NGT48事件で見えてきたテレビ業界の闇

2019年3月25日 21:14

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 本誌でも伝えた、NGT48山口真帆さん襲撃事件に関する、運営会社AKSによる第三者委員会の調査結果の記者会見。グダグダな上に、会見中に山口さん自身のTweet爆弾が落とされたことで、前代未聞の茶番劇となり、週末から今日にかけて、これまで沈黙、あるいは見て見ぬふりをしていたテレビ局のワイドショーも次々と取り上げ始め、もはや炎上どころか誘爆のような騒ぎになってしまっている。

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 会見の問題点は、各メディアが触れているが、記者としては、運営が山口さんの決意の固さを見誤っていたことがすべてだと思っている。襲撃事件が起こったのが1月、その際、山口さんはNGT48の名前を出すことなく、新潟市内の女性が襲われたという記事にするよう警察関係に要請している。

 また劇場公演において、抵抗はあったものの、他のメンバーに代読させるわけにはいかないとして、松村取締役の作った文章を読み上げていることなどから、なんとか彼女を丸め込めるとタカをくくっていた空気を感じたのである。

 早川新支配人が、記者からの「この状態(山口さんが納得していない)でも、通常にもどってやっていくのか?」という問いに、硬い表情で「話し合いを密にして、全員で前を向いて……」と答えていたことからも、その傲慢さが出ていたと思う。

 それが山口さんが叩きつけたTweetからもうかがえ、例えば今回、「(第三者委員会の調査で)繋がっていた者は必ず処分する」と松村氏が約束していたこと。しかし実際には「不問」になっているのだが、そこには笑えない言葉遊びがある。

 山口さんが『犯人と繋がっているもの』と解釈した「繋がり」とは、報告書と松村氏の中では『襲撃事件と直接つながっている者』という意味にすりかわっており、事前に報告書を見せて山口さんに説明する機会があったというが、この部分のすり合わせは行っていないことがはっきりしたのである。

 第三者委員会の弁護士も秋元康氏も、吉成社長すらもいない状態で、しかも山口さんへの説明も充分にしないまま、見切り発車で記者会見を行い、歴史に残る無様な醜態をさらしたAKS。だがこの事態は、時代の流れを見誤ったテレビマンの起こすべくして起こした失態であるように思う。

 記者会見をした松村匠氏も、そもそもこの事件の原因となった今村前支配人もテレビ局出身のスタッフである。ひと昔前のテレビ全盛期を経験しているテレビマンは、テレビというメディアにこの上ない価値を感じているようで、それはある世代のテレビマンにとっては持病のようなものだ。

 バブル期ほどではないものの、例えば取材を申し込んできたり、資料を集めてきたり、場合のよっては出演交渉をするときなど、テレビ局の傲慢な態度に不快感を感じる人は多いし、中にはそのやりとりをネットにアップし、非常識な態度を糾弾する人も少なくはない。

 言葉は悪いが「殿様商売」が通用したのが過去のテレビ業界でもあるのだ。

 しかしながら、今や時代はテレビに当時ほどの価値を感じていない人も多く、テレビマンという人たちも若い人は一般常識や礼儀をわきまえている人も増えているのだが、松村氏も今村氏も古き良き(?)時代のテレビマンのマインドのままAKSに流れ、テレビのかわりにAKBという肩書を身に付けているのだから、感覚のずれは相当あったのだろうと思わざるを得ないのだ。

 そんな彼らが、よりにもよってネット時代の象徴でもあるツイッターによって急所を抉られるというのも皮肉な話ではあるが、さらにいうなら、元々テレビの殿様商売にストップをかけたのが、かつてのAKBであったということも思い出しておきたい。

 おニャン子クラブという、テレビ番組ありきのアイドルグループで成功し、そして失敗した秋元康氏は、AKBを「劇場」というテレビに頼らない場所で立ち上げた。そこには、年々規制が厳しくなるテレビへの不満があったとも言われているが、それ以上に「タレントを使ってやる」という上から目線のテレビ局の態度への反発心もあったと思われる。

 こちら(AKB側)から、売り込みにいかなくても、劇場に足を運び、目をつけたタレントにオファーをもらうというシステムにすることで、対等な関係性を維持しようと考えたのである。

 その分、ネットや衛星放送など、テレビ以外のメディアで人気を獲得してきたのがAKBの最大の特徴でもあった。

 その結果、いわゆる枕営業だとか、現場でのセクハラ・パワハラといった状況にも歯止めがかけられることも、AKBが人気になる一因であったと記者は考えている。

 ただ、そんな理想的なグループでもあったAKBは、AKBそのものが巨大アイドルグループになり、AKSも250人以上(SKEがいたころ)のメンバーをマネージメントする経験もノウハウもない状態で、よりにもよってテレビ業界出身者を幹部に迎えなければならなくなってしまったというのは、なんとも皮肉な話である。

 テレビ業界との過度な癒着を嫌ったAKBはテレビ業界出身者によって最大の危機を迎えている。(記事:潜水亭沈没・記事一覧を見る

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