名大、植物受精卵を行きたまま観察するシステムを開発

2015年7月15日 22:44

印刷

シロイヌナズナの花と胚発生の模式図。被子植物では、胚発生は将来種子になる胚珠の中で進行する。受精卵は著しく細胞伸長した後、小さい頂端細胞と大きい基部細胞へと大きさの異なる2つの細胞に分裂(不等分裂)する。頂端細胞は胚を形成し、最終的には植物体を形成する。(名古屋大学と科学技術振興機構の発表資料より)

シロイヌナズナの花と胚発生の模式図。被子植物では、胚発生は将来種子になる胚珠の中で進行する。受精卵は著しく細胞伸長した後、小さい頂端細胞と大きい基部細胞へと大きさの異なる2つの細胞に分裂(不等分裂)する。頂端細胞は胚を形成し、最終的には植物体を形成する。(名古屋大学と科学技術振興機構の発表資料より)[写真拡大]

  • 受精卵分裂と胚発生のライブイメージング。受精卵は分裂し、胚と胚柄を形成する。緑色は細胞核を、ピンク色は細胞膜を示す。胚細胞は分裂する方向を変えながら丸い組織を作っていくが、胚柄細胞は縦にのみ分裂し、棒状の組織を作っていく。胚に2つ細胞があるときに2細胞期と呼ぶ。数字は観察開始からの時間、スケールバーは20マイクロメートルを表す。(名古屋大学と科学技術振興機構の発表資料より)
  • 受精からの細胞分裂系譜図。横軸の長さはそれぞれの細胞が分裂にかかる時間を示す。バーの色は上図の細胞の位置を示す。点線部分は未計測です。頂端細胞から発生する胚細胞は、2−4細胞期ではそれぞれ同じ周期(緑)で分裂しているが、8細胞期では上(紫)と下(青)、16細胞期では内(薄い色)と外(濃い色)で分裂周期が異なっていることが分かる。また、基部細胞から発生する胚柄細胞の分裂周期は胚細胞とずれていることも分かる。(名古屋大学と科学技術振興機構の発表資料より)

 名古屋大学の東山哲也教授・栗原大輔特任助教らは、植物の受精卵が分裂し、発生する様子を生きたままリアルタイムで観察できるシステムを開発した。

 受精卵が細胞分裂を繰り返し、からだを作っていく胚発生過程は生命の根幹を成しているが、植物の受精卵は花の奥深くに埋め込まれているため、動物のように受精卵の分裂から胚発生までの一連の過程をリアルタイムで観察することはできなかった。

 今回の研究では、新しいマイクロピラーアレイを開発することによって、胚珠の成長を妨げることなく、長時間安定して胚珠を保持、培養する系を確立した。そして、この胚珠培養技術と、何層もの細胞により厚く覆われた胚珠の中にある胚を高感度に撮影できる顕微鏡システムを組み合わせることによって、受精卵から後期胚までを通じて胚発生のライブイメージングに初めて成功した。

 実際に、このライブイメージングによって個々の細胞の分裂周期を解析し、シロイヌナズナ初期胚発生の細胞分裂系譜を作製したところ、受精卵の不等分裂で生じた頂端細胞は10.7時間後、もう一方の基部細胞は12.8時間後に再び分裂すること、つまり頂端細胞と基部細胞は受精卵分裂直後から異なる細胞特性を持っていることが分かった。

 さらに、頂端細胞がダメージを受けると、隣にあるすでに胚柄細胞へと細胞運命が決定した細胞が、失った頂端細胞を補うために新たに頂端細胞へと運命転換が起こることも明らかになった。

 今後は、本研究で開発された植物受精卵・胚発生のライブイメージング・光顕微操作システムを用いることで、世界中で胚発生研究が加速していくと期待されている。

 なお、この内容は「Developmental Cell」に掲載された。論文タイトルは、「Live-Cell Imaging and Optical Manipulation of Arabidopsis Early Embryogenesis」(シロイヌナズナ初期胚発生過程のライブセルイメージングと光顕微操作)。

関連記事