宿主が合理的に行動すればするほど、寄生者をさらに利する――北大の研究

2017年11月20日 06:22

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カワシンジュガイの宿主サクラマスの幼魚。丸型の写真は寄生されたサクラマスのエラを示している。白い斑点がカワシンジュガイの幼生。(写真:北海道大学発表資料より)

カワシンジュガイの宿主サクラマスの幼魚。丸型の写真は寄生されたサクラマスのエラを示している。白い斑点がカワシンジュガイの幼生。(写真:北海道大学発表資料より)[写真拡大]

 サクラマスとその寄生者であるカワシンジュガイの関係において、サクラマスの合理的な行動が、カワシンジュガイを利する結果に繋がる、ということを北海道大学が明らかにした。

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 カワシンジュガイは渓流に生息する淡水の二枚貝だ。幼生期に、サクラマスという魚の幼魚のエラに寄生する。親貝は体内で幼生を成熟させ、水中に放出する。その繰り返しでライフサイクルを送っている。

 サクラマスにとってカワシンジュガイは危険な寄生者である。呼吸器であるエラに寄生されるので、呼吸に悪影響を及ぼす上、数多くのカワシンジュガイが一個体のサクラマスを狙う。一個体で数千のカワシンジュガイに寄生されていた発見例もある。死に至ることも珍しくはない。

 サクラマスは、感染源から逃れることはできる。物理的に、遠くに逃げる、という至極単純な方法でだ。だが、この行動にはリスクがある。カロリーを大きく消費することになるし、他の天敵に見つかりやすくなり、捕食されることになる可能性を高める。

 理論的には、大きく体力のある個体は逃走するべきで、小さく体力のない個体は逃走するべきではない、という予測が立てられる。調査の結果として、実際、サクラマスの行動はその通りである、ということが判明した。

 ただし、これらのサクラマスの種全体としての行動選択は、カワシンジュガイをより利する結果に繋がっている、ということが数理的に証明された。シミュレーションによると、寄生者集団の存続期間は4倍に伸び、そして生息エリアは6倍に拡大する結果になっている、という。

 今後、これと類似の関係が、ほかの寄生者・被寄生者生物の間にも見られないかどうか、の研究が行われる予定である。なお詳細は、生物学の国際誌Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciencesに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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