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日本はキャッシュレス社会へ移行できるのか?(1)現金の円滑な流通支えたATM
政府は27年までにキャッシュレス決済の比率を、倍増させることを決定した。現在2割のキャッシュレス決済比率を4割にする。東京オリンピックへ向けて、訪日外国人客の増加は間違いない。
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日本はいまだに支払いの8割にお札や小銭という現金が利用される、“現金大国”である。訪日外国人客の利便性を向上させて、消費喚起を呼び込むことは観光立国を推進する車の両輪だ。政府がキャッシュレス決済の普及に本腰を入れ始めたことで、今後日本でもキャッシュレスへの動きが、加速度的に広がっていきそうだ。
クレジットカードの利用率は中国や韓国で50%を超えている。アメリカでもデビットカードとクレジットカード合わせると35%となっている。近年アメリカでは現金離れが加速しており、ネット通販市場でのカード決済比率の拡大で、今後は更に現金離れが進むと見られる。これに比べると、日本のクレジットカード利用率は15~16%と確かに低い。
だが、日本でもネット通販市場は拡大中だ。中国や米国のように急ピッチではないが、16年の国内の消費者向け電子商取引(EC)市場は15兆円に拡大(前年比10%増)している。
こうした趨勢をさらに加速させると予感させるのが、今まで利用を考えたこともない場所でのカード利用の拡大だ。最近は著名な寺院や名峰の山小屋、博多の屋台ですらクレジットカードの決済システムを導入している。“お賽銭”がカードで払えてしまう時代が到来した。もちろん全てではないが、今まで利用可能かどうかを確認することすら躊躇していた施設で、クレジットカードの支払いができる時代になったということだ。
現金を円滑に流通させるためには意外にコストが掛かる。日本で流通している現金は約8兆円と言われるが、リスクの付きまとう現金を管理し輸送するためには、人件費やATMの設備投資・設備のランニングコスト等膨大な経費を必要とする。一時期、銀行は利便性をPRする一環として競ってATMの設置を進めて来た。今はコンビニが買い物客を誘引するアイテムの一つとして、店舗にATMを設置している。17年3月末でコンビニのATMは約5万5千台にもなった。都市銀行の2万2千台、地銀の4万6千台に郵貯ATMを加算すると全国のATMは約20万台となる、その充実ぶりは明らかだ。反面でATMの装置価格が1台300万円とすると、日本全体でのATMに対する投資は装置部分だけで6000億円になる計算だ。
銀行の場合、警備費と監視システムだけで毎月1台に約30万円の経費がかかると言われる。ATMのランニングコストで年間7600億円程度、それに現金輸送と現金取扱事務の人件費などを加味すると、日本の銀行業界で2兆円もの現金の取り扱いコストが掛かっていることになる。キャッシュレス社会への移行は、社会のシステムを大きく変える可能性を秘めている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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