利用されている統合失調症の治療薬のほとんどは、神経電鉄物質の受容体のブロッカーである。しかし、治療薬が効果を現さない「治療抵抗性」の患者は3割もおり、また副作用も強いという問題がある。ゆえに、これまでとはまったく作用機序の異なる、新しい統合失調症治療薬の登場は常に待望されている。
ベタインというのは、グリシンという最も単純なアミノ酸のアミノ基に、3つのメチル基が結合した存在である(ゆえにトリメチルグリシンともいう)。生体内で合成される、さほど珍しくはない物質であり、代謝物のメチル化反応に関連する様々な働きを持つ。医療分野では、ホモシスチン尿症という遺伝性疾患の治療薬として既に利用されている実績がある。
2014年の統合失調症患者に関する研究で、統合失調症の初発(つまり、治療薬の影響をほとんど受けていない)患者において、健常者に比べてベタインの濃度が低下しているという事実が発見された。そのことから、研究グループはベタインの補充が統合失調症の治療手段になるのではないかと考え、研究に着手した。
まずベタインの合成酵素であるコリンデヒドロゲナーゼを、ノックアウトしたマウスを作製したところ、そのマウスは統合失調症様の解剖所見を示した。さらに、そのマウスに飲み水でベタインを投与したところ、ほとんどゼロだった脳内のベタイン濃度が回復した。
複数種類の「統合失調症様」のマウスを作成し、ベタインを投与したところ、治療効果を示すものもあれば示さないものもあった。このことから、ヒトの統合失調症患者においても、ベタインは治療効果を示す場合と示さない場合が生じるのではないかと考えられる。
これまでの研究と、そしてベタインが医薬品として既に承認されており安全性の問題がないと考えられることから、研究グループは今後、ベタインの統合失調症治療薬としての臨床試験を行うべきではないかとしている。
研究の詳細は、EBioMedicineに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)
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