間仕切りメーカーの「こだわり」が生んだ介護用品

2017年6月9日 12:04

印刷

グッドデザイン賞を受賞した「Dear-d(ディアード)」(コマニーの発表資料より)

グッドデザイン賞を受賞した「Dear-d(ディアード)」(コマニーの発表資料より)[写真拡大]

 前向きな「こだわり」は、私生活でも企業活動でも不可欠。そう痛感させられる企業と出会った。

【こちらも】金沢工業大学とコマニーが震度7にも耐える高耐震間仕切を共同開発、商品化

 主にビルなどのパーテーション(間仕切り)を手掛け、斯界で首位級のコマニー(東証2部)が介護関連事業に進出したのは2004年のこと。会社四季報を繰っても同社に関する記述の中には介護の「か」の字も見当たらない。だが、高齢者住宅新聞の西岡一紀編集長は「同社製のドアが多くの介護施設で使用されている」とする。

 進出の契機を経営企画部では「営業マンが福祉施設の居室の入り口の大方がスチール製であることに着目し、これでは入居者にとってこれまで住んでいた生活環境と比べあまりにも冷たい、と商品開発部隊に進言したのがキッカケ」と振り返る。

 同社に詳しいアナリストは「コマニーはシェア拡大意欲が旺盛」と評する。早々に現在シリーズ化されている“やさしいドア”を開発するのと同時に05年には東京・名古屋・大阪の拠点に「福祉環境営業部」を設け営業強化を図った。順調に伸びた。「お陰様で14年ぐらいからは医療法人から“病院も御社が手掛ける福祉施設同様の温かい空間にしたい”という要望が寄せられ、現在は病院にも進出しております」など、伸長の証左といえよう。

 商品開発に際しては、微に入り細に入った調査が繰り返される。

 16年に「グッドデザイン賞」(公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞した「Dear-d」など好例。開き戸に比べ開閉の際の「デッドスペースが半分以下」を狙って開発に当たった。取引先施設に要請し、車椅子利用者や片麻痺の人複数人に協力を仰ぎ試作品の体験実験を繰り返した。施設を訪れる子供達にも気配りし、営業担当者が我が子を実験台(!?)にした。結果として件の賞の栄誉に浴した。

 こだわりも、中途半端では意味をなさない。徹底しての姿勢が肝要。

 Dear-d開発の体験実験では前記に加えて乳幼児を抱えた母親や、車輪の付いたアタッシュケースを携帯しての実証実験も行われた。そこには駅などで最近よく目にするようになった「車椅子対応トイレ」「授乳用ブース」への適用が視野にあった。また体験された読者諸氏も多いだろうが空港や駅などでトイレを使おうとする時、スペースをとるアタッシュケースを何処に置いておいたら良いか迷われた方もおられるはず。アタッシュケースと一緒に入れるトイレ、具体的には「空港のトイレも商圏に」という考えがあったという。

 そうした「こだわり」のビジネス展開に一度着目してみてはいかがだろうか。(記事:千葉明・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事