欧州の知の巨人:ジャック・アタリ氏に学び始めた日本の生保業界

2017年9月2日 15:56

印刷

 「欧州の知の巨人」とまで称されるジャック・アタリ氏(経済学者、欧州復興開発銀行初代総裁)は自著『21世紀の歴史』の中で、「21世紀を制する産業は保険」と言い及んでいる。

【こちらも】超低金利下、方向定まらぬ生保の資産運用ぶり

 疑問を抱く向きも多いかと思う。日本は「保険大国」といわれる。日本人の生命保険加入率は80%超。支払保険料は米国に比べ「4倍に近い」ともされる。この限りでは日本の保険市場は「飽和状態」と言わざるをえない。が、アタリ氏の「主張」を知るほどに、「日本の保険市場も拡充の余地あり」と納得させられる。アタリ氏が説く論を要約すると、こんな具合だ。

 「21世紀は不確実性の時代。言い換えれば不安な時代。当然“不安から守って欲しい”“不安から解放されたい”というニーズがこれまで以上に高まる。対応しうる産業として、保険ビジネスへの需要があらためて増す。保険会社は顧客情報を豊富に保有している。だからリスクの細分化を図る商品開発ができる。豊富な情報は商品開発に止まらない。例えば食事のありかたなど、リスクをミニマム化しうるポリシー(規範)を発信できる立場にある。ポリシーを忠実に実行してもらいその結果を把握することで、顧客情報はさらに増えさらなる新商品投入のベースになる。こうした循環が不安時代の対応産業として、保険産業の存在感を高めていく。規範は日を追うごとにボーダレス化が進んでいく。保険産業、保険業界は国家の補完役から国家を制する立場になる。不安の時代は、ビッグデータの時代でもあるからだ」。

 昨今、生保業界を中心にアタリ氏の論を裏付ける(論にならう)動きが起こり始めている。例えば第一生命が顧客に無料でアプリを提供している「健康第一」の売りは、スマホで撮った自分の顔が将来どのようになるかを想像できる機能。体重と身長から算出する体格指数(BMI)と年齢を入力すると何歳でどの位の肥満になるか、どんな顔つきになるかをシミュレーションする。「楽しみながら、健康的な生活習慣を始めるキッカケにしてもらえれば幸い」(第一生命)。

 アクサ生命の「健康アプリ ヘルスユー」は、いくつかの現在の生活状態に関する質問に答えると「ご飯の大盛りはやめるべき」といった指示が表示される。

 新たな新商品(ヒット商品)開発には「いかに顧客に関するビッグデータを保有するかが肝心」と日本の保険会社も、気づき始めたようである。(記事:千葉明・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事