1300万人、11世代の巨大な系図が語る社会の変化 コロンビア大学の研究

2018年3月5日 17:52

印刷

●巨大な系図が明らかにした社会情勢の変遷

 オンライン上で収集された個人のデータをもとに、1300万人11世代におよぶ巨大な系図が作成された。この系図から、結婚や移住、また寿命についての社会の変遷が浮き彫りになり話題となっている。

【こちらも】日・米・欧の遺伝子治療薬市場、2020年には738億円に急拡大

 コロンビア大学が行ったこの研究結果は、科学雑誌「Science」に掲載されている。

●誰でも登録できるサイトの情報が研究のベースに

 コロンビア大学が再構築した1300万人の系図は、オンラインサイト「Geni.com(https://www.geni.com/home)」に登録された8600万人のデータがベースとなっている。このサイトには、個人と親戚のデータを自由に登録できる。コロンビア大学の研究者たちは、登録された個人のプロフィールをグラフ理論を用いて分析した。

 その結果、数え切れないほどの家族のデータの中から、ベルギーの人口に匹敵する1300万人が関連する系図が作成された。この系図を完全に完成させるには、65世代までさかのぼる必要があることが判明している。実際には、1300万人11世代の系図となっている。

●インターネットの普及が可能にした系統学的研究

 今回の研究は、インターネットの普及とデジタル技術の発達が可能にした系統学の一環である。研究対象が、全人口にまで広がった恩恵といえる。

 研究者たちは、広範囲におよぶ膨大な量のデータを分析し、社会的経済的傾向の変遷をより俯瞰的に観察できるようになった。

●データが示す「産業革命」の社会への影響

 データの分析から明らかになったのは、18世紀半ばに起こった産業革命とそれに続く工業化が社会に与えた影響である。社会が農耕社会から工業社会へと変遷し、交通手段が発達していく過程で、職と家庭のありかたは大きく変化し結婚の選択肢にまで影響を与えるようになる。

 1750年頃までは、アメリカ人は結婚相手を生地から10キロ以内の地域で見つけていた。1950年のデータでは、その距離が100キロまで伸びている。

 また、1850年までは血縁内での結婚が一般的であり、平均すると4等親間までの結婚がもっとも多かった。現在は、血縁関係にある者同士の結婚でも平均は7等親にまで広がっている。

 ちなみに、1800年から1850年のあいだには、人々は結婚相手を探すのに平均して19キロまで移動している。研究者たちは、人々が近親との結婚を避けるようになったのは移動距離の増加ではなく、社会的規範の急速な変化が原因と推測している。

 さらに、過去300年間において少なくとも西洋社会においては、男性よりも女性のほうが移住の確率が高いことも判明した。

●系図が示す寿命と遺伝

 研究の最後の章は、遺伝と寿命について触れられている。研究では、1600年から1910年に生まれ、30年以上の寿命を生きた300万人以上のデータを分析し、モデルを構築した。

 この研究に当たっては、双生児、内戦や世界大戦中に戦死した人は対象から外されている。その結果、遺伝子は寿命において重要な役割は果たしているものの、平均寿命に影響する遺伝子の影響は16%にとどまると結論づけられている。
 

関連キーワード

関連記事