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末梢神経系の髄鞘が形成されるメカニズムとは
神経細胞の軸索に巻き付いている髄鞘は、絶縁体として働くだけでなく、神経細胞と密接に情報交換を行いながら様々な神経機能を調節している。髄鞘に異常が生じると、神経細胞が正しく働くことができなくなるために様々な病気を引き起こすことが知られている。これまでの研究から、髄鞘の形成に関わるタンパク質は分かってきていた。タンパク質は修飾されることで重要な働きができるようになるが、髄鞘のタンパク質がどのような修飾を受けているのかはこれまでよく分かっていなかった。
今回、自然科学研究機構 生理学研究所の吉村武助教と池中一裕教授、大野伸彦特任准教授、東京薬科大学の林明子講師、山口宜秀准教授、馬場広子教授、名古屋市立大学の矢木宏和講師、名古屋大学の内村健治特任准教授、門松健治教授、自然科学研究機構 岡崎統合バイオサイエンスセンター/分子科学研究所の加藤晃一教授、米国クリーブランドクリニックらの共同研究グループは、独自に開発してきたタンパク質の糖鎖修飾を網羅的に解析する手法に改良を加え、髄鞘のタンパク質を調べた。
その結果、マウスやブタなど多種多様な哺乳類の末梢神経系の髄鞘には硫酸化された糖鎖を持つタンパク質が多量にあることを見つけた。さらに、指定難病のシャルコー・マリー・トゥース病の原因遺伝子が作るP0タンパク質が高レベルで硫酸化された糖鎖を持つことも明らかにした。糖鎖構造の網羅的解析から硫酸化の様式に法則を見つけ出し、糖鎖を硫酸化する酵素を突き止めた。その酵素を持たないマウスでは異常な髄鞘が観察され、軸索も壊れていることがわかったという。
以上の研究結果から、タンパク質に硫酸化された糖鎖が修飾されることが末梢神経系の髄鞘形成に重要であることが明らかとなった。タンパク質の糖鎖が硫酸化されなくなると髄鞘が正常に機能できなくなり、神経機能の障害が引き起こされると考えられる。この研究により発見されたことは末梢神経系の髄鞘が作られるための基本的なメカニズムであり、様々な末梢神経障害の病態解明や治療法の開発に役立つと期待されるとしている。
この研究は日本学術振興会の科学研究費補助金と文部科学省の新学術領域「グリアアセンブリ」・「神経糖鎖生物学」・「動的秩序と機能」、日米科学技術協力事業「日米脳」、自然科学研究機構の生理学研究所・計画共同研究および若手研究者による分野間連携研究プロジェクトによる支援を受けて行われた。(編集担当:慶尾六郎)
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※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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