エネルギー産業は「流通業から情報産業」へ【スマホでサンマが焼ける日】

2018年8月6日 10:54

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記事提供元:biblion

 【第15回】電気・エネルギー業界は今、50年に1度の大転換期を迎えています。電力自由化をきっかけに各家庭へのスマートメーター導入が開始され、電力産業、電力関連ビジネスは一気にデジタル化の道を歩み始めました。本連載では、RAUL株式会社代表取締役の江田健二氏が、IoTとも密接な関係を持つ電力とエネルギーの未来を、ワイヤレス給電、EV(電気自動車)、ドローン、ビッグデータ、蓄電池、エネルギーハーベスティング、VPPといった最新テクノロジーの話題とからめながら解説します。

エネルギー産業は「流通業から情報産業」へ【スマホでサンマが焼ける日】

 本連載は、書籍『スマホでサンマが焼ける日』(2017年1月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。

電力業界は「IoTの練習場」?

 IoTという言葉は、「これなんて読むんですか? ロト?」などと言っている人もいるくらい、IoTに対する理解、浸透は進んでいません。
 また、言葉の意味やおおよその概念は知っていても、具体的なイメージが持てている人は少ないのではないでしょうか。もののインターネットと言われて余計分からなくなってしまうかもしれません。おそらくインターネットが出始めの頃、これからはユビキタス(インターネットでいつでもどこでも繋がることができる世界)の時代だ、と言われて、多くの人が「インターネット? ユビキタス? 何のことだろう?」と不思議に思ったのと同じような感覚でしょうか。

 先にも説明しましたが、IoTはすべてのモノがインターネットとつながることによって、そこから様々な新しいサービスやシステムが生まれ、社会がより快適で便利になるのではと期待されている技術です。
 私が本書で改めて強く述べておきたいことは、「IoTとこれからの電力・エネルギー産業」には非常に密接な関係があり、これからの電力・エネルギービジネスは、IoT抜きには語れない、ということです。

 これは少し産業分野の話になりますが、以前、元グーグル米国本社副社長でエネルギー流通事業会社エナリスの村上憲郎会長とお話ししたとき、村上さんは「電力業界、電力ビジネスは“最初のIoTの練習場”。VPP(仮想発電所)は明らかにIoTの突破口であり、IoTの歴史において、おそらく最初の大きな事例になるはず」とおっしゃっていました。   

村上憲郎氏

村上憲郎氏Docent Japan設立やNorthern Telecom Japan社長兼最高経営責任者、Google米国本社副社長兼Google Japan代表取締役社長など、さまざまな企業で活躍した経歴を持つ株式会社エナリス代表取締役の村上憲郎氏です。(2017年3月24日追記・同日村上氏はエナリス代表取締役を退任されています)私は、なるほど「IoTの練習場」とは面白い言い方をされるな、と思いましたが、確かにスマートメーターを中心に電力ビジネスがデジタル化に向かう中、IoTの練習場という言葉はこれからの電力業界を言い表すのにぴったりな表現ではないでしょうか。

 また村上さんはこうもおっしゃっています。
 「インターネットでものを制御するということの先駆けは、この電力システム改革の中で始まるといっても過言ではないでしょう。これからの世界経済の覇権を握る上で鍵になるのは間違いなくIoTで、2020年代に必ず乗り込んでくるアップル、アマゾン、グーグル、テスラ(テスラ・モーターズ)などとの戦いは第4次産業革命の戦いになります。この時に日本の中心を担うのが電力業界です」(『3時間でわかる これからの電力業界』/グーテンブックより)IoTの視点から見ても、電力産業には今後大きな期待が寄せられているというわけです。

【前編】村上憲郎氏に聞く「IoTが切り拓く電力ビジネスの未来と『エネルギー情報業』という新分野ビジネスの可能性」 - biblion ビブリオン|知的好奇心をくすぐる読み物サイト

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電気は「運ぶ産業」から「情報産業」へ

 ある予測によると、今から15年後か20年後には、インターネットと繋がっているモノの数が現在の約3000倍になるそうです。この3000倍という数字が果たしてどれくらいすごいのか、なかなかイメージがしにくいと思いますが、今、みなさんの身の回りでインターネットとつながっているものを挙げてくださいと聞いたら、スマートフォン、パソコン、タブレット、ゲーム機などだいたい3~5個くらいでしょう。それが3000倍になるということは、今、あなたが持っているもの、家にあるものほぼすべて、たとえば服や靴、カバン、メガネ、筆記用具、財布、本、家電や家具、トイレ、お風呂などがすべてインターネットとつながるイメージでしょうか。

 IoTで多くの所持品がインターネット(クラウドコンピューティング)につながって、所持品に取り付けられたセンサーから様々なデータが取得されます。と同時に、すべてのものが電気を使用することになるので、スマートメーターなどの機器を介してすべてのものの電気利用データも取得でき、電気利用状況が「見える化」されます。
 ちなみに、ここで重要になってくるのが「フォグコンピューティング」と呼ばれる、今まで以上に大量のデータを処理できる新しいコンピュータ技術です。これは、クラウド(雲)とデバイスの間での情報の行き来をさらに高度化するためのコンピュータ技術で、雲よりも一段デバイスに近いために「フォグ(霧)」と呼ばれているのですが、今後のIoTに欠かせない技術として注目していくべきでしょう。

 こうして、私たちの身の回りにあるモノがすべてインターネットと繋がり、モノの利用データ、人の生活・行動履歴データ、健康状態データなどありとあらゆるデータが集積されていけば、当然ビッグデータとして様々な分野に利用・活用されることになるはずです。そこから新たなエネルギー情報産業が生まれます。つまり、電気、エネルギー産業はこれまでの単なる電気を運ぶという流通業から「情報産業」に変わるのです。また、前述のエナリスのように、すでに電力をIoTビジネスの一つとして捉え取り組んでいる企業だけでなく、今後様々な企業がIoT関連産業に参入してくるでしょう。

 IoTって何? 何ができるの? という方は、このスマートメーターを鍵とする「電力データ」活用を一つの事例として考えれば理解しやすいはずです。スマートメーターはもうすぐあなたの家にもやってきます。その日から、あなたのIoTライフがスタートするのです。

書籍著者:江田 健二さん

書籍著者:江田 健二さん「環境・エネルギーに関する情報を客観的にわかりやすく広くつたえること」「デジタルテクノロジーと環境・エネルギーを融合させた新たなビジネスを創造すること」を目的に執筆/講演活動などを実施。富山県砺波市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社のCRMプロジェクト、大手化学メーカーのSCMプロジェクト等に参画。その後起業、環境・エネルギービジネスの推進や企業のCSR活動を支援している。RAUL株式会社 代表取締役、一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人エコマート運営委員。 元のページを表示 ≫

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