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九州新幹線長崎(西九州)ルート、全面開業はどうなる?
九州新幹線長崎ルートの始点となる博多駅。(c) 123rf[写真拡大]
1972年に基本計画が提出されてからはや半世紀近くになる九州新幹線長崎(西九州)ルートだが、開業の遅れが2015年に国交省から発表された。暫定開業を2022年に見据えているものの全面開業はさらにそれより3年の遅れをとり、2025年の予定としている。
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遅延の理由は「車両の開発が間に合わない」こと。国交省の表明は、関係者ならびに鉄道ファンを少なからず落胆させている。
そもそも九州新幹線長崎ルートを走る新型の新幹線はフリーゲージトレイン(FGT)だ。レール幅の異なる新幹線と在来線の双方の区間を走行できる軌間可変電車だったが、耐久走行試験中に車軸の摩耗が見付かり、安全性に関わる問題点が解決されていないとの理由から導入計画が頓挫してしまった。
7月の与党検討委員会で、JR九州は「FGTは導入困難」と明言。暫定開業はフル企画で走る区間と在来線の乗り換え・乗り継ぎをリレーで行う方式でほぼ固まっている。全面開業とはこの在来線へのリレー方式をFGT式新幹線が走るという構想だ。
FGT式新幹線導入の理由は、在来線へ乗り入れやすく、関西方面からの客を導引しやすいことをそのメリットに掲げていたからだ。今までは在来線への乗り換えからなかなか集客できなかったエリアまで関西方面から直接客の導引ができ、大きな経済効果を生むと期待されていた。
さらに新型の車両の導入は何よりも大きな話題であり魅力的な集客材料になる。ところが車軸が当たるという安全性に疑問符を投げかける事実が発覚したことで、胸算用に狂いが生じたのである。
FGTの導入に消極的なのはなにも安全性からだけではない。FGTの車両維持コストは一般的な新幹線に比べ約2倍、年間50億円増えるという試算もその一因である。車軸の不具合が改善されるのはいつになるのか、それまでにかさむ開発費も負担になるのは否めない。
この与党検討委で長崎県は、全線フル規格化を初めて要望している。本格開業がさらに遅れると沿線のまちづくりに影響を及ぼすと見込んだからだ。一方、佐賀県は、全線フル規格化による負担額が県の年間土木費の2倍を超えることからも「議論できる環境にない」と述べるにとどまっている。
では国はどうだろうか。車軸の摩耗対策は「もう一息」と手応えを強調するも、明確な善後策が示されているわけではない。にも関わらずFGT開発は継続する考えが示されており、2017年5月の予算には、暫定開業に向けての追加工事費を計上した。
九州新幹線長崎(西九州)ルートにはそれに関わる4者(国、JR九州、長崎県、佐賀県)のそれぞれの思惑が交錯し、予断を許さない状況であると言える。事実、国交省の運輸政策トピックスには同ルートの完成予定を「平成34年」とし、さらに「可能な限り前倒し」としているがどのような形で全面開業を迎えるのかも見えない状況だ。(記事:M_imai・記事一覧を見る)
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