宇宙初期に誕生した銀河 自らの力で拡大していた すばる望遠鏡

2019年5月23日 05:59

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すばる望遠鏡が明らかにした約110億年前の星が形成中の銀河 (c) 国立天文台

すばる望遠鏡が明らかにした約110億年前の星が形成中の銀河 (c) 国立天文台[写真拡大]

 すばる望遠鏡を運営する国立天文台は20日、東北大学の研究者らとともに遠方宇宙に存在する銀河が成長する様子を直接観測することに成功したと発表した。すばる望遠鏡を活用した新しい観測手法によって、宇宙初期に誕生した銀河の進化が明らかになったかたちだ。

【こちらも】宇宙初期に誕生した銀河は今よりもずっと明るかった NASAの研究

■赤外線による観測を続けるすばる望遠鏡

 すばる望遠鏡は、ハワイ島マウナケア山頂にある大型光学赤外線望遠鏡だ。宇宙に関する情報の多くは天体から届く電磁波を分析することで取得可能だが、現代では可視光線以外のどの電磁波も天体観測にとっては不可欠である。

 すばる望遠鏡が観測可能な赤外線は、星が形成される領域のような低温の天体に適している。また遠方銀河のように天体からの電磁波もまた、重力による赤方偏移の効果によって赤外線として観測されるという。

 地上に設置された望遠鏡にとって観測の障害となるのが、地球大気のゆらぎだ。大気圏外の衛星軌道を周回するハッブル宇宙望遠鏡と比較し、地球上の望遠鏡は解像度の面では劣る。

 すばる望遠鏡には、地球大気のゆらぎによる影響を取り除くことができる「補償光学装置(AO)」と呼ばれる新しい観測装置が搭載されている。AOを活用すれば、星の像がシャープになり、天体の繊細な構造を見分けられるという。

■自立的に成長する原始銀河団

 研究グループは、約110億年前の宇宙の原始銀河団において星が形成されている銀河について、高解像度の観測を実施した。観測された11個の銀河を2つのグループに分類し、各グループについて平均的な星と、星が形成される領域の分布を比較。

 その結果、星の質量の大きいグループでは、星が形成される領域が星の分布に対してより広がっていることが確認された。この観測結果は、より外側に新しい星を作ることで、銀河内の星が内側から外側へと広がり、サイズが大きくなっていることを証明しているという。

 銀河が成長する原因として、銀河同士の相互作用等、周辺環境からの影響が考えられるが、銀河が自立的に成長していることも判明したことになる。今回観測を実施した銀河には周辺環境からの影響を受けない孤立した銀河が含まれており、同様の傾向が確認されたためだ。

■大規模な銀河の観測を可能にするULTIMATE-Subaru

 すばる望遠鏡では、「ULTIMATE-Subaru計画」と呼ばれる広視野で高解像度を実現する次世代補償光学システムの開発が行われている。ULTIMATE-Subaruが実現すれば、より大規模に銀河内部の星形成領域の観測が可能になり、さまざまな環境下でさらに多くの銀河が成長する様子が、明らかになることが期待される。

 研究の詳細は天文学誌Publications of the Astronomical Society of Japanに掲載予定で、プレプリントサーバーArXivにて現在公開中だ。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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