マルハニチロが介護食に進出した契機と実力度

2019年1月8日 19:23

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 マルハニチロが介護食事業に足を踏み入れたのは、2005年。骨を抜いた魚の切り身(骨なし魚)を販売していた病院の委託給食会社からの要請が契機だった。給食会社は「柔らかいものしか食べられない人向けに、加熱調理した骨なし魚をミキサーにかけペースト状にした後に再成型」し、提供していた。手間がかかる。かつ骨なし魚をミキサーにかける際には水を入れなくてはならないから量が増える。が、喫食者の食べられる量は限られる。結果、摂取できる栄養価が低下する。

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 「メーカー側で工程を担い、十分な栄養価を摂取できるようにしてもらえないか」という打診だった。人口動態統計から高齢化社会が進むことを認識し「対応できるような事業展開」を目指していた同社は、要請に応じた。具体的には「やさしい素材」で始まった。病院や介護施設向けの魚ムース・肉ムース・野菜ムース・野菜ゼリーなど約16のアイテム素材を世に送り出した。

 徐々に浸透していった。認知が浸透したのは10年の「メディケア食品」シリーズの展開開始であり、在宅向け介護食(冷凍。現在は常温も)への進出だった。現在では詳細は「マルハニチロの介護食品」で検索して頂くとして、病院・介護施設向け105品/在宅向け20品の計125品を取り扱っている。ちなみに前3月期は前年度比109%、今期計画は110%と着実な増収傾向を示している。

 介護食の企画・開発・営業支援はメディケア営業部が中心的役割を担うが担当者は商品開発に関し、「統計資料や病院・施設を訪問してのマーケティングを軸に、サンプルを試作し顧客へのヒヤリングを経て工場での試作・落とし込み・生産確認という段取りで行っている」とした。売れている証しは市場調査会社:富士経済の資料にも明らか。17年段階で施設向けやわらか食の市場シェアは20・8%(トップ)、在宅やわらか食では2・2%の実績を残している。

 周知の通り介護食の市場もいまや激戦区。有効な差別化戦略(商品)が雌雄を決する。マルハニチロも積極姿勢で臨んでいる。例えば常食とほぼ同等のタンパク質量が摂取できる魚・肉のムース「やさしい素材 たんぱく21」。過熱しても溶けなく舌でつぶせる柔らかさの「やさしい素材 とけないゼリー野菜」。歯茎で噛みつぶせるが、見た目は魚の切り身そのものという「New素材deソフト」等々。

 そして今後とも「商品」「販売」の両面から、拡充の方向を打ち出している。前者で言えば新しい技術の確立を進め「在宅向け商品の拡大」「病院・施設の人手不足に対応しうる商品の積極開発」、後者では「新しい売り場や販売チャネルの拡充・整備」といった具合だ。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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