JAXA、「ひとみ」トラブル発生の推定メカニズムを公表

2016年4月16日 22:54

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記事提供元:スラド

JAXAは15日、X線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」の状況に関する記者説明会を開催し、現在有力と考えられるトラブル発生の推定メカニズムを明らかにした(記者説明会資料: PDFJAXA TVファン!ファン!JAXA! — トピックス)。

3月26日に通信異常が発生したASTRO-Hでは、姿勢異常や物体の分離が発生していることも確認されている。通常、ASTRO-Hは慣性基準装置(IRU)とスタートラッカ(STT)の情報を用いて姿勢制御を行う。STTは捕捉モードで星の位置から姿勢情報を計測し、追尾モードで姿勢情報を出力する。姿勢変更を実施した後にはIRU誤差推定値を一時的に増加させ、STTが出力した姿勢情報により補正を行うのだが、IRUとSTTの姿勢決定値の差が1度以上となった場合はSTTのデータを取り込まない設計になっているという。

ASTRO-Hは3月26日に姿勢変更運用を実施したが、補正が開始されてすぐにSTIが捕捉モードへ移行してしまい、IRU誤差推定値が大きな値のまま保持されたと推定されている。その後STTは再び追尾モードに移行したが、姿勢決定値の差が大きくなっていたため出力データは取り込まれなかった。その結果、実際には回転していない衛星が回転していると判断され、回転を止めようとしたリアクションホイール(RW)の作動が衛星を回転させるという姿勢異常が発生したと推定されるとのこと。ただし、この時点での回転は17時間で1回転する程度のゆっくりとしたものだった。

(続く...)
その後、姿勢異常のため磁気トルカによるRWのアンローディングが正常に働かず、RWに蓄積された角運動量が制限値を超えたことで、スラスタによる姿勢制御が行われたと推定される。しかし、2月28日に再設定されたスラスタ制御パラメータが不適切なものであったため、想定とは異なる噴射が行われて回転速度が増加し、太陽電池や伸展式光学ベンチ(EOB)など、回転力に弱い部分が分離したと推定されている。

現在はバッテリーが枯渇していると推定されるが、通信が確立できていないために充電機能をオンにできない状態だという。当面は電力・通信の確立に向けた運用や状態を推定するための地上観測、推定が残る部分の検証などを行っていく計画とのこと。

なお、ASTRO-Hは本体と識別されている部分を含め、11物体に分離しているとみられる。このうち2物体については、4月29日(ID: 41443)と5月10日(ID: 41438)に大気圏再突入が予測されている。JAXAではこれらの物体が大気圏中で燃え尽きると推定しているとのことだ。 スラドのコメントを読む | ITセクション | JAXA | スラッシュバック | バグ | 宇宙 | IT

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