温暖化でも降水量は想定より増えないか、東大らの研究

2018年10月2日 16:33

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 東京大学大気海洋研究所の渡部雅浩教授らによる合同チームが、地球温暖化時の気温と降水量の変化について論文を発表した。研究では、温暖化による降水量の増加は、これまでの想定よりも少なくなる可能性が示された。

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 研究では、地球温暖化時の気温変化の指標として用いられる平衡気候感度と、降水量変化の指標である水循環感度には、それぞれ摂氏1.5〜4.5度と、1度あたり2〜3%という幅があるものの、相互の関係が不明瞭であることに注目を置いた。

 その結果、平衡気候感度(気温変化指標)が大きいと、水循環感度(降水量変化指標)は小さくなるという逆比例の結果が明らかになった。また、衛星観測データでCMIP5(*1)のシュミレーションを制約した結果、水循環感度は温暖化シミュレーションによる直接推定値よりも実際は3割程度小さいことが分かった。これは、温暖化によって、想定しているよりも地球全体の降水量は増えないということである。

 温暖化を定量する上で、平衡気候感度と水循環感度は最も基本的な量となる。今回の研究ではそれを踏まえた上で、それらの間に、物理的な関連性があることを示した点を重要視したい。不確実性はまだ残されているものの、温暖化に対する雲の反応が2つの感度をつなぐメカニズムに基づくと、一方の不確実性を減らすことができれば、もう一方の不確実性も減らすことができるということだ。

 研究結果は大きな話題を呼ぶ新発見ではないが、地球温暖化を解明する最も基礎的な部分を裏付けるための重要な成果を出したといえるだろう。衛星観測データは次々と新しいものが作られているため、次の観測データ「IPCC AR6」が公開される2021年までには、更に信頼性の高い感度の推定と不確実性の科学的な理解が進むと見られている。

 論文は、「Nature Climate Change」に「Low clouds link equilibrium climate sensitivity to hydrological sensitivity」のタイトルで発表された。

 (*1)CMIP5:世界気候研究計画(World Climate Research Programme, WCRP)の元で行われている、全気候モデルの比較プログラムで、衛星観測データ「IPCC AR5」で引用された気候シュミレーションを統括したもののこと。(記事:中川リナ・記事一覧を見る

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